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タンザニアはCOVIDをどう受け止めているか

昨年の秋に続いて、アフリカのタンザニアに来ている。2回の訪問であるが、新型コロナウイルス(COVID)に関しては、昨秋と比べて特に街の様子に変わりはないように感じる。

亡くなった前大統領は、COVIDは存在しないとする対応をしていたようであるが、後任の現大統領は一定のCOVIDに関する対策はしているようだ。感染防止のポスターが張られていたり、大きなショッピングセンターやホテルなどの入口にはマスクの着用を促す掲示がされている。また、多くの場所で消毒液が設置され、厳格に対応しているところであれば、入口で体温を計られたり消毒液を手にかけられたりすることは、日本の様子とさして変わらない。

マスク着用を求めるダルエスサラーム空港内の掲示
ダルエスサラーム空港の床に張られたソーシャルディスタンスのシール
ホテルエントランスドアの掲示
マスク着用と検温に立ち寄ることを求めている
大手企業が入るオフィスビルのエレベーター内の掲示
会話を控え、ボタンを指ではなく肘で押すよう促している
道端にある感染防止7か条のポスター。マスク着用は書かれていない。

一方で、大きく違うと感じるのは、人々のマスクへの意識だ。街で見かける多くのタンザニア人はマスクをしていないか、していたとしてもいわゆる顎マスクのような状態であることが多い。Uberのドライバーも、乗車するとマスクをつける人もいるがなかにはマスクなしのままの人もいて、その比率は、あくまで感覚値であるが昨秋よりもマスクなしのドライバーが増えたように思う。昨秋の訪問時にはまだオミクロン株は流行していなかったのだが、その時とくらべてオミクロン株について人々が警戒を強めている、という印象は感じられない。人出の人数など、街の様子全体としても昨秋と違いが感じられない。

一方で、日本以上に徹底していると感じるのは手を洗う施設が街のそこかしこに設置されていることだ。水道がない場所でも、何かの空き容器を改造したものに蛇口をつけてそこに水が貯めてあり、手を洗えるようになっている。

空き容器を活用した手洗い設備

また、飲食店では席に着くと食事の前に店員が水やお湯の入ったポットと洗面器のようなもの、そしてハンドソープを持って来て、一人ひとり手を洗わせてくれるところもいくつか経験した。西洋式のフィンガーボールのような申し訳程度のものではなく、たっぷりの水やお湯で手を洗わせてくれるのは快適で、食後に再び手を洗わせてくれもした。

飲食店では店員が席で手を洗わせてくれる

一般的には、アフリカの衛生状態は十分ではなく、手指の消毒を始め、COVIDに対する対応は十分ではない、というのは必ずしも間違ってはいないだろう。しかし、水道水ではなくため水を使っている場所も多いとはいえ、手を洗う施設が多数あることや、飲食店で席まで来て手を洗わせてくれることなどは日本では見受けられないことであり、この点では日本よりも進んだ対応していると受け取れる部分もある。

なぜこうしたことになっているのだろうと考えてみると、これはあくまで私の推測であるが、アフリカにおいてはCOVIDだけが今目の前にある病気の問題ではない、ということではないだろうか。 アフリカに渡航したことがある方であれば渡航前に数多くのワクチンを接種したことと思う。黄熱病をはじめ破傷風や狂犬病、肝炎などのワクチンは渡航前に接種することが推奨されている。エイズやマラリアといった病気については、未だに有効なワクチンがなく、マラリアに関して言えば私は今毎日予防薬を服用している。こうした病気は、ここ数年に始まったことではなく、当地の人々にとっては、長く付き合ってきた、付き合わざるをえないものだ。

実際に、タンザニアで特に乳幼児の死亡にはエイズやマラリアが大きく影響しているという。そしてこれらの病気は、比較的歴史が浅いエイズですら数十年の単位で対応してきている病気である。それを思うと、ここ数年でにわかに登場し流行しているCOVIDは、アフリカの人々の視点から見れば対応しなければいけない病気の1つでしかなく、既にある程度有効なワクチンが開発されていることも含めて、いわば「ぽっと出の新参者」であり、すでに対応するワクチンも開発されているような、いってみれば手なずけやすい病気と見えているのかもしれない。

日本は医療水準も高く、島国であるため陸続きの国に比べれば伝染病が入ってくることをある程度防ぎ得る(と人々が現実以上に思っている)国であり、タンザニアのように多数の病気・伝染病が引き続き問題になっていて、陸続きで多数の国と接し、「水際対策」のような手法が取りにくい国とは、COVIDに対する捉え方が異なることは、間違いがないことだろう。

もちろん、どのような病気であれその流行を抑えることは必要である。今の日本の対応について、評価や判断を下すことは本稿の目的ではないので保留したいと思う。ただ、日本でのCOVIDの捉え方が世界の国々と同じであることはなく、COVID以外にも様々な病気と引き続き闘っていかなければいけない国では、COVIDについてはかなり腹の据わった対応をしているようなのだ。それが、タンザニア人がマスク着用をあまり重視しない原因のひとつなのかもしれない。

こんな時期にアフリカに来ることができ、身をもって感じたことなので、ひとつの観察結果としてお伝えしておこうと思う。


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