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仕事場を選ぶのに、大手/スタートアップという軸は、あまり役に立たない

今回のCOMEMOのお題はこちらです。

筆者は、92年に就職してから、メーカー3社、リテール3社、ITの新興企業2社、旅行業界1社にフルタイムの社員として勤務した経験があります。

このうちIT2社は、両方とも100人以上の規模なので、少し大きいですが、まぁスタートアップと言ってもよいのではないか、と思います。

逆にリテール3社、メーカーのうち1社、旅行業界1社は1000人規模の大手でした。

ので、一応、両方で仕事したことがあるわけですが、今胸に手を当てて思い返してみると、スタートアップと大手で、明確にここが違う、という点はあまりなく、強いて言えばトップまでの距離の近さ、くらいなのではないかと思います。

スタートアップ=ハイリスクハイリターン、大手=その逆、というのはあるのかもしれません。
まぁでも、今日び大企業でも破綻することもあるし、潰れないスタートアップが必ずしも社員全体にハイリターンというわけでもないでしょうから、これも大手/スタートアップの差よりも、ひとつ一つの企業の特徴・個性によると言ってしまえばそれまでです。

・・・・と、ここまで記してみて、、、、うーん、どうも、大手/スタートアップ、という軸で仕事場を選ぶ、という感覚が、あんまりピンと来ません。

ので、少しお題を拡大解釈させていただきたいと思います。

どんな仕事をしたいのか、ではなく、どのような集団に属したいのか、という観点

読者が誰かに自己紹介される時、どのような表現を使われるでしょうか?
このテーマを自問してみると誰でも、XX出身・XX卒業・XXのコミュニティのメンバーなどなど、どのような集団に属しているかという要素は、自身のアイデンティティのうち、小さくないサイズを占めているのに気づくのではないかと思います。
そして、XXで仕事をしている、というのは、数ある所属の中でも最も強いものです。つまり人は誰かのことをXX社の誰それ、と認識する傾向が強い、という次第。
この傾向に大手/スタートアップの議論を掛け合わせると、自身の勤める企業がどちらのカテゴリに属しているか、ということは、そこに勤める人のアイデンティティや社会的なイメージに結構な影響を及ぼすのではないかと思います。つまり、自己イメージの中で、リスクテイカー、という要素を強化したいのであれば、スタートアップに所属することは(一般的にスタートアップにはハイリスクハイリターンというイメージがあると思われるので)一定の合理性があるのではないでしょうか。逆に堅実なイメージを纏いたいのであれば、大手を選ぶことが合理的です。
念のために記しますが、これはスタートアップの方がハイリスクハイリターンだ、とか、大手の方が堅実だ、ということを言っているのではありません。一般的にそれぞれにどんなパーセプションがあるのか、そして自己が纏いたいイメージがあるのであれば、そこを合わせに行くのは存外理に適ったことなのではないか、ということです。畢竟人は幸福を増大するために仕事をするのであり、自己アイデンティティを自分の意図に合わせにいくことは、幸福の増大に貢献する可能性が高いからです。

どんな仕事をしたいのか、という観点

もし、明確にやりたい仕事があるのであれば、普通の就活を通じての仕事場選びは、最近話題の「配属ガチャ」のリスクがあります。

それぞれの社員のアサインメントを決めるのは通常人事部だし、それを最終的に承認するのはトップであるCEOなので、組織が小体で距離が近く、コミュニケーションが物理的にとりやすいスタートアップは、希望を直談判できる可能性が高いと言えるでしょう。

しかし、その明確にやりたい仕事が、仕事場を探している彼ら・彼女らの幸福を最大化するかどうかはわかりません。なぜならば「やりたい」という気持ちは、今まで重ねてきた勉強、経験の延長線上にあることだからです。
つまり「やりたい」気持ちの源泉になっているのは、この広い世界の中で、今までの限られた時間で見聞きすることができた、ほんの僅かな部分でしかなく、その他から導き出される別の仕事の方が、より大きな幸福につながるかもしれないからです。

