アフターコロナ結婚式論~理想のコロナ禍のオンライン結婚式を創ってみた~
Potage代表取締役 コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。突然ですが、12月3日(金)夜に、結婚式を挙げることになりました。オンラインで。
上のPeatixページにて誰でもチケットを買えて、世界中のどこからでも参加できる、そんな結婚式です。
いきなり私事から入りましたが、今回は「アフター・コロナ時代の結婚式のありかた」について考えていきます。
大人数の集まり、特に飲食を伴う集まりが難しくなったコロナ禍において、結婚式業界は大きなダメージを受けました。規模の縮小による単価の低下はもちろんのこと、断続的に続く緊急事態宣言の影響でキャンセルが多発したことにより、安定した売上の見込みが立たなくなったことが大きいと言われています。
そんな中、式場を運営するホテルや会場が「オンラインプラン」を用意するケースも増えています。リアル開催を配信したり、地域毎に配信会場を用意してそれぞれ集まってもらう「ハイブリッド形式」や、完全にオンラインにするケースもあるようです。
この記事ではプリンスホテルのマネージャーがこのようにおっしゃっていて、未曽有の状況の中で苦慮しながら、オンラインという新しい要素を取り込んでいることがよく分かります。
新型コロナ禍の影響で、結婚式の在り方も大きく変化していくだろうと予想していた。しかし、実際に蓋を開けてみると、予想以上に従来通りのリアルのウエディングを望まれるお客様が多かった。そのため、オンラインを取り入れるにしても、できるだけリアル体験に近いものを提供していきたい。
コロナ禍が加速した結婚式の多様化
この記事にもあるとおり、いちばんオーソドックスな「アフターコロナの結婚式」は「人数を限定してソーシャルディスタンスを保ち開催し、動画でその様子を配信する」というスタイルになっています。記事を見る限り、式をなんとしても開きたい、皆さんに祝ってもらいたいという新婚夫婦の熱意は衰えてはおらず(むしろ苦難の状況で増しているかもしれません)売上面で苦戦こそしているものの、市場の可能性としては衰えていないことがよくわかります。
一方で思うのは、ここ数年加速しているという、結婚式に対する価値観の多様化についてです。いわゆる「ジミ婚」と呼ばれる、家族や友人に限定した小規模の式を企画する人は増加傾向にあります。また、既存の形式にこだわるのではなく、自分たちの嗜好にあわせてオリジナルの結婚式を企画したり、自分たちがこだわりのあるロケーションで式を企画する事例も出てきました。下はANAが企画した「成田空港の駐機場での結婚式」の例で「ここでしかできない体験」が重視される時代を象徴している事例です。(コロナ禍による航空会社の事業の多角化という面でも時代を象徴していますね)
室内で三密にならないように、屋外で開催するという結婚式も人気で、アウトドアレジャー好きなカップルに支持されています。
これだけ対面の結婚式のスタイルが多様化する一方で、オンラインでの結婚式は「既存の式次第にならった結婚式(無観客の場合もあり)を配信する」もしくは「Zoomで結婚式をやる」というスタイルに限定されているのが実情です。
ニューノーマルなどと呼ばれ、時代が変化したからこそ、もうちょっと別の選択肢があってほしい……そう思う方も、少なくないのではないでしょうか。実は私たち夫婦がそんな一組でした。
私たち夫婦はコロナ禍真っ只中の昨年12月に結婚をし、結果、結婚式難民になりました。
地方から 実際に会場に来ていただくことが大きなリスクとなるこの状況の中で、何らかの形で節目をつくろうと、いろいろなソリューションを探しました。無観客式や、フォトウェディングや結婚式配信などありますが、探してみたところで自分たちが納得できるソリューションは見つかりませんでした。他のカップルはもしかしたら選ばれるソリューションなのかもしれませんが、自分たちが体験する価値を、私たちは感じなかったのです。どのプランも「決め手に欠ける」というのが正直の印象で、だんだんと調べるモチベーションも下がっていったのです。
