Web2とWeb3は置き換えられるのではなく、並存する
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Web2とWeb3は置き換えられるのではなく、並存する

高木聡一郎(東京大学大学院教授)

前回NFTについて書いたが、NFTと同様に「Web3」という言葉も、近年急速に注目を集めている。

「Web3」と言うからには、「Web1」や「Web2」からバージョンアップし、不可逆的に進化しているような印象を持つ人もいるだろう。ちょうど、携帯電話の電波仕様が1Gから進化して5Gになったように。5Gが普及すれば、4Gに戻ることはない。

しかし、本当にWeb3が普及すれば、Web2的なものは置き換えられ、不可逆的な変化となるのだろうか。今回は、Web2とWeb3の関係から、今後の展開を考えてみたい。

Web2とWeb3との違いは何か

Web3(Web3.0と呼ばれることもある)の起源は、イーサリアム共同創設者のGavin Woodの論考に求められることが多い。Gavin Wood自身の記事によると、以下のような記載がある。

我々は、今実現できていることの全てを行えるピアツーピアのWebを構築したい。ただし、情報の流れを管理するサーバーも権威(authority)もないものだ。

Wood氏は、現在のウェブが既存の社会システムを強化する方向で発展してきたために、少数の独占者によってコントロールされるものになってしまったと批判している。

また、Wood氏のインタビューを掲載しているWired誌では、Web3を「ブロックチェーンに基づき、分散化(decentralized)されたオンラインのエコシステム」と表現している。また、この記事の中で、Wood氏はWeb2.0を「非常に中央集権化されたモデルのなかで存在している」と述べている。

ここから言えることは、Web3は、ブロックチェーン技術に象徴される「分散型」の技術的アーキテクチャに基づき、中央集権的組織を廃しつつサービスを実現し、情報のコントロール権をユーザー側に保持する考え方だと言えるだろう。

確かに、ビットコインやイーサリアムはそのような思想に基づき設計されているし、DeFi(分散型金融)における分散型取引所やレンディングも同様である(ただし、実際の運用においてマイナーたちの寡占化があり得る点については、結果論とはいえ、別途検討が必要な点である)。

前回取り上げたNFTも、マーケットプレイスへの依存には課題があるものの、原理的にはNFT自体の取引や管理を、中央集権的組織に依存せずに行えるようにするものである。

そして、Web3の文脈における「Web2」とは、ブロックチェーン等の自律分散型技術の誕生から過去を振り返って、今までのサービスを表現した言葉だ。そこには、Web界の大企業によって展開されるサービスがある。それらをWeb2と位置づけ、それらと対比することによって、「Web3」の新しさと重要性を表現しようとしたものである。

中央集権と分散に関する組織経済学の視点

それでは、Web2はWeb3によって置き換えられ、不可逆的な変化となるのだろうか?この点について筆者は2019年に書籍に以下の論文を刊行している。

Takagi, Soichiro. 2019. “Does Blockchain “Decentralize” Everything?” in ed. Melanie Swan, Jason Potts, Soichiro Takagi, Frank Witte, Paolo Tasca, Blockchain Economics: Implications of Distributed Ledgers. World Scientific.

タイトルは「ブロックチェーンは”全て”を分散化するか?」というものだ。当時、金融サービスはもちろんのこと、マーケットプレイスやクラウドソーシングなど、ありとあらゆるサービスを「分散化する」試みが世界中で行われていた。

確かに様々な業種で分散化の可能性はあるものの、ステークホルダーにメリットがあるかという視点で、どこまで分散化にメリットがあり、可能なのかという疑問があった。そこで参照したのが、組織経済学の理論であった。

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組織構造に影響を与える要因(出典:Takagi 2019)

組織経済学では、階層構造(ヒエラルキー)か、市場(マーケット)の、どちらに合理性があるかをテーマに長く研究が行われてきた。Web2とWeb3の観点に置き換えれば、ヒエラルキーは中央集権的組織であり、マーケットは分散的組織である。ブロックチェーンによる「分散」は、組織経済学の視点から見れば、マイニングの報酬と費用負担、競争に基づいた、マーケット的な組織構造である。

一般的に、この2タイプ間の選択には、経営者の視点から、不確実性と、機会主義的リスクという2種類の取引コストが重要な役割を果たす。しかし上記の論文では、それに加えて働き手の視点から、収入の安定性と、意思決定の効率性という視点を加えて分析を行った。

そして、ビットコインをケーススタディとして分析し、ビットコインの分裂に見られるようにマイナーの投票には意思決定の効率性に課題があり、一方で、ビットコイン・コアの開発コミュニティでは階層組織的な構造が採用されていることを示している。

イノベーションにおけるリーダーシップの重要性

ここから言えることは、分散型技術が存在するからと言って、分散型の構造が採用されることは自明ではないということである。

そして、どのような組織構造が最適かは、その業務において、不確実性、機会主義のリスク、収入の安定性、意思決定の効率性などの要素がどの程度存在し、重視されるかによっても変わってくる。(厳密に言えば、組織構造とその組織が提供するサービスは異なるものだが、本稿の論点がサービスの信頼の提供形態に関わっており、さらに言えば、Web3とはサービスのDAO化という側面も持っているため、組織とサービスの構造は緊密に連携していると考える。)

特に、今後のビジネスやイノベーションにおいて重要な役割を果たすのが、意思決定の効率性である。イノベーションにおいては、ユーザーのニーズを的確に把握し、迅速にサービスを展開したり、修正する必要がある。こうした意思決定を行う上で、ブロックチェーン型の意思決定システムが脆弱であることは、Segwit導入を巡るビットコインの分裂にも示されている。

また、イノベーションを進めて行くうえでは、分散型技術の開発現場でさえ、リーダーを中心とした階層構造が見られる。そこには、その技術に賭けるリーダーの熱意や、そこに集まる人々のフォロワーシップやチームワークが存在する。分散型のアーキテクチャが、こうしたリーダーシップに基づくイノベーションの力を超えられるかどうかも課題だ。

一方で、前回NFTについて書いたように、分散型技術は、情報や価値のコントロール権を、特定の事業者に依存せずに、ユーザー側で保持できる点にメリットがある。従って、そのようなコントロール権の分散にメリットがある部分については、Web3的要素の普及が進んでいくだろう。しかし、ユーザーのニーズをくみ取り、サービスを企画し、展開していく機能は、依然としてリーダーシップを発揮できる組織構造に一日の長がある

それぞれに持ち味や得意分野が異なる中、中央集権的組織とそれに基づくサービスは今後も当面の間持続し、一部の業務では、それらへのオルタナティブとしてのWeb3的なサービスが実現するだろう。また、FacebookがLibraを構想したように、中央集権的組織がそのサービスの一部にWeb3的要素を取り入れるということも増えてくるだろう。このように、Web2とWeb3のサービスは、互いに並存したり、連携しながら展開していくのではないだろうか。


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高木聡一郎(東京大学大学院教授)
東京大学大学院情報学環教授。既存の枠組みを超えて内部要素を組み替える「デフレーミング」概念をはじめ、ビジネスモデル、イノベーション、産業構造などを研究しています。詳細はhttps://twitter.com/soichirotakagiをご覧ください。