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エンゲル係数低下でも広がる生活格差

10月からこう変わる 値上げの波、重荷一段と: 日本経済新聞 (nikkei.com)

経済的なゆとりを示す「エンゲル係数」が足元で低下傾向にあります。エンゲル係数は家計の消費支出に占める食料費の割合であり、食料費は生活する上で最も必需な品目のため、一般に数値が下がると生活水準が上がり、逆に数値が上がると生活水準が下がる目安とされています。

最近の我が国のエンゲル係数低下は、支出全体の回復と食糧・エネルギー価格の上昇が要因となっています、その背景には、明らかにコロナショックとロシアのウクライナ侵攻が関係しています。つまり、コロナショック以降に行動制限が敷かれていたことで機会を奪われてきたサービス消費が持ち直す一方で、ロシアのウクライナ侵攻に伴う化石燃料や農産物等の資源高が食料品やエネルギーの価格を押し上げてきたことがあります。

一方で、物価上昇に伴う実質実収入の減少は、エンゲル係数の上昇に寄与しています。そして、新型コロナ感染に対する恐怖心緩和に伴うサービス支出の拡大は生活水準の上昇といえますが、食料品の価格上昇以上にエネルギー価格が上昇することに伴う相対価格の低下や、食料品の購入量減少に伴うエンゲル係数の低下は、必ずしも生活水準の上昇とは言えないでしょう。

世界的な金融引締め等に伴う世界経済の減速後、一次産品価格はピークアウトしつつありますが、世界の食料・エネルギー需給は、中長期的には人口の増加や所得水準の向上等に伴う需要の拡大に加え、脱炭素化や都市化による農地減少等も要因となり、食料・エネルギー価格の上昇トレンドは持続すると見ておいたほうがいいでしょう。

全体の物価が下がる中で食料・エネルギーの価格が上昇すると、特に低所得者層を中心に購入価格上昇を通じて負担感が高まり、購買力を抑えることになります。そして、低所得者層の実質購買力が一段と低下し、富裕層との間の実質所得格差は一段と拡大するでしょう。

更に深刻なのは、我が国の低所得者世帯の割合が高まっている一方で、高所得者世帯の割合が低水準にあることです。こうした所得構造の変化は、我が国経済がマクロ安定化政策を誤ったことにより企業や家計がお金をため込む一方で政府が財政規律を意識して支出が抑制傾向となり、結果として過剰貯蓄を通じて日本国民の購買力が損なわれていることを表しています。そして、我が国では高所得者層の減少と低所得者層の増加を招き、結果として家計全体が貧しくなってきました。

こうしたことから、本当の意味でのデフレ脱却には、消費段階での物価上昇だけでなく、国内で生み出された付加価値価格の上昇や国内需要不足の解消、単位あたりの労働コストの上昇が必要となるでしょう。そうなるには、賃金の上昇により国内需要が強まる『良い物価上昇』がもたらされることが不可欠といえるでしょう。

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