完全失業率2.6%の国で人手不足を解消することの難しさ
業界として人手不足を解消する難しさ
日本の雇用は転換期にあると言われ、数多くの課題が存在する。その中でも、深刻な事態にありながら、なかなか打開策を見出すことができていないのが人手不足問題だ。
引用している日経新聞の記事にあるように、小売りなどの業界によっては3割以上の企業が人員の充足ができていない状況にあるという。人員の充足ができないということは、足りない人員の分を既存社員でやりくりしなくてはならない。そのため、業務負担が増加するのにもかからわず、給与は上がらないという状況に陥る。その結果として、現場は疲弊する。
先が見えない現場人材の人手不足
同じ人手不足といっても、企業によって人手不足の事情は変わってくる。大別すると2つの人手不足がある。1つ目は、希少人材の不足だ。これはエンジニアや経営幹部候補のように、労働市場に求めているスキルや資質を持った人材が不足している状況だ。このケースだと、希少な人材を各社が奪い合うことになる。2つ目は、労働集約型産業での現場人材の不足だ。小売りや飲食、建築のように、多くの現場従事者の労力によって事業が成り立っている業種では、労働者の質よりも量が重視される。
1つ目の人手不足は、世界的に同じ状況がみられる。特に、米国では人材の獲得競争が激しく、労働条件の釣り上げ競争が起きている。解消のためには2つの手段がとられている。1つは、海外から採用する方法だ。楽天やソフトバンクのような資本力のある大企業だと、海外大学から直接採用する動きがみられる。もう1つは、企業が求めるスキルや資質を身に着けるように教育訓練をして人材の供給量を増やす方法だ。このアプローチは時間がかかるだけではなく、教育機関との連携も欠かせない。しかし、子供の理科離れが2000年代から問題視されているように、現状の教育システムは成果を出せていない。
2つ目の人手不足は、1つ目の人手不足よりも深刻だ。これは単純に、日本の労働人口が経済活動を支えるのに不足していることが原因だ。ビジネスモデルとして、労働集約型産業の担い手は高等教育を受ける必要はなく、賃金も低く抑えられる。この構造ができたのは1950年代に地方の若者を金の卵と呼んでいた時代だ。1960年代前半には中卒で就職する若者が全体の約4割で、1990年代前半は高卒で就職する若者が3割強であり、十分な供給量があった。しかし、今や高等教育機関(短大含む)への進学率は6割を超え、高学歴化が進んでいる。加えて、人口減少と少子高齢化が供給量の減少に拍車をかけている。
だが、人口減少は急に起きたわけではなく、早くから予測できていた社会変化だ。そのため、1990年代には非正規社員の規制緩和によって、多様な働き方を許容することで人手不足の対策としてきた。そして、ここ10数年は、女性活躍推進や高齢者雇用の促進、障害者雇用の増加など、労働人口の枠を広げることで対策してきた。
しかし、それも限界がでている。国内で充足できないのであれば、外国人で賄おうというのが自然な流れだが、外国人労働者の雇用も簡単ではない。先だって外国人雇用に門戸を開いた欧州の現状をみると、治安の悪化や自国民との雇用の奪い合いなど、容易に歓迎しにくい。現状だと、特定技能で外国人の雇用を増やそうとしているが、本来は育成目的である技能実習制度で人手不足の手段として用いられている。
この状態で採用担当ができることは、競合他社よりも魅力的な労働条件や職場環境を準備して、労働者を奪い合うことになる。人口減少だけではなく、日本は失業率も2.6%しかない。他の先進国と比べても低い水準だ(米国 3.6%、EU 6.8%)。特に、若年層の失業率の低さが際立っている。需要に対して供給が絶対的に不足している。それに対して、企業ができることは少ない。企業としては、現場の労働環境を整え、就職先として選んでもらえるように魅力を高める創意工夫で対処療法していくことがまずできることだろう。
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