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「給与が安い」という副業の本音から目を背けるのを辞めよう

一気に広まった副業解禁

数年前まで、副業は一部の職種だけが認めらている制度であって、多くの会社員にとっては無関係なことだった。就業規則に副業禁止が盛り込まれているのは当たり前のことであったし、そもそも本業以外のことに労力を割くのは社会人としてあるまじき言語道断の行いだと考えられてきた。もし副業していることが社内でバレようものなら、局中法度の「勝手ニ金策致不可(かってにきんさくいたすべからず)」として切腹ものな扱いだった。

しかし、副業解禁の議論が始まると、それまでの常識が嘘のように見直され、副業制度は一気に広まった。マイナビの調査によると、「副業・兼業」を認めている企業は約5割にのぼる。導入企業の主な目的は、「スキルアップ」と「モチベーション維持」だ。

副業制度をうまく使い、人材育成に繋げることができた好例はロート製薬だ。ロート製薬の従業員が副業制度を使って福山市の戦略推進マネジャーとなり、同市の活性化に貢献しているという事例は瞬く間に日本中に広まった。

副業は本当に「スキルアップ」や「モチベーション維持」できるのか?

一方で、副業制度によって、本当に「スキルアップ」や「モチベーション維持」ができるのかという議論は十分になされないまま、制度ばかりが独り歩きして広まってしまった感がある。

そもそも論として、日本の会社員の働き過ぎを是正するために残業削減や働き方改革に取り組んできたはずなのに、どうあがいても労働時間が増える副業を推進するのはやっていることに一貫性がない。しかも、副業は単価が安い傾向にあるため、単価の高い残業よりも生産性が下がる。これでは、「残業代を払いたくないから働き方改革をやったのであって、給与が足りないなら勝手に外で稼いで来いと言われている」と見られても返す言葉もない。

先日、日本の人事部主催『HRカンファレンス2021』で使用した、厚労省の調査をまとめたスライドをみてみると、多くの副業ワーカーにとって「スキルアップ」や「モチベーション維持」がお題目となっていることがわかる。

副業

まず、副業をしている割合が多いのは月収20万円未満だ。最大の理由は「収入を増やしたい」である。第2位の理由は「本業の収入が少なすぎる」であり、他の理由とは比較にならないほど高い数値を示している。本業の収入が少なすぎると答えているのは、月収30万円未満で顕著に高い数値を出している。

多くの企業が副業制度の目的としている「能力を活用・向上させたい」と答えているのは、たったの9.5%しかいない。それも、月収が70万円を超えてはじめて約2割だ。

厚労省の調査結果は、副業で「スキルアップ」を望んている会社員はほとんどいないことを示している。それどころか、副業をしている人のほとんどが本業の収入が少なすぎるために行っており、貧しい日本の現状をありありと映し出している。調査結果は、企業が従業員に対して、それだけで生活できるだけの給与を提供することができていないことを示している。

なんのための副業かを見直そう

本業の収入が少なすぎるために副業をするのは、主に月収30万円未満が多い。年収にすると約450万円だ。だいたい、ホームセンター大手のコメリや家電量販店のヤマダ電機の平均年収と同じくらいである。

これくらいの給与の会社で副業制度を導入すると、建て前はどうであれ、従業員のほとんどが収入の補填を目的として副業をし始めることがわかる。会社がどれだけ「副業はスキルアップが主目的です」と言っても無駄だろう。

スキルアップを目的として副業をするのは月収70万円を超えてからだ。手取りで月収70万円を超えるのは、年収でいうと約1050万円を上回ってからということになる。平均年収1050万円を超える企業というと、アステラス製薬や日本オラクルだ。上場企業3,825社のうち上位50社にあたる。

つまり、多くの会社が掲げる「スキルアップ」や「モチベーション維持」を目的として副業制度を運用したとして、その目的通りの効果が期待できるのは上場企業の平均給与ランキング上位50社だけということだ。それ以外の企業では、給与水準が低いために、「スキルアップ」や「モチベーション維持」よりも収入アップのほうに目が向いてしまう。特に、平均年収が450万円を下回るような企業では尚更だ。

それでは、副業制度の設計はどうすべきだろうか。制度設計については次稿にて詳しく解説していきたい。

ただ、現状言えることは、「スキルアップやモチベーション維持よりも収入アップのほうに目が向いてしまうから副業は禁止しよう」とは考えるべきではない。これだけ副業が一気に広まったことを考えると、やはり現状の給与水準は低すぎるのだ。

給与が足りないから副業をしているという現状に対して、企業は何らかのアクションをすべきだ。そのアクションの結果、収入を増やすために若いうちに副業に精を出すことを認めてしまうというのも選択肢の1つだろう。若いうちにがむしゃらに働くことは、それはそれで長い眼で見ると良い成長に繋がる。

もちろん、「成長を意識させながら、収入も増やす副業制度を設計する」という目標に挑戦することもできる。筆者としては、収入が足りないという事実に目を背けることなく、それでいて成長も促すというチャレンジングな制度設計を応援したい。大切なことは、なんのための副業制度なのかという目的を忘れることなく、それでいて月収30万円以下の従業員は収入が足りないと考えているという現実から目を背けずに解決策を提示するということだ。

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