「食」と「農」は日本の次世代基幹産業候補
アメリカで日本のイチゴ
日本発の農業スタートアップ企業オイシイファームが200億円を調達し、日本のイチゴを米国で栽培し、販売するビジネスで注目を集めている。イチゴ農家というとハウス栽培のビニールハウスの中で土に苗が植えてあるイメージが強いだろう。しかし、農業テクノロジーの発展は目覚ましく、米国内で日本産のような甘いイチゴを完全無農薬の工場で生産することを可能としている。ロボットとAIを活用し、作付けから収穫までの作業の自動化も可能だ。
日本国内でも、一時期、大企業が農業ビジネスに乗り出したブームがあった。日本では一過性のブームでそのあと落ち着いた感があるが、それからも世界の農業テクノロジーの進化は続いている。
土地という制約から解き放たれ、高品質の農作物を世界で栽培できる社会が一部の農作物では実現化している。
「農業」x「テクノロジー」で世界市場を狙う
このことは、日本国内で従来通りの農業を行っている生産者にとっては恐れるべき話だろう。しかし、これからの未来を作っていこうという若者やベンチャーにとっては未開拓地が広がるビジネス・チャンスの宝庫だ。
なぜか「食」と「テクノロジー」の分野では、近年、「昆虫食」と「代替肉」が注目を集める不可思議な現象が起きていた。経営学のロジックからすると、そこに好機を見出すのは筋が良いとは言い難い。なぜなら、日本国内には世界で戦うことができる農業ビジネスのシーズが豊富にあるのに、そのシーズを活用せずに、米国や中国の後追いのようなことをしようとしているのだ。新規事業を開発するのに、まずは自社の持つコア・コンピタンスに着目すべきだという経営戦略論の基本から外れた発想だ。
「日本食ブランド」を生かして世界で戦おう!
日本の「食」と食文化を支える高品質な「農水産物」のブランドイメージは強力だ。この2つの武器を生かさない方法はない。
そもそも、日本は資源がないために加工貿易を主産業とする国家だった。その強みがあるのであれば、軽工業から重工業にシフトしたように、重工業から農水産製造業にシフトすることは違和感のないストーリーといえるだろう。
当然、農水産物の輸出ビジネスには検疫や通商政策の問題で制限がある。また、食文化の異なる異国で新しい文化を創造することは簡単なことではない。しかし、そんなことを言っていたのでは、イノベーションは何も起きないのだ。実現に困難さがあるからこそ、イノベーションを起こすことができたときのリターンが大きくなる。
日本経済にとって、大きな悩みの種は自動車に続く、グローバルビジネスが生まれてこないことだ。多くのスタートアップ企業が生まれるようになっているが、その多くが国内で事業を完結させている。また、世界に飛び出そうとしても思うような成果を出すことができずに苦しんでいる。
その点、すでに高評価を得ている日本の「食文化」が持つアドバンテージは大きい。世界を狙う新産業として、「農業」×「テクノロジー」の活性化は、より力を入れて議論すべきだ。
私自身、この春から「畜産経営におけるデータアナリティクス」を学ぶためにドイツの大学院に進学する教え子を持つ。また、学部生にも「大分県の肉牛のグローバル・ブランディング」を狙って起業準備をしている生徒がいる。彼らの夢の支援をするなかでも、「農業」×「テクノロジー」の潜在能力の高さを感じる。
この好機を逃すべきではない。「農業」×「テクノロジー」は、日本の新たな基幹産業候補となるポテンシャルを秘めており、世界で戦うことができる武器だ。この武器を使わない手はない。
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