新卒の配属先は、ある程度網で掬って決めるような要素もあるかもしれませんが、そうは言っても最大公約数的にでも一人ひとりの適性を観察した結果として決められるものなのです。
そうであるならば、決まった配属先でまずはやってみる、というのは、狭い経験から導き出した「やりたさ」よりも、自分を客観視してくれた周囲が自分に寄せたくれた「期待」に応える、ということにように思えます。
その期待に応えていくことにより、若者は仕事師として、段々と成熟していくのではないかとも。

まとめると「やりたい」仕事に就ける確率は大手<スタートアップのように感じられますが、その「やりたい」仕事が幸福に繋がっているかどうかはわからない、ということですね。
また、大手でも、本当に望むのであれば、少なくとも人事との直談判はできるのではないかと思います。
要は、ここでも、大手/スタートアップという違いはそんなに重要ではなく、「やりたいことをやる」と「期待されることをやる」という信念の軸のチョイスの方がより根源的だ、ということかと。
「やりたいことをやる」も尊いし「期待されたことをやる」もまた尊いのです。

どんな空気の中で仕事をしていくのかという観点

ご案内のように、組織にはカルチャー(=空気)があり、それによりトップダウン/ボトムアップ、厳格/鷹揚、コントロールを重視する/自主性を重視する、アジリティを重視する/長期的な戦略を重視する、などなど様々な規範が生まれます。
このカルチャーと規範は、働き手の幸福に大きな影響を及ぼすのではないかと考えます。
筆者個人は、鷹揚・自主性・長期的戦略という規範を好むので、この逆の組織では窮屈さを感じ、あまり幸福実感がありません。もちろん筆者とは逆のベクトルで幸福を感じる人もいるわけで、そのような組織では、筆者の逆のような行動・判断規範を持っている人がイキイキと仕事をすることになるわけです。
これを大手/スタートアップの議論に重ねると、ステレオタイプとして、大手の方は官僚的、管理的、長期的、という直感を持ちますが、これはバイアスであり、実際はスタートアップにも官僚的・管理的な企業もあります。要は、創業者を筆頭とするマネジメントが、どのような組織カルチャーと規範を創るか、に尽きるわけです。
ここは、仕事を通じた幸福や充実に大いに関連する大事なところですが、ここを就職前にジャッジするには、とにかくその会社のいろいろな人と会ってみる、実際に会社に行ってみて空気を感じ取ってみることです。企業側が引いた採用のレールに乗っかるだけでは通常は不十分です。内定を勝ち取ったら、積極的に組織のカルチャー・規範を感じ取りに行きましょう。

(あと、実態としては、自分の直属の上司の性格や考え方は、彼の率いるチーム固有のカルチャーや規範の元となり、働き手の幸福度に大きく影響すると思います。が、上司を選ぶことは大手/スタートアップに関係なくできないので、ここではこれ以上論じません)

以上、新卒の若者の仕事場選びを大手/スタートアップという対立軸で考える、というお題に対して、属したい集団・やりたい仕事・仕事をする空気、という3つの観点から考察してみました。大手/スタートアップはあまり関係ない、という結論になりましたが、読者の皆さんはいかがお感じでしょうか?

最後に、上の記述と矛盾するようなのですが、筆者自身は学生時代からマーケティングを仕事とすることを強く希望していました。
幸いなことに最初の会社がそれを実現してくれたのですが、入社から配属決定までの間は「もし配属先がマーケティングじゃなかったらどうしよう」と随分と気を揉んだものでした。

大人になり、当時の自分のように感じている学生諸氏や、マーケティングにアスピレーションを感じている学生を積極的に採用したい企業をマッチングしたい、との思いから、自身が理事を勤めている社団法人「マーケターキャリア協会」でこれを実現する「幸せな就活」というプログラムを作りました。あまり書くと宣伝になってしまうので、このくらいでやめておきますが、ご興味の学生や、企業人事部の方は、以下のリンクをご覧になってみてください。





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