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ハイブリッド・ワークショップのつくりかた~ネット×リアルをかけあわせた場づくりの可能性~

 Potage代表取締役・河原あずさです。コミュニティ・アクセラレーターという肩書で、さまざまなワークショップやアイデアソン、ハッカソンのファシリテーションを日々行っています。

 2020年4月に独立したのですが、ちょうどそのころは、多数企画していたワークショップやアイデアソン、ハッカソンの案件はゼロになりました。しかし、今ではオンラインを中心に案件がだいぶ戻ってきており、オンラインワークショップのファシリテーションも、リアルと遜色ないレベルで進行できるようになりました。その試行錯誤から生まれた知見をまとめたのがこちらの記事です。

私も以前はワークショップや企画検討などのクリエーティブな会議は対面が絶対にいいと思っていました。しかし最近では、新たなツールを活用することで、ウェブ会議でもクリエーティブなことはできると感じています。

 これは下のリンクの記事でJUAS情報共有研究会部会長の斎藤学さんが述べている言葉ですが、同様の感想を私も持っています。

 しかし、やはり「対面」の魅力も捨てがたいと思うのも、ファシリテーターの性です。コロナ禍で、対面ワークショップに負けない高揚感と熱量を生み出せる場をつくれないものか。さまざま試行錯誤する中、2020年12月に新しいスタイルの事例を生み出すことができました。オンラインとリアルを掛け合わせた「ハイブリッド・ワークショップ」です。

 今回のCOMEMO記事では、2020年12月に長崎県と、2021年2月に新潟県とコラボレーションして開催された、リアルとオンラインをかけあわせたワークショップ(アイデアソン)の形式「ハイブリッド形式」について紹介しながら、その利点と可能性について紹介できればと思います。気になる方はぜひ、この記事を参考にしながら、ハイブリッドワークショップを開催してみて下さい。きっと新たな発見があるはずです。

※「コミュニティづくりの教科書」共著者の藤田祐司氏のこちらの記事も参考になります。ぜひチェックください!

ハイブリッド最大の敵は「孤立感」「疎外感」

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 これは、2020年12月に渋谷×長崎をつないで開催されたハイブリッドアイデアソン「Q-reation」ワークショップの"集合"写真です。みなさんの表情が、会の充実を物語っているように思えます。

 しかし、このみなさんが笑顔になれるようなハイブリッド形式のワークショップにたどりつくまでには、さまざまな失敗と試行錯誤がありました。

 コロナ禍になって以降、何度か複数の拠点をつないでのイベントやワークショップを試しました。しかし率直に感じたのは、拠点をまたぎながらコミュニケーションを整理することの難しさでした。以下、難しさを感じた事例になります。

事例① 1グループがひとつのカメラに入りリモート参加

会場でワークショップをやっている際に、1グループのみリモートで参加。成立しなくはないが、カメラやマイクから遠い人とのコミュニケーションが特に難しく、メイン会場との掛け合いがほとんど成り立たない。
同様に、Zoomの一画面に複数名入りワークを進める場合、他の参加者とのコミュニケーションにギャップがみられる傾向がある。
事例② メンターがZoom経由で遠方からグループワークに参加

会場でワークショップをやっている際に、有識者1名がメンターとしてグループワークに自宅からZoom経由でリモート参加。結論としては、かなりコミュニケーションが困難な状況になった。
複数名が同時に会話している状況をリモートからマイク越しに把握することがかなり難しい上に、隣グループの話し声などさまざまなノイズが混じり、コミュニケーションがほぼ成立しない状況となる。

 基本として、グループでのコミュニケーションは「多数決のバイアス」(ちなみに河原の造語です)が発生しやすいものです。

 たとえば対面でクライアントと会議をやるときに、クライアントから複数人参加され、自社が一人の参加だった場合、自社の思惑通りに話が進みづらいという現象がよく起きます。

 一方、クライアント参加者と同数の自社の人間を連れていくと、議論がフラットになり、スムーズに進むということがあるのです。これが「多数決のバイアス」からくる事象の例になります。

 議会ではないので、賛成人数の多い/少ないで物事が判断されるわけではありません。しかし、その場の空気は「多数を占める集団」がつくりあげる傾向があるのです。

 たとえば、内輪のメンバーが多く参加するイベントは外の人が入りづらい空気になりがちです。登壇者の人が内輪の人たちに向け語りかけたり、内輪の人同士が会話する状況になるからです。

