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「日本企業らしい」人材流動化の起こし方を考える。

こんにちは、ローンディールの原田です。今日はDeNA南場さんの記事を紹介するところからはじめたいと思います。

簡単に要約すると「人材をできるだけ組織に閉じ込めようとしていた」ところから、「社内人材が起業して、自分の船をこぎ始めることを後押し」するように変わったのだという。それが結果的に、事業提携の機会や優秀な人材の出戻りにもつながる。さらに言えば日本経済が活性化する。そうやって人材の流動性を生むためのエコシステムの土壌をつくらなければ、という問題提起がなされています。(ザクロとか、星と星座とか素敵なメタファーがたくさん出てくるので、ぜひ記事もご覧ください!)

実は私も、経団連スタートアップエコシステム変革タスクフォースというところで委員をやらせていただいていて、南場さんの流動性をつくっていきたいという想い、そして日本が大企業も含めてスタートアップを応援することで経済を活性化させていくのだという情熱を間近で感じる機会をいただき、つくづく素敵なお考えを持った方だなぁと感銘を受けている次第です。

ただ一方で、DeNAさんにはそういう人材の流動化という大きなエコシステムを、しっかりと自社の価値に変えていく小さなエコシステムが回っているからこそ言えることだよなぁとも思うのです。デライト・ベンチャーズというベンチャーキャピタルの存在が最たる例だと思いますが、やはりDeNAの方々は、社員の方もスタートアップ的なスタンスをよく理解している印象があります。だからこそ、社員が起業したときに応援できるし、それを自社とのシナジーにもつなげていける。ではそれが、どの大企業でもできることなのかというと、そう簡単ではないと思います。

なぜなら、大企業とスタートアップで、大きな隔絶があるからです。それはマネジメント・プロセスであり、そこで働く人たちのマインドセットの違いです。例えば、スタートアップには「正解」がありません。これはどういうことかというと、自分で何かを決め切らなくてはいけないということです。さらに、人も資金も限られた環境においては選択肢の中に、ベストなものは無いこともざらです。それでも決めて、前に進める。こういう状態が、大企業で働いている人にはなかなか想像がつきません。私たちは学校教育のころから常に正解がある中で育ってきているので、頭でわかるような気がしても、本質的には理解しがたいのだろうと思います。

ちなみに、よく「経営に正解はない」と言われるように、大企業であっても経営に正解はないのだと思います。一方で、企業として成熟していくということは「正解がない」状態を低減していくことであり、役割分担の下に「正解がない」状態を現場から切り離していくことで生産性を高めてきたのだと思います。そう考えると、現場で新しいことに挑戦する若い世代に「正解がない中で動くとはどういうことか」ということを経験する機会が少ないということではないかと思います。

少し話がそれましたが、つまり、この「正解がない」という話からも分かるように、大企業とスタートアップは全く異なる文脈や背景の中で取り組んでいます。これが、アクセラレーションプログラムとかオープンイノベーションとか、言葉を変えながら大企業とスタートアップの連携が叫ばれているものの、具体的な成功事例があまり増えてこない事の真因なのです。

この隔絶を埋めるための手段として期待されているのが、人材の流動化です。大企業が副業解禁というときに期待することの中にも、このような目論見は入ってくるかと思います。でもこの話、それこそ何十年も前から言われていることだったりするんです。大企業の人材がベンチャー企業に転職するような流れをつくり、一方でベンチャー企業で経験をした人材を大企業が中途採用する。企業の規模やフェーズを越えた人の移動が活発になれば、この隔絶は埋まっていくだろう、と。でも実際には、なかなか実現できていない。それは、なぜなのでしょうか。

それは働く人のリスク許容度の問題だと思います。やはり大企業の給与体系や社会保障など、恵まれたところを飛び出すのは勇気がいります。家族のことや、周囲の目線とか、いろいろな障壁もあります。つまり、人が移動するということのハードルが高いのです。さらに言えば、企業の多様性が低いと、異なる文化・文脈の中で仕事をしてきた人も同質化させられてしまったり、内向きにならざるを得なくなったりということもあるでしょうし、隔絶を埋める存在となるには圧倒的に数が少ないという現状です。

そうであるなら、そのハードルの低い手段を考えればよいのではないか、と思うのです。その手段の一つが私たちの提供する「レンタル移籍」という仕組みです。大企業の社員の方に一定期間ベンチャー企業で働いてもらう、いわゆる出向のような仕組みですが、その最大の特徴は戻って活躍することを期待しているということです。片道切符の島流しではないので、期間限定で挑戦できるし(もちろん移籍をしている間はかなり大変ですが)、ちゃんと帰る場所があるから心理的なハードルはかなり下がった状態で成長できるという、個人のキャリア的な面から見てもかなりお得な(?)仕組みになっています。

先日、ある講座で経営学者の米倉誠一郎先生と対談をさせていただいたのですが(動画はこちらからご覧いただけます!)、米倉先生から「昔だったら。こんな甘い仕組みじゃダメだ!って言ってたと思うけど、そう言っていても変わんないので、ありかもしれないね!」という(お褒めの?)言葉をいただきました。

さらに言うと、中途採用などの手法よりも、この「レンタル移籍」という仕組みが隔絶を埋めるという点で機能すると考えています。なぜなら、自社で育った人が外を見てくるからです。大企業の比較的モノカルチャーの中に存在する組織の中に、いきなりベンチャー企業の人が転職してきて「ベンチャーではこう考えるんですよ」といってもイマイチぴんと来ない。でも、自分と同じ文化で育ってきた人が「ベンチャーに行ってみたら、こんなふうでしたよ」って話す方がよほど理解ができるわけです。

このような外に行った人が戻ってきて活躍するという流れを仕組みとして作っていくというのは、流動性が高く、ジョブ型雇用が主流の欧米では成立しません。仕事ではなく企業と個人の繋がりが強い日本企業だからこそできることです。循環していくような人材の流動化、そういう日本企業ならではの仕組みの中で、人材育成の形や、大企業とスタートアップの関係性をアップデートしていけたら良いなぁと考えています。

もちろん、これはこれでそんなに簡単な話ではありません。そもそも一定期間であれ、人を出すことを組織は許容できるのか、結局辞めちゃうリスクはないのか、外部で得てきた知識をどうやって融合していくのか、などなど。このあたりのことはまた改めて書いてみたいと思いますが、今日は少し長くなってしまったので、このあたりで。

ぜひご意見ご感想などお聞かせいただければ幸いです。それでは。


追伸

ローンディールではいろいろな「外」を見る機会を提供するために、いろいろなイベントを開催しています。ご興味があればぜひご参加ください。


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