なぜ海外機関投資家は投資先企業のダイバーシティーを促したいの?〜データ解析から見えた意外!?な事情〜
上場企業に対して人材のダイバーシティ(性別・年齢・人種・能力・障がいなど)を促すことが上場市場(≒ガバナンスコード)から求められています。表面的なダイバーシティとして、トークン(象徴)のように女性役員を増やして株主アピールをするのではなく、将来的なことを見据えて管理職のダイバーシティ、誰もが働きやすい環境作りなどの長い目で見たダイバーシティ構築が求められています。下記の記事もあるように、最近では職場作りにも配慮が行われるなど、深いレベルでのダイバーシティ構築が一部の企業で行われています。こうした流れが起きているのは政府や東証だけでなく、機関投資家(私たちのお金を運用するプロ投資家)が上場企業に対してプレッシャーをかけていることが影響しています。今回は、なぜ機関投資家、特に海外機関投資家が上場企業に対してジェンダーダイバーシティを促したいのかについて考察します。企業の経営企画部の方、株式市場に関連するビジネスパーソン、個人投資家の方がへの投資やビジネスのヒントになるかもしれません。
BIG3機関投資家とダイバーシティ運動
機関投資家といっても、様々な投資家が存在します。近年、その行動が特に注目されるのがBIG3と言われる機関投資家です。運用金額の大きさから世界的に影響力を持つ機関投資家である、ブラックロック、バンガードとステート・ストリートの3社を合わせた俗称です。パッシブ運用(日経平均、S &P500などの株価指数に連動する運用方法)が世界的に右肩上がりで増加する中で、パッシブ運用を主軸にする彼らの影響力も右肩上りで増しています。2019年時点での試算では、米国を代表するS&P500株価指数の組込上場企業の9割の株式を、BIG3が間接保有していると報告されています。
そんな彼らが、2016年から米国内で女性役員を登用せよ!と、投資先企業の役員ジェンダーダイバーシティを促すために “Fearless Girl”キャンペーンを始めたのです。下記の研究では、BIG3による米国上場企業への影響について検証を行っています。
なぜBIG3は、投資先企業のジェンダーダイバーシティを促したいと考えたのか?
この研究ではBIG3の議決権行使結果も検証しています。BIG3の反対票は、2016年から女性役員0人企業に対して増加しています。彼らは、単なるキャンペーンを行うだけでなく、上場企業への影響力の源泉である議決権でも行動を起こしたのです。
こうした行動が影響したことで、上記の研究は2016年以降の米大手上場企業の女性役員増加分の約4割がBIG3の影響と報告しています。すごい影響力ですよね・・・では、なぜBIG3このような行動を起こしたのでしょうか?
そもそも、BIG3が “Fearless Girl”キャンペーンを起こした背景については、ステート・ストリートの報告書に詳細が記載されています。ここには、女性役員が増加しないのは、そもそもの役員構成にCEOの影響力(=CEOネットワークありき)が強すぎて、人材構成もCEO寄りの人材が集中してしまうことが影響していると・・。この報告をもう少し斜めに読み解くと、多くの男性役員がCEOネットワーク経由ありきの人で、女性役員というのは人材紹介会社経由などで就任しており、CEOネットワークありきで就任する人が少ない。なので、女性役員登用を促すことは、実は役員構成においてCEOネットワークありき人材で偏らさせない、多様な人材を配置するのに影響する・・ということなのです。つまり、CEOお友達ありき役員会を壊すのに、女性役員を登用することでそれが実行できるかも・・ということなのです。この研究では、本当にそうなのかも検証しており、就任した女性役員がCEOネットワークのでない人が多いことも報告しています。アメリカって、本当にいろんなデータがありますよね・・。
この流れをビジネスにどう活かすか?
この現象を日本の上場会社や上場を考える企業はどう活かすべきでしょうか?実は、機関投資家は役員構成を見るときに、ジェンダーだけでなく、どういうネットワークから就任したかも見ている。そしてBIG3の行動は日本の機関投資家行動にも影響していることを意識すべきと思います。実は、りそな系列のファンドは、女性役員0人企業には議決権で反対票を投じることを発表しています。表面的なダイバーシティ時代は終わりを迎えつつありそうですです。
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崔真淑
*冒頭の画像は崔真淑著『投資1年目のための経済と政治ニュースが面白いほどわかる本』(大和書房)から抜粋しています。無断転載はお控えください♪
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