このままだと結婚式をやらないことになる、どうしよう……と、数ヶ月考えた結果、結論としてはシンプルにこうなりました。「理想の結婚式がないなら、いっそ自分たちでつくってしまえ」
核と目的を明確にすればどんな形式でも結婚式はできる
私たちは今回の「自分たちの理想の結婚式づくり」のために、ツイッターで「新しいフォトウェディングをつくりたい」と書いていたCRAZY Weddingのマーケティングの責任者をしている松田佳大さんに相談をすることにしました。
ウェディングプランナーとしての実績も豊富な松田さんは、私たち夫婦のソリューションが見つからないことに対する戸惑いと、理想の結婚式を開きたいという思いを120%受け止めてくれました。
相談のきっかけになった松田佳大さんのツイート。このツイートをきっかけに連絡をとり、一緒にオンライン結婚式を検討することになりました
松田さんはもともと「オーダーメイド結婚式」の専門家でもありました。既存の形式にとらわれない結婚式をカップルと一緒につくるプロです。「今の時代だからこそできる結婚式をつくろう」という話に共感してくださり、一肌脱いでいただくことになりました。
私たち夫婦には「リアルで集まることは難しいであろう」という前提のもと、オンライン配信を軸にした式を企画したいという思いがありました。一方で、「オンライン配信」は場づくりの手段でしかありません。私はイベントの専門家でもあるので、催しの企画や演出、プロデュースには一家言あります。企画において大事にすべきなのは「何を届けたいか」です。本来は、形式の選択はその後にくるべきなのです。
というわけで「オンラインで式を成立させるのにどんな要素が必要なのか。そして実施することで、私たち夫婦のどんな思いを、誰に対して届けるのか」をまず言語化することにしました。
その入り口として、そもそも結婚式とは何か?について松田さん交えて話し合いました。ただのパーティと結婚式の違いは何か。どんな核となる要素が満たされれば結婚式と呼べるのか。そこを言語化することで「配信結婚式」の骨子を確認したのです。
松田さんと話して結論づけた「結婚式の核」が何だったかというと「節目の時間」であるということでした。手続き上は既に家族になっている2人ですが、節目を用意し、思いを相手や参列者に伝え、みなさんにこの結婚を祝福していただく。この成り立ちこそが大事で、この要素さえ満たしさえすれば、形式はなんでもいい。ケーキカットも指輪交換も三々九度も高砂も参列者の余興も両親への手紙も、もちろんあってもいいけどなくても成立するし、それこそオンライン配信であろうがまったく問題ないと言う結論でした。
その次に考えたのが「ゴール設定」についてです。結婚式を通じて、どんな状態でありたいか。参加してくださる人たちにどんな気持ちになってもらい、自分たちがどんな気持ちでありたいか。そのような自分たちにとってのゴールを設定し、そのゴールに最適な式の流れを考えていきました。
私たちが参列者の皆様に伝えたいメッセージは「私たちが考える新しい家族のありかた」(注/後述のリンク参照)でした。血のつながりだけが家族ではありません。一緒に生活を支えてくれたり、仕事でかかわってくれたりする人たちも、広い意味でいえば「家族」です。「みなさんも、私たち家族と関わって、"家族"の一員になって下さい」そんな言葉を伝えて「こんな家族にかかわってみたいな。かかわるとなんか面白そうだな」と思ってもらうことが、私たちが結婚式を開きたい目的なのです。
