ワールドカップサッカーで考える、デジタルトランスフォーメーション
スポーツにビジネスは学ぶことが多い
ビジネスの現場で、デジタルトランスフォーメーションは、重要なテーマです。デジタルトランスフォーメーションを行うことは、企業の成長には重要だからです。一方ビジネスの現場で、デジタルトランスフォーメーションを真剣に考えると、時に「息の詰まる」議論になります。そこで、私は時々、ビジネスの議論や検討項目を、スポーツの事例から考えることがあります。
このような取り組みは、デジタルトランスフォーメーションの領域だけでなく、他の領域でも有効です。過去の私の例では、データサイエンスについて、「マネー・ボール」というオークランド・アスレチックスの実話から、学んだこともあります。
ワールドカップサッカーの楽しみ方にもデジタルトランスフォーメーションが
2022年は、ワールドカップサッカーがありました。このワールドカップサッカーは、デジタルトランスフォーメーションを考えるヒントを私にくれました。
そのヒントの一つが、「ネット中継」です。この記事にもあるように、今回日本では、ワールドカップサッカーが、「ネット中継」されました。
今までスポーツの生中継は、テレビ局がテレビで放映してたのですが、今回はインターネット通信事業者が、インターネットで配信していたのです。ネット配信の番組を見た後、私のようなシニアは、「テレビ中継」も「ネット中継」も違いはないと、感じたはずです。
この感想は、生まれた時にテレビしか、つまりインターネットがなかった人の感想です。生まれた時から、ネット中継がある世代は、「そもそも、テレビって、テレビの機械のことで、何写しても良い機械でしょう。」というでしょう。
今回のワールドカップサッカーのネット中継は、ある気づきを与えてくれたのです。その一つは、ネット中継は、実はどの映像機器で見ても良いということです。外出先で、スマートフォンで見ても、深夜勤務の休憩時間にパソコンで見ても、自宅でスマートフォンをテレビに接続しても良いのです。今までのテレビは、実はテレビ番組受信機とテレビジョンが一緒になっていましたが、今回のネット中継は、「コンテンツ受信装置」と「映像視聴装置」を、好きに組み合わせて良いのです。
つまり、今回のワールドカップサッカーのネット中継では、生活者に、「コンテンツ受信装置」と「映像視聴装置」の分離というデジタルトランスフォーメーションを起こしたのです。
そしてこのことを、一般化すると、デジタルトランスフォーメーションとは、「デジタル化」と「トランスフォーメーション」のイタレーションで進化するという考えを、私に与えてくれました。その「デジタル化」と「トランスフォーメーション」のイタレーションについて、少し丁寧に説明しましょう。
大相撲の「制限時間いっぱい」もある意味デジタルトランスフォーメーション
過去の「デジタル化」と「トランスフォーメーション」のイタレーションのスポーツの事例が、いくつかあります。以下の事例では、厳密には、デジタル化ではないのですが、「テレビ中継」を「デジタル化」として考えています。
実は、日本の国技の大相撲も、「デジタル化」と「トランスフォーメーション」のイタレーションがおきています。簡単に図示してみました。
テレビ中継がない頃の大相撲には、取り組み時間という概念はありませんでした。今、テレビの大相撲のテレビ番組は、ほぼ必ず夕方6時に終わります。この定時に大相撲の取り組みが終われるように、大相撲のルールを、国技である大相撲は受け入れるのです。それが、「時間です」という概念です。
大相撲の行司は、ある意味テレビ局のタイムコントローラーを兼ねているのです。そして、すべての取り組みが夕方6時に終わるように、取り組みを土俵の上で、進行しているのです。きっと、「時間です」の導入には、大相撲の関係者のさまざまな議論があったはずです。テレビに大相撲を合わせるのか。大相撲の取り組みの伝統を変えるのか。のような議論があったのではないでしょうか?しかし、大相撲はルールを変更し、テレビ番組と親和性の高いスポーツにトランスフォーメーションしたのです。
日本の企業のデジタルトランスフォーメーションが起きない大きな理由のひとつは、既存の業務をトランスフォーメーションしないことです。「デジタル化」をおこなったら、既存の業務に「無駄」や「改善点」が出てくるのです。しかし、日本の企業では、頑固なまでに既存の業務を変えずに「デジタル化」するのです。結果、不思議なデジタル化が進み、あるべき「デジタルトランスフォーメーション」までたどり着かないのです。
もし、大相撲が「時間です」の導入を行っていなかったら、おそらくテレビの大相撲中継の視聴率は、今ほど高くないのかもしれません。いや、番組編成の予定が立ちにくいので、テレビ中継が続いていなかったかもしれないのです。
デジタル化したら、次に「既存のコト」を「トランスフォーメーション」する。そして、再度、デジタル化する。この繰り返しが、デジタルトランスフォーメーションなのです。
MLBの新ルール
次に、アメリカのベースボールです。2023年シーズンから、投球間の時間制限が導入されます。これは、おそらく、テレビ中継が他のインターネットの動画コンテンツと戦うために導入されたルールなのでしょう。
そして、MLBは実に多くの改革を行っています。ここで重要なのは、MLBのデジタルトランスフォーメーションに、顧客視点があることです。ファンのための改革を行い続けています。
これは、ビジネスにとっても重要な視点です。ビジネスにはお客様がいます。または相手がいます。働いている人の働きやすさと、顧客・相手のニーズも、デジタルトランスフォーメーションの一つのテーマなのです。
次回のワールドカップサッカーは、ぜひとも映画館のIMAXシアターで観戦したい
さぁ、4年後のワールドカップサッカー、開催地はアメリカなどで、また時差があります。きっと、次回もネット中継されるでしょう。
次回は、「コンテンツ受信装置」と「映像視聴装置」の分離は、ますます進むのでしょう。FIFAも、今までの放映権という概念だけでは、権利関係の契約書の整理ができなくなるはずです。
外野の単なる希望を言うと、8kの映像はネットで配信できるはずで、ぜひとも8kの映像で、大きな画面でサッカーを観戦したいです。問題は、そのために、既存の放映権の契約書を、どこまでトランスフォーメーションできるのか、これが、次のワールドカップサッカーのトランスフォーメーションかもしれません。
数例で考えましたが、デジタルトランスフォーメーションは、「デジタル化」と「トランスフォーメーション」のイタレーションなのです。ぜひ、既存業務のトランスフォーメーションを、正面から挑戦してみましょう。