伝統的な日本企業にとって優れたデジタルサービスの実現を阻む3つの課題
インターネットの誕生から30年が経過し、デジタルネットワークへの接続が日々の生活において当然になった現状においても、いまだに優れたデジタルサービスには海外製のものが多い印象です。
楽天やメルカリのように日本のデジタルネイティブ企業による素晴らしいサービスも存在しますが、残念ながら日本の伝統的な企業が提供していて感心させられる水準のデジタルサービスは、寡聞にして片手で数えられるほどしか知りません。
日本市場においても、GAFAなどの海外勢の脅威は今後も増していくことが予想される中で、伝統的な企業が市場シェアを守っていくためには、そろそろ本気で動き始める必要があります。
DXブームが起きてから数年が経過し、既に巨額の投資が行われているのも事実ですが、前進している感覚をお持ちの方は残念ながら少ないのではないでしょうか。
その最大の原因は、長期にわたって伝統的な企業において『ソフトウェアといえば主に社内の業務システムのこと』で『デジタルサービスも業務システムと同様に捉えてしまっていること』にあります。
業務システムの特徴は、目的が内向きな業務の効率化であり、作るものの要件は既知のもので、社内で利用を強制できることです。
その文脈であれば、安価に確実に作り切るのかが重要になりますし、利用者に寄り添う優先度は低くなります。また、業務の効率化は一定の水準を越えなければ事業の競争優位を左右するものにはならないため、内製化をして社内に人材やノウハウを蓄積する動機はありませんでした。
しかし、外を向いて顧客へ提供するデジタルサービスでは、真逆の観点が求められます。以下の3点を乗り越えなければ優れたデジタルサービスを生み出すことは困難です。
① デジタルサービスの本質は不確実性との戦い
競争が激化して供給が需要を超過する状況において顧客が求めるものは曖昧になり、顧客自身すら欲しいものがわからなくなっています。
その結果、新たに顧客サービスを構築する難易度は高まり、何を提供すべきかという要件は仮説に過ぎなくなっています。不確実性と対峙する必然性が高まっているのです。
不確実性と対峙する際に求められる一例として、コマンド&オーダー型の文化は上手くいかなくなります。組織構造や文化、目標の在り方など、企業活動の在り方を根本から見直す必要が出てくるのですが、組織全体でこの本質を理解して腹落ちしない限り、前に進むことはできません。
② 利用者を中心に据えた弛まない継続改善
新しいデジタルサービスは、リリース時点では顧客にとって価値がない場合もあり得ます。つまり、リリースすることは仮説検証の始まりに過ぎません。そこで、従来の予算と期限を守って作りきることを目指し、リリース後の改善が前提になっていない業務システムの開発アプローチは不適合です。
守るべきはリリースのための予算でも期限でもありません。利用者にとっての価値があることが最重要であるため、仮説検証に基づく継続的な改善アプローチの採用が求められるのです。
③ 専門人材の充足
この記事では、日本におけるデジタル人材の不足が指摘されています。
デジタル人材に対する要求は日々高まっていますが、そもそも定義自体が曖昧です。しかし、最低でもソフトウェアで何が実現できるのか、できないことは何かを精緻に理解しなければ、デジタルサービスの初期企画において成功確度を高められません。つまり、大方針を決定する経営陣の中に、コンピューターサイエンスを専攻していた役員がいない場合、どうしても成功は難しくなってしまうと言わざるを得ません。
また利用者価値を高めることに専門性を持つ人材の重要性も高まっています。最近、この1年でUX(利用者体験)の専門人材の求人票が3倍程度増加していると聞きました。
優れたデジタルサービスを提供するためには、継続的な取り組みが必要になります。競争優位を確立するためには、専門性のある人材を内製化する道を避けては通れないでしょう。