英「ロイター・デジタル・ニュース・レポート2020」が示す世界の有料購読によるニュース消費のトレンド
毎年6月に公開されるデジタルニュース業界における毎年恒例の調査レポート、英オックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所による「Digital News Report 」の2020年版が先日公開されました。
このレポートは今年で9年目を迎え、世界40市場、8万人を対象にした大規模で包括的な調査という点でメディア業界の中ではよく知られていますが、「ニュース消費の今」に興味のある方であれば一見の価値がある内容となってます。概要は以下の短尺動画で視聴することができます。
レポート全体で111ページという分量なので全編を熟読するのは難しいのですが、豊富なチャートや分かりやすい見出しで構成されているので興味のあるテーマを覗くだけでも新しい発見があるかもしれません。大きな構成としては「メディアの信頼性」「ニュース消費におけるソーシャルメディアの役割」「ミスインフォメーション・ディスインフォメーションの危機」「ニュース消費媒体としてのニュースレター、ポッドキャスト、ビデオ」「ローカルニュースの危機」などのテーマ毎に詳しく紹介されているのですが、おそらく最も注目されている、少なくとも個人的に注目しているのは、「増加傾向にあるニュースの有料購読」のトレンドです。
以下のグラフからも分かるように、米国においては2016年のトランプ大統領当選直後の有料購読者急増を見せた後、2019年以降に上昇傾向にあることが分かります。ただし、今回の調査では新型コロナウィルス感染拡大後の急速な購読者増加分の全体的な数値がまだ盛り込まれてない部分も十分にあることが予想されるため、1年後の調査結果ではより鮮明に有料購読化の傾向が裏付けられることと思われます。
ただ、注意すべき点は有料購読が世界中全ての地域で進んでいる訳ではない点です。ノルウェーを中心とする北欧諸国では26%、米国では前年比4%増加の20%、日本は前年比1%増の8%というのが現状です。国内では公共放送のNHKやヤフーニュースなど、無料でアクセスできる情報が他の国比べ豊富にあることも有料購読化へのシフトが他国に比べ拡がってない背景にあると思われます。
ちなみに、昨年のレポートの中では有料購読に関しては『転換(Pivot to Paid)』は果たして広がるのかまだ先行き不透明な状況での報じられ方であったことが印象的です。New York TimesやWall Street Journalなどのブランド力のある大手による「勝者総取り」傾向があり、読者は一人でいくつものニュースメディアを購読をするわけではなく、「サブスクリプション疲れ」という言葉が紹介される程でした。
改めて2020年6月、新型コロナウィルスという危機を経験中の今、国内においても『サブスクリプション疲れ』という言葉が以前より耳にする頻度が減り、有料課金への心理的ハードルが下がり、浸透が進んでいる印象を個人的には持っています。
なお、ロンドンに拠点を持つ業界団体のFIPP(International Federation of Periodical Publishers: 国際雑誌連合)が今年の4月に「Global Digital Subscriptions Snapshot - April 2020」と題した世界のデジタルメディアの有料購読者数をまとめたレポートも公開されています。主要なメディアの変遷を以下のチャートにまとめてみました(レポートの中にはそれぞれの出典も掲載されていますが、中には最新の数値が反映されてない媒体もいくつか含まれています)。ニューヨーク・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナルなどと共に日経新聞も上位にランクインしていることが分かります。
具体的に有料課金サービスを推進させるための考え方、コンテンツ戦略、テクノロジー活用、プロダクト開発、ポッドキャストやニュースレターの活用など、ちょうど今朝配信されていた以下の記事の中で詳しく紹介されていました。今回のレポートと併せて、豊富に共有されつつあるこうした知見が広く知られることで、伸びしろ豊富な国内の市場でも有料購読がトレンドが進化していくのではないかと期待しています。
*参考:デジタル・ニュース・レポート2020の解説ポッドキャスト