「新しい日常」を彫刻するアーティストを支援する “社会彫刻家アワード 2021”発表!
以前、ここCOMEMOでもお伝えしていた、「新しい日常」を彫刻するアーティストを支援する “社会彫刻家基金”の設立。
「社会彫刻家基金」は、新型コロナウイルス拡散後の「新しい日常」において、アートを触媒に社会に変化を創り出すアーティストを支援する基金です。
新型コロナウイルスにより、私たち一人ひとりが生活/仕事/移動/コミュニケーション/コミュニティなど、生きる上で不可欠なことを根本から見つめ直す必要に迫られています。
誰も答えを知らない「新しい日常」におけるアートの役割は、従来の「アート」という言葉の定義に捉われることなく、闇夜の中で光る灯台のように私たちが進むべき方向性を指し示すものであってほしい。
そこで、私たちは、ヨーゼフ・ボイスが提唱した「社会彫刻」の概念を継承、そして現在の状況下で再解釈しながら実践していくことこそが大切だと考えました。本基金は、こうした問題意識を元にアーティストを支援し、国内外に発信していきます。
今社会の形が転換する大きな岐路に経っている中で、アートが社会に出来ることを本基金で後押しし、「新しい日常」の姿や未来の形を皆様と一緒に現して行ければと考えています。
設立の背景等は前回のエントリーを見ていただくとして、「社会彫刻家基金」の現在地をお伝えして以降、音沙汰がなかったので「どうなったの?」とMOTIONGALLERYのPODCAST番組のコミュニティー「もしもし文化センター」でも質問頂いたりしてました。
裏では着々と進んでいたものの、このアワードの特徴でもある「アンダーカバーで行われた調査選考委員によるリサーチの結果、自薦も他薦も無いなかで賞を贈る!」というルールがあるので、授賞式を行わない限りなにも情報を表に出せなかったのです。このルールは、社会彫刻家基金の設立背景や設計思想にも紐付いていて、これからの新しい社会の為に、いかに「社会に応答するアートを支援していくか」という命題にもとづき、”日常”を大事にし評価していきたいというところから来ています。
そんな中、コロナ感染拡大防止の観点から、5月12日に予定していた第一回「社会彫刻家アワード」の結果発表及び授賞式は、緊急事態宣言の延長に伴い延期することになり、更に情報が出せない日々が続き関係者一同悶々としていましたが、遂に2021年7月14日、第一回目となる「社会彫刻家アワード 2021」の授賞式を執り行うことができ、ついに今年度の受賞者および調査選考委員が発表となりました!
今回のアワードの為に、素敵なトロフィーも制作いたしました。
社会彫刻家という概念を提唱していた現代アーティストのヨーゼフ・ボイスの作品にちなみ、花崗岩やどんぐりで作られた重いトロフィー。これを調査選考委員から受賞者へ渡す日が遂に来ました・・!
アンダーカバーでの調査のため、この日まで発表されていなかった調査選考委員もこの日遂に発表。国際芸術祭あいち2022 のチーフ・キュレーター(学芸統括)を務める飯田志保子さん、アーティストコレクティブ「Chim↑Pom」の メンバーである卯城竜太さん、美術家/文筆家/非建築家のヴィヴィアン佐藤さんのお三方にご就任頂いておりました。昨年から何度も会議を行い、意見交換や情報共有を行いつつ「そもそも社会彫刻家とはなんぞや」というところも含めて議論がありました。この賞の特徴としては、複数年実施されることでその毎年変わる調査選考委員及び受賞者の方々を相対として見ていくところだったりそこに至るプロセスに、正解のない「社会彫刻」という問いであったり、現代社会に応答している現代アートとはなにかという問いに、一つのメッセージが浮かび上がってくることを期待している為、事務局及び調査選考委員の皆様とはディスカッションはすれど、受賞者を選定するのは各調査選考委員の方々による独断であり、意思決定には事務局及び他の選考委員は介在しないというのが特徴です。
そして栄えある受賞者には、「オルタナティブスペースコア」「ボーダレスアートスペース HAP」「マユンキキ」という3組が選出されました!