 このような場において生まれるのは、新規にやってきたメンバーの「孤独感」「疎外感」です。

 Zoomなどのリモートツールを活用すると、ますますこの「孤独感」「疎外感」が発生しやすくなります。複数の人がカメラに写っているトークに遠方から1人リモートツール経由で参加すると、その会話に入り込めなくなるのです。「そっち側は盛り上がっているのに、自分は一人」という気持ちにどうしても陥ってしまうのです。

 事例①②の場合は、それぞれこの「孤独感」「疎外感」が発生しています。①のリモートから参加するグループは本会場に入れないことによる仲間ハズレ感を感じますし、会場側にいる人たちもリモート参加の人たちに対し「あの集団は別枠」という風に無意識に思うのです。これではワークショップにおいて大事な場の心理的安全性がいっこうに芽生えません。

集合して個別にZoomでつなぐ利点

 これらの事例を体験した後に、2020年12月に開催された長崎県とのアイデアソン企画が立ち上がりました。もともとは渋谷に長崎県のみなさまを迎えて開催する予定だったのが、新型コロナウイルスの状況もあり、急遽、長崎県の皆様が東京に来られなくなりました。

 フルオンラインにする手もあったのですが、もともと当企画で大事にしていたのが「地域のキーパーソン同士の出会い」でした。つながりづくりの要素をより強調したものにしたいという要望もあり、2つの会場を借りた上で、ネットでつないでアイデアソン進行を行う「ハイブリッド」形式を長崎県に提案。採用されることになりました。

 長崎の会場と、渋谷の会場を用意して、それぞれの地域からの参加者を集めます。しかし、普通にワークショップをやると、「地域のキーパーソン同士の出会い」を促す「長崎×渋谷の混成チーム」がつくれません。チーム用のパソコンを用意して、グループ間をZoomでつなぐ方法もありますが、先ほどの「多数決のバイアス」が発生しやすい上に、集団でひとつのPCを使うとイヤホンマイクが使えず、スピーカーの音を出す必要もでてくるため、会場のノイズが大きくなりコミュニケーションの難易度が上がる懸念もあります。

 そこで渋谷会場のSHIBUYA QWSのスタッフの一人が考案したのが「全員音が混ざらない距離をとって座り、Zoomにアクセスし、イヤホンマイクを使ってコミュニケーションをとる」方法でした。

 この方法だと1パネル1名の状態でZoomに集合するので、ブレイクアウトセッションと、みんなで共有できるワークシート(ここではGoogle Slideを使用)を使うことで、オンラインワークショップ同様の進行でファシリテーションを成立させることができます。

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 ハイブリッドアイデアソンを開催している渋谷会場の様子です。音が混ざらない「ソーシャルディスタンス」を参加者が維持しながら、Zoomに各自の端末からアクセスし、ワークショップを進めています。

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 同時刻の長崎会場の様子です。両会場の写真をみると、とてもひとつのワークショップに参加しているように見えません。しかし、Zoomを介して、1つの場に集まって、グループワークをまさに進めている瞬間の写真なのです。

 わざわざ人を会場に集めてZoomでつなぐ意味があるのかと感じる方もいるかもしれません。しかし、このハイブリッド形式を開催することで、3つの利点を見つけることができました。①参加者の脱落を防ぐ ②参加者同士の交流が持ちやすくなる ③非日常感の演出 です。

①参加者の脱落を防ぐ

 通常のオンラインワークショップだと、自宅や職場からZoomにアクセスすることになりますが「子供が泣き出した」「仕事の電話がかかってきた」など、ちょっとしたきっかけで途中で脱落しやすくなります。オンラインイベントは、気が散りやすいものなので仕方のないことです。

 しかし、人を集めて、相互にZoomにアクセスして議論している様子が目に入ると、「自分もきちんと集中して臨もう」というスイッチが入りやすくなります。機材トラブルなどで脱落しかけても、会場のスタッフが即座にフォローできます。Q&A対応がしやすくなるのも利点です。