「こんな家族にかかわってみたいな。かかわるとなんか面白そうだな」と思ってもらうに当たっては、血のつながりや、距離などはまったく関係ありません。興味を持ってもらう人がどこからでも参加できるようにしたい。親しい人たちはもちろんのこと、興味を持った人が面白いと思えばふらっと参加できるようにしたい。自分たちが主役になる時間に多大な労力を使っていただくのではなく、楽しくなれる時間を参加者のみなさんにお届けして、みなさんが主役である日常に「彩り」を提供したい。松田さんと話すまでは十分に言語化されていなかったのですが、私たちがどこからでも、誰でも参加できる「オンライン結婚式」という形式を選択したいと思った背景には、そのような潜在的な思いがあったのです。
松田さんの助けでそれが表に引き出され、言語化されたことで、オンライン結婚式開催への迷いがなくなりました。後は中身をつめていくだけです。
(注)いわばこれはコミュニティの変化が生み出した「疑似家族関係」による価値観なのですが、その詳細はぜひこちらの記事をご参照ください。
オンラインならではの結婚式体験をつくろう
目的が明確にあったあとは、手段、すなわち式次第や演出について考えていきます。しかし前述した通り、世の中に既にあるオンライン結婚式の形式には、まったくピンと来ていませんでした。つまり、世の中に参考にできる事例がなく、ゼロからつくらなくてはならないのです。私たちの理想をかなえるために、どんな「体験」をオンライン結婚式で提供するかについての議論がはじまりました。
ポイントは「フルオンライン」であることです。私はかつて、リアルの場づくりとオンラインの体験づくりの違いについて、このような記事を書いたことがありますが、リアルの催しをそのままオンラインコンテンツに焼き直してもうまくいかないことは、経験上よく理解していました。
リアルな場づくりとオンラインの場づくりの5つの変化
変化1.(リアル)近く→(オンライン)遠く
変化2.(リアル)祭り→(オンライン)テレビ
変化3.(リアル)ショー→(オンライン)ラジオ
変化4.(リアル)自由→(オンライン)お題
変化5.(リアル)ワイガヤ→(オンライン)対話
詳細な説明は当記事では割愛しますが、オンラインの体験とリアルの体験はまったくの別物という前提で体験づくりしていく必要があるのです。
そこで松田さんと私たち夫婦が話して出した体験のイメージが「家の画面でちょっとした映画や演劇などをご飯を食べながら家族で観るくらいの気持ちで参加してほしい」というものでした。時折、ちらちらとながら観をしながら、けどいつのまにちょっと引き込まれて、最後には「なんだか、ほっこりした気持ちになれたな。観れてよかったな。いい週末が送れそうだな。ちょっと大切な人に久々に連絡を取りたくなったな」と思えるものにしようというイメージを確認したのです。
その上で結婚式のプロである松田さんから出てきた案が「映画にする」というものでした。1時間の映画をつくるのは難しくても、20分くらいの尺のムービーであれば、気の利いた映像は大きな予算をかけなくてもつくれます。それをコンテンツの核にして、残りは友人と掛け合いをしたり、2人の話す様子を司会者にファシリテーションしてもらい、チャットでの投稿などを通じて参列者とも交流しながら進めていくのはどうだろうという提案です。
私のオンラインイベントの知見なども混ぜ合わせながら、うまくイメージが湧いてきました。プロデューサー的な勘でいうと「これなら企画としてイケる!」という感覚です。(余談ですが、クライアントなのに職業病としてのプロデューサー脳が働いてしまって、松田さん他スタッフのみなさまにはいろいろお気遣い頂き、ご迷惑をかけてしまったように思います…お付き合いいただいて、本当にありがたい限りです。)
映像をお届けするとなると、核になる場面設定、つまり「ロケーション」が大事になります。配信場所や撮影場所には、CRAZYさんが運営するセレモニー会場「IWAI OMOTESANDO」を選びました。ロケハンをしたところ、既存の式場とはちがう一貫したコンセプトや、場の持つ雰囲気が一発で気に入ったのです。ここなら自分たちのイメージする絵がお届けできる、という基準で選択しました。
IWAI OMOTESANDOの説明は松田さんも出てくるこの記事に詳しいです
