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マーケティングにアイデアを詰め込むことのスリルや尊さを教えてくれた2つの漫画

今回のCOMEMOのお題はこちら。

子供の頃、SFが好きで、色々な作家の小説を手当たり次第に読んでいた。中でも筒井康隆さんの作品がとても好きで、彼の名前が背表紙にある本は全て読んでいた。

その中に筒井さんが編んだアンソロジー「70年代ベストSF集成」があった。目次を繰ると名だたるSF作家の作品に混じって漫画が選ばれていた。それはとても意外で、以来文字で描かれた小説と、絵とテキストとコマ割りによる漫画を分け隔てなく愛するようになった。

周りの大人が、漫画を下に見るようなことを言ったりすると、猛烈に反駁し、漫画の優れいている点を主張した。また叙述を多用して読者をミスリードし、画像化しにくいような小説が登場したりすると、逆の快哉を叫んだりした。

こんな感じなので、漫画には並ならぬ思い入れがあり、何度も読み返した作品も多数あるのだが「仕事のヒント」という切り口だと色々な考え方がありすぎて、なかなか選ぶことができない。

ので、最もインパクトがあった、あるいは自分に影響を与えたと思われる作品をしばらく考えて2つまで絞った。

一つは筆者が大学の頃にビッグコミックスピリッツに連載されていた、相原コージさん・竹熊健太郎さん共作の「サルまん」(「サルでも描けるマンガ教室」)である。

これは主人公として、作者の2人が人気漫画家を目指す、というストーリーで、作中ボケた感じで描かれる相原さんと竹熊さんが枠線の引き方にはじまる作画のイロハから、あらゆる漫画を分類した上でそのパターンを説いたりとか、果ては作品内で最も人気ある雑誌(現実世界ではもちろん架空の雑誌である)少年スピリッツに連載を始め、打ち切りになり・・・という具合に展開していく。
ペンによる作画でなく写真で、またはテキストのみ画像なしという形で作者の言葉が書かれたりすることもままあった。これらにより現実と作品の境界は再構築され、結果読者と漫画間の世界階層が一つ増えることになる、などということも行われた。これは冒頭にも触れた筒井康隆さんの小説を彷彿とさせ(ちなみに筒井さんの朝のガスパールという名作は、小説内世界が4層か5層になっており、これが最初はスッキリ書き分けられているのがだんだん入り乱れ、最後は大団円を迎えるという世紀の力作である)、その緻密さ・濃密さに息苦しささえ感じながら読み入っていたものだった。

筆者にとってインパクトがあった2つの漫画、サルまんと並ぶもう一つは大場つぐみさん・小畑健さん共作で、週刊少年ジャンプに2000年代中盤に連載されていた「DEATH NOTE」である。
警察官僚の息子であり、正義感と極めて高い知能を持つ主人公 夜神月がある日、名前を書くとその人が死んでしまうという、ある種の殺人ツールであるデスノートを拾い、法による裁きを免れている犯罪者・悪人を裁き始める。人命を決定できる全能感に、だんだんと正義感を麻痺させる月の敵となるのが月に匹敵する頭脳を持つ世界的な名探偵のLである。
Lは巧みな罠やトリックで月を追い詰めようとするも、月もうまくそれを逃れる。月はなんと戦略的に警察に入庁し、父親との関係を巧みに活用する形で、自分が起こしている一連の殺人事件をリードすること(により逮捕の手から逃れる体制を作ること)に成功し、そこでLと対面する。
・・・と言った、もうこれを読むだけで手に汗握りそうなプロットの素晴らしさに加え、話がどんどん展開し、一気にこんなに話が進んでしまって先は大丈夫なんだろうか、といらぬ心配を抱かせるほどのスピード感も魅力であった。

2つの作品に共通する点として、アイデアがたくさん詰め込まれており、展開が目まぐるしい、ということがある。
連載の一回いっかいを見ていっても、筆者の感覚ながら凡百の作品であれば4話か5話くらい分のネタになりそうなあれこれが、惜しみなく1話の中に埋め込まれているのだ。
また、デスノートの説明でも書いたが「こんな急展開したらすぐに連載が終わってしまうのでは」と思わせるような流れが、次から次へと続くので、読んでいて全く飽きさせない。デスノートは連載と同時ではなく、長女が買ってきた単行本第一巻で初めて読んだのであるが、あまりに面白さに一巻を読み終えた足でインターネットカフェに向かい全巻貪り読んだ。すでにお酒を飲んでいたのでタクシー呼んでまで向かい、家族が驚いていたものだった。それほどまでしてすぐに読みたくなる程面白かったし、一夜開けてみたらストーリーの破綻や矛盾を確かめたくなり、当時の筆者にしては珍しく大人買いをしようと書店に向かったら、この作品に限ってはかなりな品薄で一気に全巻揃えることなどおぼつかなかった。

仕事のヒント、という視点でこの2作品を見てみると、筆者が生業としているマーケティングを進める中で大切にしている

・とにかくアイデアをたくさん考える
・それを惜しみなく仕事に注ぎ込む
・自分が携わった施策に触れていただいたお客様には、驚いて(そしてその後で納得して)いただきたい

という姿勢・方針のバックボーンの一部として、これらの作品があるように思われる。優れたクリエイティブは、それ自体で最上の範となる、ということだ。

サルまんにおいてはその作中に、現実世界での出来事として、連載内連載を踏み切るかどうか、両作者+編集者での議論が記されている。そこでは週刊という非常に厳しい環境の中で虚構内虚構という複雑な作業に逡巡する相原さんの姿があり、この試みの大変さが伝わってくる。それはそうだろう。もしこれをやれば「サルまん」という一つの連載の中に、もう一つの世界観を構築しなければならないし、世界観の制約の中でもう一つのストーリーを展開しなければならないし、そのためにもう一つの世界分のアイデアも出さなければならないのだ。あえて困難な方向に舵きりした心中を思えば、胸が熱くなる。

考えてみたら、自分は漫画だけでなく、小説・音楽でもアイデアが詰め込まれている、凝った作品を好んでいることに気づく。先人や今を生きる多くの優れたクリエーターが、魂を注ぎ込むような創作をしてくれてきたおかげで、現在の自分が成立しているように思われてくる。

読者の皆さんは、どんな作品を仕事に活かしておられるのだろうか?

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