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信託銀行と議決権を巡る潜在的な課題は集計問題だけじゃない!?〜アメリカ上場企業データを検証して見えた信託銀行の意外な影響力〜


 議決権を巡り、三井住友信託銀行とみずほ信託銀行に課題が指摘されました。信託銀行のサービスの一つに、株主総会の運営サポートや、議決権集計があります。上場企業の多くは、株主が分散していることや、株主数の多さから、こうしたサービスを活用しています。その信託銀行の議決権集計を巡って、課題が浮上しました。下記の記事にある通り、三井住友・みずほ両信託銀行が、議決権行使書の集計に関して、株主総会前日に配達されたいた議決権の一部を、翌日扱いとして集計から外すことが20年近く続いていたといいうことです。不適切な集計の背景には、議決権収集のデジタル化の遅れもあり、作業の煩雑さも影響しているようです。今回は、こうした課題の影響をデータで垣間見つつ、信託銀行を巡る潜在的な課題を考察します。


*僅差で可決される議案は、何件ほど存在するのか?

 今回の問題に関して、正確に議決権が集計されていたとしても、両行ともに行使結果(議案の可決か否決)には影響は無いと報告しています。実際、2011年から2020年の株主総会議案(集計可能な約34万件の議案データの範囲より)の賛成率の平均値は95%超と、多くのの議案が圧倒的な賛成率で可決されています。また、僅差で可決された議案(ここでは賛成率60%以下、50%以上でソート)は、約34万件中、500程と0.2%にも満たない結果です。両行が報告している通り、今回の問題が行使結果に大きな影響を与えていた可能性は小さいかもしれません。株式会社の根幹を揺るがしかねず、海外投資家による日本企業への投資意欲を削ぐリスクがあります。日本への投資マネーを円滑に呼び込むためにも、早急な是正は必要でしょう。


*信託銀行を巡る議決権を巡る課題は、もう一つある!?

 しかし、信託銀行の議決権管理に関しての課題は、これだけではないのかもしれません。アメリカ上場企業と、アメリカ信託銀行が管理している議決権数のデータを活かした下記の実証研究が、ある課題を報告しています。

Joao A.C. Santos, Adrienne S. Rumble, 2006. “The American keiretsu and universal banks:Investing, voting and sitting on nonfinancials’ corporate boards”, Journal of Financial Economics, 80. p419–454


 この研究では、信託銀行が預かり管理している議決権が(信託銀行が当該企業に投資はしていないが、受益者から預かった投資資金に付随する議決権:実質的に保有して議決権行使を信託銀行の意識で決められる議決権)、「議決権先の企業に信託銀行系列の銀行員取締役が存在する確率」に影響しているかを検証しています。 2000年時点のデータを見るに、アメリカの銀行TOP100は、信託銀行ビジネスを通してS&P500組み入れ企業の議決権10%を預かり管理し、S&P500組み入れ企業の数社に至っては、議決権の20%以上を管理。更には、アメリカの数社の上場企業では、60%以上管理しているケースを報告しています。
 そして、信託銀行が議決権をより保有している企業ほど、信託銀行系列の銀行員取締役の存在確率が高まっているということでした。また、「信託銀行銀行による議決権管理」と「銀行からの貸付」の両方があると、より高い確率で系列の銀行員取締役が存在していることを報告しています。

 つまり、アメリカの信託銀行においては、議決権行使において信託銀行が系列の取締役を選任させようとする利益相反が起きていた可能性を指摘しているのです。こうした現象は、ドイツの信託銀行を対象にした実証研究でも同様のことが報告されています。日本と、アメリカ・ドイツの信託銀行を巡る制度は違いもありますし、国内では起きてないとは思います。しかし、こうした潜在的な課題が存在することは投資家としては抑えておきたいところです。また、そうした疑義を持たれないためにも、適切な議決権集計が進むことを望みます。


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崔真淑(さいますみ)

*トップの画像は崔真淑著『30年分の経済ニュースが1時間で学べる』(大和書房)より引用。無断転載はご遠慮くださいませ♪










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