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SNSの著名人=一次、イノベータ・アーリーアダプタ=二次、という具合に、インフルエンサを二層に分けると、この構造の普遍性が見える

私事になりますが、私には3歳離れた弟がいます。

大学生の頃から、私はファッション・音楽などに関する彼のセンスを信頼しているのですが、20年ほど前、私が30歳の頃だったでしょうか、彼とユニクロに関してこのような会話を交わしました。

私:なんか野暮ったいよねー。

弟:何言ってんだ兄貴、ユニクロいいぞ。

私:えっ、そうなの?

私はその後すぐに、ユニクロの路面店に行ってみて、同社の店舗や商品が、野暮ったくないことに驚き、むしろシンプルで何かと重宝できそうだ、という認識に至りました。かくして洋服の収納には同社の商品がどんどん増え、今となっては普段着ているものはほとんどユニクロで調達している次第です。

ユニクロに対する私の認知・態度ががらり変わったこの事例において、弟はまさにインフルエンサーでした。というわけで、今回はコメモのこのお題に乗っかって考えてみたいと思います。

その関係性は、友人だったり、会ったことのないセレブリティだったり、両親だったり、パートナーだったりと、色々なパターンがあると思いますが、上のユニクロの話のように、誰かに影響を受けて認知・態度変容や意思決定をした、というのは、誰にでもあることです。

「インフルエンサーマーケティング」という考え方が出来して以来、インフルエンサーという概念が着目されているように見受けられます。が、こうしてみると、殊更新しい考えを持ち出すまでもなく、それは大昔から存在していたわけですね。

マーケティングに関連する理論で、Decision Making Unitというフレームワークがあります。これはターゲットを以下の6層に分けて考える、というもので、ざっくりとしたターゲットという概念の解像度を一段あげ、戦略の確度をあげるのに活用するものです。

Initiator: 消費行動の発案者

Influencer: 意思決定への影響者

Decider: 購買するものを意思決定した者

Buyer: 実際に購買した者

Payer: 支払った者

User: 使う者

購買する商品やサービスのカテゴリーや性質によって、これらは同じだったり異なったりします。一人暮らしの人がティッシュペーパーを買うようなケースなら、6つとも「本人」になるでしょうし、これが高価なおもちゃだったりすると例えば

Initiator:(子供の日に何か買ってやろう!と言い出す)祖父

Influencer:太郎くん(買ってもらう本人)、その友人

Decider:母

Payer:祖母

Buyer:父

User:太郎くん

と、それぞれに異なることもあり得ます。このようなケースでは、リソースに余裕があるのであれば、それぞれに的確なメッセージを送れば、より高い確率で選好されることができる、という次第。

この理論からも見て取れるように、意思決定するときに誰かに影響される、というのは人間の性質であり、時代によって移ろうようなことではありません。

しかし、誰の、どんな手段によって影響されるか、ということは変わります。

20世紀の後半、少し乱暴にいうと、TVコマーシャルを入れれば入れるだけ商品が売れた、という時代がありました。

この時、時代の主たるインフルエンサーは広告主の企業であり、その手段はTVコマーシャルだったわけです。

その後、インターネットの勃興により、個人が情報発信や探索できるようになってから、自画自賛アプローチである広告という手段に対する依存や信頼が相対的に下がり、同じTVを使うにしろ、報道番組などの中で自社商品について語ってもらうPRのアプローチが重要になってきました。消費者のメディア接触態度の変化によって、有効なインフルエンスの手段が変わったのです。

さらにSNSの隆盛により、強い発信力を持った個人が台頭し、かつ個人と個人間でのネットワークが強化されました。

これによりTVそのものに対する依存や信頼がさらに揺らいできた時に、その強い発信力を持った(かつ、自社の商品やサービスのオーソリティや推薦者になり得るプロファイルを持った)個人をマーケティングコミュニケーションにまきこむ、という考え方が出てきました。これが一般的にインフルエンサーマーケティングと呼ばれるものです。

そして現在は、SNS上のインフルエンサーからの発信にビジネス臭がつきつつあること、またビジネス臭を纏わない形で彼らに発信してもらうことの難しさから、このアプローチは抑え気味になり、代わりに自社営業による発信を強化することにより、著名性によるオーソリティを自社内に取り込もう、というような機運が見られます。

で、これからどうなるのか、なのですが、インフルエンスされて意思決定するのは、先にも指摘したように、人間の性質に関わることなので、ここをいかにマーケティングプロセスに取り組んでいくか、というのは未来に渡って重要なアジェンダだと考えます。

ここまでの内容では、議論をシンプルにするために、20世紀のインフルエンサー=TVCM、というような記述をしてきましたが、影響を与える者と与えられる者の関係は複層的です。

すなわち、昔から現在に至るまで、それぞれの時代のインフルエンサーからの情報を受け、我先に商品を試し、その感想や使用感を家族や友人に共有し、なんなら推薦してくれる、いわゆるイノベータやアーリーアダプタの人たちが、2次的なインフルエンサーとして消費や普及を後押ししてくれています。

この(TVCM、TVでの報道、SNS上の個人などの)一次インフルエンサーから、イノベーター・アーリーアダプターという二次的インフルエンサーに情報が広がり、そこから普及していく、という構造自体は、今のところ大きくは変わっていないと筆者は考えます。

その大きな構造の中で「インフルエンサーマーケティング」の勃興と沈静化により起きたのは、SNS上の個人という、たまたま広告主がアプローチしやすかった人の起用が乱用され、そして効果を失ってきた、ということ以上でも以下でもない、とも。

こう考えると、自社サイトからの発信も、中の人の呟きも、どれも、より強い発信力・影響力を持った一次インフルエンサーのチャネルを確保できるか、という試みであるように思われます。そしてこれらの手段は、誰かが新しいものを考え出し、それが瞬く間に模倣され陳腐化し、そしてまた新しい手段が登場する、というダイナミックなサイクルが、回り続けるのであろう、と思います。

ところで、この記事のタイトルの写真は、私が勤務するプリファードネットワークスの同僚エンジニアが副業的に営む醸造所で造っているビールのラベルです。

IPAからスタウトまで色々なフレーバーを提供してくれてとても楽しめる彼の商品は、なんと機械学習で各種ホップの配分を最適化している、とのこと。

私はビールを相当好むタチで、結構色々なのを試しているつもりなのですが、今回彼から購入した六種類のフレーバーは、どれも個性的でとても美味しいものばかりでした。

ある種のIPAなど、口に入れた瞬間、舌の上で5味全てが弾けるように繰り広げられ、全身がフルカラーに彩られるようです。

筆者自身がインフルエンサになれるかどうか試すべく、記事中で紹介してみた次第です。ご興味の向きは、コメントでお知らせくださいね。




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