副業先での学びや経験を、本業に活かす社員をいかに増やすか。副業の在り方は大きく変化している。
皆さん、こんにちは。今回は「副業」について書かせていただきます。
「副業」や「兼業」への関心が高まっている中、実際に本業以外の経験を得て、新たな知識やスキルの習得、人脈形成などに活かすことに成功している人が増えています。
企業にとっても労働力の確保や、人材育成、生産性向上などの効果が期待できますが、従業員に副業を認めるかどうかは、いまだに判断が分かれているのが実態です。労働時間の把握や管理が難しく、過重労働につながるリスクなどもあり、大企業ほど慎重で容認に踏み切れないケースが多いのです。その他にも「人材流出の可能性が高まる」、「情報漏洩リスクが高まる」など懸念点もあります。
副業に関するこれからの動向と、企業が取るべきアクションについて考えていきます。
■副業の目的とは?
何を目的に副業を始めるかは人によって当然異なりますが、記事にあるように、
収入を得るため
新しい視点や発想を習得するため
新しい知識やスキルを習得するため
という点以外に、
新しい経験を本業に活かすため
自分の強みや市場価値を把握するため
社外のネットワークや人脈を構築するため
社会貢献、地域貢献などの実感を得るため
今後のキャリアに向けて自信と経験を得るため
終身雇用崩壊に伴って将来のリスクヘッジをするため
なども考えられます。
一方で、副業を認めている企業側の狙いとしては、
社外の優秀な人材の確保
社員の定着率向上
社員のスキル向上や能力開発
社員のキャリア自律促進
などにつながることを期待しています。
リモートワークの普及によって、副業や兼業に充てられる時間が増えたことや、副業を容認する企業が増えてきたことが背景にありますが、雇用形態に関係なく2社以上の複数の企業と契約ベースで仕事をするような、複業系パラレルワーカーも増加傾向にあります。
また、他者で雇用されている副業人材の受け入れについても前向きな企業が増えてきており、既に優秀な人材の獲得競争が起こっているのです。外部の副業人材や、副業をしている自社社員の知見を積極的に活用する企業こそが、今後のビジネスにおける競争力を強化していくことになるとした場合、副業をいまだに認めていない企業というのは、そのスタートラインにも立てていないということになってしまいます。
■サイバーエージェントの事例
当社では、2015年から全社員を対象に副業を解禁しており、2019年からはエンジニア・クリエイターを対象に「Cycle(サイクル)」というグループ内における会社間を跨いだ副業を促進する制度を導入しています。
副業する社員にとっては、副業をするタイミングや案件などを自分で選ぶことができ、給与以外の報酬を得る機会が生まれます。また、これまで社外に発注していた案件をグループ内社員が受けることで、質の向上や社員のスキル開発にもなり、グループ全体の技術力向上につながっています。
さらに、昨年からは「ミッションオファー制度」という、「依頼したいミッション(いわゆる“ジョブ”)に対して、別部署の社内人材にオファーを出し、仕事として受けてもらいそれに見合った対価を支払う」という仕組みもトライアルで導入しております。
このような仕組みが増えることで、社員一人ひとりのスキルアップだけでなく、報酬を増やす手段としても貢献でき、さらに部署を超えた社員同士の交流や接点作り、キャリア形成の上での選択肢を広げる動き(部署異動や新たなミッションオファー)にも直結していくのではないかと思っています。
■副業が失敗しやすいケース
副業を許可している会社であっても、「本業に支障をきたさない」ことや、「競合先の仕事は受けない」こと、「労働時間管理を徹底する」ことなどを条件に副業を認めていることが多いです。
具体的に「副業」を始めたものの、うまくいかなかったケースにはどのようなものがあるのでしょうか。
●本業のパフォーマンスが下がるケース
→2つの仕事を同時進行させてどちらも成果に直結させたいところですが、中途半端になってしまい、本業のパフォーマンスが下がることはよく起こり得る話です。まずは本業の仕事に集中して生産性高く働き、その上で時間を有効活用しながら本業と副業を明確に線引きして業務を遂行していく方が、結果的に良いパフォーマンスにつながります。逆に、副業を「ただの副業だから」と考え、仕事を疎かにしてしまうケースも失敗につながってしまいます。本業同様、対価が発生している仕事であるという認識を持つことも重要です。
●周囲の理解を得にくいケース
→特に期待されているパフォーマンスが出ていない時ほど、もっと本業に集中してほしいと考える上司がいるのは当然です。上司や同僚に副業をしていることを伝えにくいと考えている人は少なくないと思いますが、上司との間やチーム間で、副業をすることによる不信感を与えないことが大事です。一度不信感を与えてしまうと、そのイメージを払拭するのに苦労することになってしまいますが、だからと言って、コソコソと隠れて副業をする必要も全くありません。副業を相談する際に、それがどんな経験やスキル向上につながるのか、本業にどのようなメリットをもたらすのかなどを十分理解してもらう必要があります。また、副業をプロジェクト単位や案件単位で受けている場合、マルチタスク化する傾向にあり、多種多様な処理業務に追われてしまいがちです。ですが、その事情は同じチームメンバーには理解されにくいという点も留意しておく必要があります。
●休日を副業に費やして休めないケース