②参加者同士の交流が持ちやすくなる

 実際に会場に人を集めるので、終了後や休憩時間の参加者同士の交流を持つことができます。オンラインイベント最大の不満点の一つが「ネットワーキングが難しい」ことでしたが、この点が解消しやすいのです。実際に私が開催した長崎のアイデアソンでは、終了後に参加者との名刺交換タイム+立ち話が発生し、「あ!この感覚久しぶりだ!」と嬉しい気持ちになりました。

 会場間の交流は課題ですが、Zoomを使うのはもちろんですが、Clubhouseなどを併用して、できるだけ立ち話に近いカジュアルなかたちで会場間をつなぐ方法も考えられます。

③非日常感の演出

 いちばん大きいのは、会場に「わざわざ足を運ぶ」ことによる「お祭り感」つまり「非日常感」が演出できることです。

 いくら頑張ってみても、自宅や職場からアクセスするオンラインワークショップは「日常の延長線上」にあります。お祭りに参加する感覚というよりは、家で参加型のオンラインゲームをやっている感覚に近いかもしれません。それはそれで悪くないのですが、やはりイベント独特の「オンリーワンの体験をしているのだ!」という感覚は、特別なものがあります。

 さらに、会場に人が集まりながらも参加者みんなが個別にZoomでつなぐという普段は味わえない体験が「非日常感」につながります。実際に体験してみると、良くも悪くもSFの世界の出来事のような光景で、なんか面白いことが起きているなという感覚がこちらのハイブリッド形式だと味わえるのです。

複数拠点同時のワークショップ開催の可能性

 ワークのつくり方は、Zoomで行うオンラインワークショップのフォーマットを踏襲しましたが、プレゼンテーションが渋谷の会場の大型スクリーンで行われるため、普段のオンラインワークショップよりも、凝った資料構成になっていたのも印象的でした。審査員も目の前に5名いたため、緊張感のあるプレゼンテーションが繰り広げられ、質の高い質疑応答も実現できました。オンラインでのプレゼンでは披露するのが難しい「エモさ」が表現できていたのが印象に残っています。

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※Q-reationワークショップでの審査員を前にしたプレゼンテーション@渋谷会場の様子です。

 また、もともとの目的の一つだった「参加者間の交流」も発生し、渋谷会場の中、長崎会場の中、そして長崎と渋谷の間での相互交流を実現できました。

 私は、特に地域活性のためのワークショップに「複数拠点同時進行」のハイブリッド形式は向いていると考えています。

 当然、地域課題の語り部は、各地域の当事者であったほうが、問題提起の精度は上がります。しかし、内側の人たちだけで議論しても、新しい発想は生まれづらく、形式的になりがちです。そうならないように必要なのは「外から持ち込まれた視点」です。外部の人が触媒となり、新しい発想が持ち込まれたり、発想の転換が起きたりするのです。

 また、特定地域の課題を、他の地域の人と一緒に考えることができると、お互いにそれぞれの課題を客観視することができます。各地域の課題は、共通するものがとても多いため、他の地域が鏡となり、自分の地域の課題について考えることにもつながるのです。

 そして他の地域と自地域を比較することで、それぞれの地域の固有の価値(コアバリュー)への気づきも促されます。自分を知り、他者を知ることが、目の前の問題を解決するための第一歩なのです。

 従来、このような地域間ワークショップを開催するには、どちらかの地域から旅費や宿泊費を出して、複数の人たちを呼んで集めるしか方法がありませんでした。しかし、オンライン×リアルのハイブリッド形式であれば、やや広めでネットがつながる集まりやすい空間を用意すれば、はるかに低コストで、複数地域の人たちを集めることができ、しかもオンラインワークショップとも一味違う体験を生み出すことができます。

 同じ形態のハイブリッドアイデアソンは、長崎県と新潟県をクライアントにして、2回開催されました。どちらも大成功で、とても可能性を感じさせるものでした。ぜひみなさんにも試していただきたい形式ですし、私自身も、今後は、地域×地域、日本×海外、大企業×スタートアップなど、さまざまな組み合わせでこのスタイルのワークショップの知見をたくわえながら、ブラッシュアップできればと考えています。もしこのような新しいスタイルのワークショップ、アイデアソン、ハッカソンにご興味ある方は、下記のホームページのフォームからぜひご連絡くださいませ。


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