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離島の住民の足を確保する。

MaaS。Mobility as a Service。地域住民や旅行者の一人一人に、最適な移動サービスを実現しようというコンセプトだ。バス、電車、タクシー、自転車、カーシェア、飛行機、船などの移動手段をシームレスに組み合わせてスムーズな移動を実現する。既存の公共交通機関に加え、多くのスタートアップ、商社、自動車メーカーなどが、サービスの事業化に挑戦している。それらの取り組みを少し見たあと、離島での住民の足について考えてみる。

まずは、オンデマンドバス「のるーと」だ。利用者がスマホアプリを使って乗車予約をすると、小型のワゴン車が来て乗車できる。同時に複数の場所で利用者がいる場合には、一筆書きの最短ルートをAIが考えてドライバーに提示してくれる。大型二種の免許も要らないので、ドライバーの確保のハードルも下がるようだ。しかしながら、既存の交通機関との調整、需要を生める運賃での収益性の確保など、持続的な運行にはもう少し時間が掛かりそうだ。

電車、路線バス、そして高速船などでは、貨客混載の取り組みが進んでいる。どの交通機関でも、コロナ禍において乗車率が大きく下がったが、その減収分を補うべく取り組んでいる様々な施策のうちの一つだ。空いている座席やスペースに荷物を載せて運べば、新たな収入源にできる。新幹線は配達スピードを、ローカル電車やバスはCO2の削減を打ち出し競争力につなげている。高速ジェット船は、既存の宅配便より早いを実現し、鮮度が大事なものの輸送に活用している。

船のMaaSも始まっている。乗合海上タクシーだ。島を満喫する観光客を呼び込み、地域の活性化を実現しようというものだ。港にステーションを設け、シェアリングカーで市内を安価に回れるサービスも付けた。新幹線などからの乗り継ぎの不便さが解消され、充実した1日を過ごすことができるようになるという。島側にもシェアリングカーを置くことができれば、島の魅力も堪能できるようになるので、更なる広がりが楽しみだ。

ここまで、オンデマンドバス、貨客混載、海上タクシー、車と船の乗り継ぎと見てきた。今回の本題となる「島民の足」を考える上で、もう一つ重要なトピックがある。それは自動運転だ。島内でのドライバーの確保、ましてや二種免許を持つドライバーの確保を実現するのは、ほぼ不可能と言って良い。そこでどうしても必要になるのが自動運転だ。

4-5年くらい前から自動運転の実証は様々なところで始まっている。ハンドル操作による左右移動とアクセル・ブレーキによる加減速の両方を自動制御する取り組みだ。実現には、各種センサーおよび自動運転ソフトウェアに加えて、3次元地図の作成、遠隔操作・監視システムの導入など様々な技術が必要になる。

いまのところ、問題発生時に、同乗もしくは遠隔のドライバーによる介入が必要となる場合が多く、完全な自動運転には到達できていない。ただ、実証の場所としては、難易度の高い市街地などが多く、島など「見通しが良く密でない道路環境」であれば、比較的早期の完全自動運転も可能ではないかと考えている。予め道路に敷設した磁気マーカーの上だけを走るという簡易な方式であれば、更にハードルは下がるはずだ。

さて、「島民の足」のありたい姿とはどんな姿だろうか。まずは本島と離島を結ぶ連絡船がいる。本島にある学校や会社、生活インフラに、不自由なく移動できることが求められる。港からの足も確保したい。ここはオンデマンドバスに活躍してもらいたい。ただ、通勤・通学の時間には利用が集中するので、複数台のバスがいるかもしれない。船は少し小さくして、便数を増やすのもありだ。需要の時間推移に合わせて、船とバスの台数やキャパシティを決め、乗り継ぎをデザインする。

日中は、利用者が減る。このままでは船とバスの収益は厳しい。ここは観光客の出番だ。島の魅力を磨き上げ、ツアーなども造成して、島のキャパシティに合わせた観光客を誘致する。神津島の例だが、離島の星空は街灯を変えるだけで別物に磨き上がる。こうしたたくさんの付加価値を重ねて、運賃を高くする。そんな工夫もしていきたい。さらには、生活物資、生菓子など鮮度が気になるもの、離島で採れた新鮮な海産物も貨客混載することで収益を増やしていく。

とはいえ、通常のオンデマンドバスでは、ドライバーの人件費が重くのしかかる。なんとか自動運転へと移行すべきだと感じる。幸いにも、離島では人の密度が低い。見通しの良いところ、人通りの極めて少ないところを選んで、低速で運行すれば事故の確率は圧倒的に低い。それでも危ない場所では人に接近を知らせる仕組みや外から止められる仕組みなどで工夫をすればいい。自動運転バスの初期費用は気になるところだが、いまある自動運転でもうまく使えば、「島民の足」のありたい姿の実現にだいぶ近づくことができるのではと考えている。

「島の足」は公共交通として持続させることが大事だ。でも税金投入に頼り続けるのは良くない。たくさんのアイディアを出し合って、島民一人あたりに投入する税金を毎年僅かでも削減していく。これを実現する意思が必要だと思う。ここで紹介したオンデマンドバス、貨客混載、海上タクシー、船と車の乗り継ぎ、自動運転、観光客の誘致は、上手く組み合わせれば大きな力を生む。島の未来を紡ぐ。仲間の力を結集して、島民と共に実現したいと思う。日本の離島の未来が楽しみで仕方がない。

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