→時には本業と副業で、忙しい時期が重なることもあるかもしれません。休日に副業の時間を充てるなど、睡眠時間や休息時間を大幅に削ってまで副業を続けると、体調に支障をきたしたり、副業に対するモチベーションが維持できないといった状況に陥ります。副業を始めた結果、残業や休日出勤に追われ、健康を害してしまわないように十分注意が必要です。また、副業を選択した場合は原則、労働時間の管理は本人に委ねられます。意図せず働き過ぎにならないよう、それぞれの労働時間をしっかり管理し、自分でコントロールしていくことも求められています。
このように、社員の労働時間や健康管理に課題がある点だけでなく、情報漏洩リスクの問題、副業先でのトラブルによる信用問題など複数の懸念点はあるものの、副業解禁に踏み切った企業においては、社外での経験をもとに、自己成長や自己実現だけでなく、新しく有益な情報やアイディア、知見、人脈などを取り込むことに成功している社員が増えていることもまた事実です。
一昔前の「副業」と言えば、「副収入を得る」ことだけを目的としたものが多かった印象ですが、今はその目的も多様化し、キャリア形成の一つの手段として活用されるようになっています。
たとえば、
興味があった仕事内容を“お試し”で経験する(転職の可能性を視野に)
自分の市場価値やスキルレベルを確かめる
新たな人脈を作り“仕事”や“プロジェクト”や“人”をさらに紹介してもらう
起業への足掛かりにする
などです。
「いきなり転職する」、「いきなり起業する」という前に、別領域での業務経験や経営経験を、まずは小規模で試行することができるのが副業のメリットでもあります。リスクを最小限に抑えながら、経験値や人的ネットワーク形成を積み上げる機会として副業を捉えている人が増え、そのような人たちをどのように囲い込めるかが、各企業の手腕が問われているところでもあるのです。
■副業に対する企業の考え方は、“ヒト”に対する考え方をそのまま表している。
厚生労働省は企業に対し、従業員に副業を認める条件などの公表を求め、さらに副業を制限する場合にはその理由を開示するように促しています。つまり、働き手は就職先や転職先を選ぶ際、「副業のしやすさ」を判断材料にできるということです。
少子化と労働人口減少の流れを受けて、数年前から副業への関心が高まり多様な働き方が求められていた中で、コロナ禍でのリモートワークの普及によって「本業の勤務時間外に別の仕事をする」ことへのハードルが一気に下がりました。働く時間や場所だけでなく、働き方そのものの多様化はこれからも拡大していきます。
「副業」という選択肢は、企業にとっての「コストを抑えた単なる労働力の確保」ではなく、働き手にとっての「単なる副収入を得る手段」でもなく、双方にとってこれまで以上に有益で意義のあるものへと変化しています。企業も個人も副業をどのように捉え、今後どうあるべきかを追求し続けていく必要があるのではないでしょうか。
副業に対する企業のスタンスは会社によって異なりますが、副業を許可している場合、「副業先での経験を本業に活かし業績貢献してもらう」ことを期待している会社もあれば、「社員の成長機会として、人材育成の一貫と捉えている」会社もあると思います。「業務時間外に何をしていても社員の自由(自己責任)であり、会社は介入しない」と考えているところもあるはずです。「副業などの働き方の選択肢を増やしていかないと、優秀な人材が流出してしまう」という危機感から容認せざるを得ないという会社もあるでしょう。いずれにしても、これらの全ての副業に対する企業の考え方は、“ヒト”に対するその企業の姿勢や考え方をそのまま表していると言っても過言ではありません。
これからの企業における副業の在り方を考えた時に、副業を「人事制度として認めるか認めないか」という視点では、もはや不十分なのです。
また、単に「自社の社員に副業を認める」だけでなく、「社外の副業人材を自社で受け入れる」ことにも注力していく必要が出てくると思います。副業している人材を積極的に採用していく企業が増えていくと、企業の壁を超えた人材活用、人材交流が促進されていきます。
企業側からすれば、自社の業務に集中してほしいという思いはありますが、これまでの同質な考え方や発想からは新しい価値を創造していくことはできません。社員が社外で多様な経験を積み、本業に持ち帰るという“効果”を重視して、副業先での学びや経験を本業に活かせる社員を増やしながら、副業や兼業を含めた「あらゆる人材の能力をいかに引き出し、企業の持続的な事業成長を実現させていくか」という視点を持たなければいけないのではないかと思います。
最後に、極端に言ってしまうと、「本業か副業か」や、「正社員かそうでないか」、「どこに所属している人間か」は、働き手個人にとって、そこまで大きな問題ではなくなってきているのかもしれません。働く時間や働き方、何の仕事をするか、何を人生の中での最優先事項としていくのかは、会社や組織に依存させるものではなく、個人主体で考えて決めていくことであり、個人に選択権があるものです。
企業視点に立つと、そのような“個人主体”で“キャリア自律”した社員を相手に、個人のキャリアや人生設計を優先させながら、その中で会社が進むべき道やビジョンに共感してくる人材を集め、業績や企業価値向上に貢献してもらうための努力をし続けていかなければならない、ということではないでしょうか。
#日経COMEMO #NIKKEI
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