オルタナティブスペースコアは、2017 年7月基町ショッピングセンター内にオープンした、文化活動のための多目的スペース。現代アートをはじめ、音楽や文学、料理、ファッション、言論、科学など様々なジャンルの文化を発信、共有する事を目的としている場所です。2020 年より隔月でブロックパーティーを開催していることも話題となっています。
ボーダレスアートスペース HAP は、ひとがアートと出会う場所「ギャラリーG」、子供がアートと過ごす場所として「ボーダレスアートスペースHAP」2 つの目的「HIROSHIMA ART PLATFORM」(略して HAP)をつくりました。現代社会の様々な人々とのコミュニケーションを通して閉鎖的になりがちなアートの世界が社会と応答しやすくなるような場づくりに没頭しながら、国内外作家のアートプロジェクトサポートから地域の作家の展示サポート、地元アーティストと障害のある子供たちとの創作活動(放課後デイサービス)、子供たちの作品を社会にコミットさせるアートグッズ制作など幅広く活動しています。
マユンキキさんは、アイヌの伝統歌を歌う「マレウレウ」のメンバー。音楽分野だけでなく国内外のアートフェスティバルにパフォーマンス参加多数しておられます。2018 年より、自身のルーツと美意識に纏わる興味・関心からアイヌの伝統的な文身「シヌイェ」の研究を開始。現代におけるアイヌの存在を、あくまで個人としての観点から探求し、表現。2020 年には、第 22 回シドニー・ビエンナーレ「NIRIN」に参加。同年、写真家の池田宏と「シヌイェアイヌ女性の入墨を巡るプロジェクト」(北海道・白老)、その後の初めの個展として 2021 年「シンリッ アイヌ女性のルーツを探る出発展」(北海道・札幌、CAI03)を開催されました。
本当に魅力的な”アーティスト”の3組に賞をお贈りすることが出来たこと、授賞式の日は改めてその素晴らしさを実感する一日になりました。
しかし、一体どんな議論があって、なんでこの方々に賞が贈られることになったのか。そこがとても大事であり、それを一つの表現として社会に開いていくことは社会彫刻家基金のとても重要な点でもあります。であるからして、実はこの”社会彫刻家アワード 2021”は授賞式を行って受賞者に賞金とトロフィーをお渡しするのはアワードの大団円ではなく、むしろスタートの火蓋が切られたと言っても過言ではないのです。そう、これから我々は各アーティストの背景や表現、地域、そして受賞過程や周辺文化などをリサーチし、まとめ、書籍にして発表して行かなくてはならないのです!書籍は来年発刊予定。プロセスを社会に開いていくという基金の1つの目的としても、アンダーカバー期が終わり、これからは取材活動などの今後の動きをなるべく多くの方にも共有させて頂きたいと考えています。アーティスト及び社会彫刻家基金の活動などの報告をベースに、今後、社会彫刻家基金が主催するトークイベントへのご案内や、アートとはなにか/社会とはなにか、深呼吸して考えるためのきっかけをお届けしたいと思いますので、ニュースレターにご登録いただければ嬉しいです!
最後に、社会彫刻家基金が掲げているテーマの1つでもある「社会に応答するアート」とはなにかについて。一体それは何なのかと考えることが多いのですが、それは”対話”がそこにあるか否かなのかもしれないと思う事がありました。ちょうど東京オリンピック2020が始まったこのタイミング。アートでも色々な動きがありましたが、印象的だと感じたのが、ある種オリンピックを対抗軸としてアクションされたアートプロジェクトが内輪で留まっている印象を受けている一方、このアートプロジェクトが世間的にも大きな脚光を浴びたことに感じた一つの希望でした。
「実在するけれど、誰でもない顔。それはもしかしたら自分だったかもしれないという意味を含む」と荒神は話す。昨年、実施予定だった同プロジェクトはコロナ禍で五輪と同様延期に。「(コロナの)事態が起きて自分の周りを見渡した時、そこは自分だけの世界ではなく、他者がいたんだと気がついた」と荒神。誰もが感染しうるウイルスの脅威は、他人との距離や関係を問いかけた。上空に浮かぶ「誰か」の顔は、同じ世界に生きる他者の存在を想像させる。
ご多分に漏れず、私も「目[mé]」は大好きなアーティストなのですが、今回も本当に素晴らしい作品が素晴らしいタイミングで公開されたなと感激しました。
この声も何も発さない作品を見ていると、むしろ自分の内なる声が湧き上がって来る気がします。きっとこの作品は観るもの(もしくは存在したことを伝聞やニュースで知った人)の心の声と対話する機会を生み出す力がある作品なのかも知れない。そこには強い対立軸があるメッセージは(表面的には)無いかもしれないけど、だからこそ届く射程の広さ、そしてそのような”対話性”が内在しているんだと思いました。
ある意味で、色々とリセットされ、この社会を一旦0から見つめ直すタイミングなのかも知れないと思う中で、まだまだ対立軸というかカウンターを動力にしているアートプロジェクトも少なくなく、それらのメッセージは明確だがなぜか広がっていかないところに先細り感を感じているという声も少なくなかったけど、カウンターすべき軸がなくなりつつあるこれから、0から社会と対話する対話性を持ったアートの未来を逆に信じられる気持ちになりました。
社会彫刻家基金もそのような活動をサポートして行ける存在になるべく、これから頑張って行きたいと思います。