そこから映像制作のスタッフを集めました。映像と式の脚本、演出、制作は、私の友人で、私自身彼女の戯曲のファンでもある気鋭の演劇家・藤原佳奈さん(COMEMOのKOL仲間でもありました)にお願いすることにしました。肝になる20分ムービーの撮影や映像監督は、藤原佳奈さんの推薦で、映像作家・大金康平さんにお願いできることになりました。
左が大金康平さん、中央が藤原佳奈さん、右がカメラチェックに余念のない息子のなぎさ。IWAI OMOTESANDOでのムービー撮影の光景です
体験という意味で言うと、映像の他に欠かせないと夫婦が思ったのが「食」です。食は夫婦をより親密にした大事な生活の触媒であり、ハレの場を象徴するものでもあります。自宅からみるオンラインの配信でも、目の前に祝い膳が届いて、食べながら同じ時間帯に各地域から参列者がみるだけで、イベントへの没入感はかなり増してきます。
食については、オリジナルメニューによるイベントや企業パーティ向けケータリングを数多く手掛けるFoodistLink・髙田大雅さんにつくってもらい、冷凍して配送いただくことになりました。大雅さんは「たいがめし」という美味しいお惣菜を送るサービスも行っていて、我が家の食卓でも大変お世話になっています。大事な友人でもある彼に相談したら、前のめりに引き受けて下さいました。ケータリングメニューには、夫婦が出会うきっかけにもなった宮崎のお茶屋さん、白玄堂・白尾尚美さんのオーガニック茶をつけて、希望する参列者の皆様に送ることにしました。
大雅さんには、新郎新婦のイニシャルで、オリジナルの婚礼メニューをつくってくださいました。これだけでもだいぶハレの感じが出てきますよね。
オンラインイベントを得意とする司会(ファシリテーター)、オンラインイベント配信を年間200本近くこなす配信スタッフと、仕事で普段からなじみのある、安定した現場進行ができるスタッフをアサインし、着々と準備を進めています。
かつての様式をオンラインに置き換えるだけでは大事なものを見落としてしまう
「新しい生活様式」という言葉がコロナ以降、巷をにぎやかしていますが、個人的には、これは「かつての様式をオンラインに置き換える」だけではこの「新しい様式」は成り立たないと思っています。オンラインとリアルでは、得られる体験がまったく違います。オフィスワークもリモートワークも同様です。その「違い」を踏まえた上で、生活や働き方をデザインし直さないと、生活や働き方の「核」や、なぜそうするかの「目的」の部分を見落とす結果になると思うのです。
今回の結婚式がうまくいくかはやってみないと分かりませんが、もしうまくいったのだとしたら、その要因は「結婚式において大事な核」や「目的・ゴール」を明確にし、それを達成するための手段としてオンライン配信を選択し、スタッフそれぞれが共通のゴールに向かって面白がりながら仕事をし、オンラインの特性にあったコミュニケーションづくりができたからだと思うのです。
ツイッターやFacebookなどでほそぼそと告知をしているのですが、このような私たち夫婦の思いに共感いただいたり、新しいチャレンジに興味を持って頂いたからか、既に70名近くの参列者の皆様に有料チケットを購入いただき、予約頂いています。参列者の中には、本当に久しぶりの方や、リアルでは一度もお会いしたことのない方も含まれていて「興味を持った人が面白いと思えばふらっと参加できるようにしたい」という夫婦の思いは、ちゃんと体現されているなあと実感しているところです。
というわけで、このオンライン結婚式は、COMEMO読者の皆様にもご参加いただけます!なんか面白いな、ちょっと覗いてみたいな、美味しいお祝いメニュー食べたいな、と思った皆様。ぜひ上のPeatixのリンクからチェックしてみて下さいね!
また、今回調べつくして、自分たちなりのオンライン結婚式をつくった経験から、結婚式難民になりかけているカップルの方のオンライン結婚式の相談にも乗れそうです。企画に悩んでいる方、ぜひお気軽に下記のサイトのフォームよりお問合せ下さいませ。