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新型コロナ収束へ向けたワクチンの評価と今後の見通し

 新型コロナウイルスワクチンの高齢者への接種が4月12日から国内で始まりました。感染症対策の最も確実で簡易なツールであるワクチン接種がスタートしたことは、新型コロナの収束をマラソンのゴールと例えるならばようやく折り返し地点にたどり着いたとも言うべきでしょう。

 しかし、2月中旬に始まった医療従事者の接種が終了した訳ではなく、予定している約480万人のうち1回目が終わったのは9日時点で110万人、2回目も済ませたのは49万人にとどまっており、東京都では接種対象の医療従事者は約60万人、8日までに2回目を済ませたのは全体の7%で、私もまだ接種できていません。5月以降はワクチン供給が本格化する模様ですが、65歳以上の3600万人に対して現状の供給量は十分ではなく、当初6月中と見込んだ高齢者の接種完了は7月以降にずれ込む見通しで、ワクチンの普及が進み様々な制限が解かれていく他の先進国との差は広がるばかりです。

 現在日本で接種されている新型コロナワクチン(ファイザー社製)はm-RNAワクチンと呼ばれ、病原体を含まない物質を接種することにより、体内でウイルスの突起部分であるスパイク蛋白質を作らせる手法を用いたもので、短期間で大量生産が可能であることから新型コロナウイルスが誕生してからわずか1年足らずの驚異的なスピードで実用化された訳です。しかし当然ながらこれまでに開発実績がないため、有害事象や有効性に関するデータがなく、日本より先に接種が開始された諸外国での様々な副反応が報告されたことで接種に対する不安を覚えた方も少なくはないと思われます。

 特に今回大きく取り上げられたのが「アナフィラキシー」と呼ばれる副反応です。「アナフィラキシー」とは「アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与え得る過敏反応」と定義され、これに血圧低下や意識障害をと伴う場合は「アナフィラキシーショック」と言います。ワクチンだけではなく、他の医薬品、食物、昆虫などが原因となることもあり、むしろワクチン接種より頻度が高いことがわかっています。報道などでは「重いアレルギー反応」という言葉が使われていますが、確かにアレルギー反応の中では重度は高いですが、全てに関して重症ではなく、グレード1(軽症)からグレード3(重症)までに分類されます。アナフィラキシーが起こってしまった場合の対応ですが、治療としてアドレナリンという薬剤がありますので、医療機関での適切な対応がとられれば生命の危機はありません。ワクチン接種でのアナフィラキシー反応は一般的に100万件に1件の割合ときわめてまれな事象でありますが、予期できないために新型コロナワクチンだけではなくすべてのワクチン接種後にしばらくは体調の変化がないかどうかを観察することが推奨されている理由です。ちなみに私は小児科医として乳児の定期予防接種および渡航外来でのトラベラーズワクチンの接種を25年以上日常的に行ってきましたが、いまだにアナフィラキシー症状を起こした方には遭遇しておりません。

 治験を行い承認されたワクチンは感染症予防に最も確実かつ簡易なツールであることは間違いありませんが、健康な方に薬剤を投与するわけですから、本来の予防効果よりも接種による有害事象の頻度が少しでも高ければ接種する意義は低くなります。すなわち、接種することによるメリット(=感染症発症を予防すること)が接種することによるデメリット(=有害事象)よりもはるかに高い場合に推奨されるワクチンとしての位置づけとなります。デメリットが大きかったワクチンの最近の例としてデングウイルスワクチンがあり、接種した人が感染した場合に重症化してしまった事例があったため、接種が中断されてしまいました。

 さらに、優れたワクチンは「罹患する人が多い感染症」かつ「重症度が高い感染症」を予防することができるワクチンとなります。以下は渡航医学を専門とする人間は一度は見たことのある有名なグラフなのですが、縦軸は感染症の致命率(CFR: Case fatality rate)、横軸は10万人あたりの感染症の罹患率(Incidence rate)を示しています。「致命率が高く罹患率が高い感染症を予防できるワクチン」が優れたワクチンという位置づけになりますので「Vaccine essential」という矢印に近く、伸びた先にあるワクチンが理想のワクチンとなります。新型コロナワクチンはどのあたりなのでしょうか?

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 今後さらに増え続ける、今後問題となり得る変異株による再感染を繰り返す可能性と、高齢者に特化した致命率だけではなく変異株による若年者も起こり得る重症化の可能性からすれば新型コロナウイルスワクチンはかなり理想的な位置づけになるのではないかと考えます。また当初懸念されていた副反応も確かに2回目接種の際により強く現れるような報告が増えてはいますが、諸外国での免疫効果を鑑みれば公衆衛生学的にはきわめて推奨度が高いワクチンであると考えられます。最も接種が進んでいるイスラエルでは、13日までに国民の約53%が全2回の接種を終え、ピーク時に9千人超だった1日当たりの新規感染者数は14日の発表で約200人にまで減少していますのでワクチンによる予防効果は明白です。

 5月以降にワクチンの確保が加速されると言われていますが、システムの整備や人員の確保など、現段階ではスムーズに進んでいくかどうかは正直疑問が残ります。

#日経COMEMO #NIKKEI

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