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存在代行、インスタ批評……「学生CGコンテスト」の気になる作品

今年度の「学生CGコンテスト」の受賞作品が決定しました。名前が大変紛らわしいのですがCGに限定したコンペではなく、メディア・アートを中心にジャンルにとらわれず若い才能による作品を募集している無差別級コンペです。

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私はアート部門の評価員という一次査定役(応募作品をほぼ全てチェックし、なにかの可能性を感じる作品をすくい上げ、より高い視座をもつ最終の審査員の方々に託す砂金探し担当のようなもの)を担当しています。かなり多くの作品を見ることになる、辛くも楽しいプロセスです。選考会の様子は恐ろしいことに全て配信&アーカイブされています↓

今年は全体的にかなりレベルが高く、受賞作品とノミネート作品が僅差で拮抗していた感。受賞された皆様、おめでとうございます!!

受賞した作品・ノミネート作品含め、気になっていたり個人的に思い入れのあった作品をせっかくなのでこの場でご紹介したく、講評コメントを担当した作品を中心に筆をとらせていただきます✍🏻 ※あくまで、独断と偏見によるまとめであり公的な審査結果とは異なるものです

「存在代行サービス」という不気味な構想と実装(市原評価員賞)

自分が個人賞を贈呈させて頂いたのは花形槙さんによる「Uber Existence」という作品でした。
存在代行サービス」として構想された作品で、Uber Eatsの如く「存在代行パートナー」、通称「アクター」の身体を借りて彼らの肉体を操作することで、どこからでも外に出られる=存在代行を依頼できる……という合理的なようでなんとも薄気味の悪い作品。

存在代行サービス、実際に頼んでみた

贈賞決定後に改めてどういうサービスなのか実際にやってみたくなり、Uber Existenceを利用して「くだしあ」さんという若い女性のアクターに憑依・操作し、「クマ財団」の成果発表展覧会を観覧してきました。

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操作マニュアルやWebアプリが予想以上によくできており、すんなりと存在代行の操作に適応することができました。

主に展覧会会場を自分の代わりに巡ってもらい鑑賞していたのですが、個人的に違和感があってゾワっとしたのが、アクターの方にアルコール消毒をお願いした時。自分の外殻が二重にあるような身体感覚がありました。ガンダム操作してる時ってこんな感じなのだろうか……

システム上でスペースキーを押すことで、現地の人に直接話しかけることもできます。思った以上にスムーズに会話ができるので驚きました。

最近花形さんの新作の展示も観に行ったのですが、なんと自分が憑依(操作)していた「くだしあ」さんと直接ご対面。「あっ……前にお身体をお借りした方だ……!」という妙な混乱と感動がありました。自他の境界が溶解するようで初対面なのに奇妙な親近感が湧いてくる。
身体的には距離を取ることが求められる昨今ですが、身体を借りるところから始まるゼロ距離からの出会いとか斬新すぎる、、物理的には遠いのに接近(どころか融解)している謎現象。

「存在代行者=アクター」サイドを体験した「くだしあ」さんの体験レポも熱量と解像度がすごいので、併せてぜひご覧ください。

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臼井達也さん(左)と作者の花形槙さん(右)、二人とも今年の受賞作家

「Uber Existence」で資本主義の搾取の果てに「人間性」や「理性」を放棄する代わりに新たな身体を獲得する新作「Still Human」も不気味で面白かったです。花形さんの作品は一貫して、多少荒削りでも新しい身体・認知・自他のアイデンティティのあり方を発掘しようとする熱量や探究心と「何かヤバいものが始まりそうな不穏な気配」のようなものが漂っており、なおかつその探求のプロセスが(傍から見ると狂気だけど)異常に楽しそうで、心底羨ましくなりました。おめでとうございます!(以下、評価員賞の贈呈コメント)

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現代社会の業をユーモアで包み込んだ「THE MOB」(優秀賞)

第一印象では「あらあら、洒脱な色使いの素敵なアニメーション😊✨」と思いきや、内容のアク/クセ/ブラックユーモアが強すぎて「ちょ、おま……😨」と衝撃を受けた、オダアマネさんの映像作品。


マッチングアプリ、自撮り女子、パパ活(?)、婚活と打算、他者への無関心、欲望、傲慢、、、、「七つの大罪か」というぐらいに現代社会の様々な業の深さ・歪さがユーモアで包まれながら、猛スピードでてんこ盛りに詰め込んだようなアニメーション。明るくテンポ良くハイテンションなのに、どこか仄暗い。

作中に出てくる「大丈夫だよ、みんな大丈夫なふりをしているだけなんだ(Everyone is pretending that everything is okay)」という言葉が現代社会の本質を突いていて、この世代の作家さんの感性の鋭さを垣間見た気持ちになりました。

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講評コメントでも書いたのですが、すぐに売れっ子映像作家になってしまいそうな作家さんだなと思いました(時代に合っていて商業的にも成功しそう感、イラストレーターとしても優秀そう)。映像、下記のオンライン展示のリンクから今ならご覧いただけます。傑作なのでぜひご覧ください。

▶️THE MOB(オンライン展示)

作者のオダアマネさんのWebはこちら。お仕事募集中らしいので青田買いチャンス……!(自分も何か良いお仕事があればお願いしたい、、、)

「離乳食のような情報」へのアンチテーゼ

クニモチユリさんの「Trash Images」。一見してなにがなんだかわからないのですが、それもそのはず、「容易に咀嚼できないイメージ」をテーマにした作品だからです。

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視覚的に「分かりやすい」華やかさが優先され(=視覚のInstagram化)、「離乳食のような情報」が求められ流通するようになった現代において、あえて咀嚼できないような、何物でもない妖怪のようなイメージを提示している作品。

ここ数年でインターネットに流通する情報がどんどん平易でキャッチーになり、安易に消費できるものに変質していることを不気味に感じていたのですが「離乳食のような情報」というテーゼがすごく的確にそれを表していて、情報・メディア産業に片足突っ込んでいる人間としても非常に刺さるテーマ設定でした。

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クニモチさんは問題提起のあり方が今日のメディア環境に対してとてもクリティカルで、一見メディアアートには見えない作品なのですが(学科も版画科出身)、メディアアートのコンペティションでも評価されるべき作品だと感じました。

理想と現実の身体イメージの狭間で

現代のメディア環境は人類史から考えると非常に特殊で、誰もがSNSを通して自分の存在を発信し、ファンを獲得し、マイクロなスター・アイドルのような存在になることができます。アプリでの加工技術も発達し、過剰に「かわいい」身体表象がSNSには溢れている。
そういった特殊な情報環境のなかで多感な時期を過ごす女性は、理想の偶像のテンプレートに自らを当てはめるように、中には整形などの身体改造を繰り返してしまう人も。

タジマスズリさんの「私たちの幸せを心より願っております」というインスタレーションは、同世代の女性がもつ身体イメージや強迫観念のようなものを表象している作品で気になりました。

普段SNSでいわゆるZ世代の女の子の発信を見ていて「みんなすごい可愛いけど、こんなに可愛さを追求するのは相当シビアでストイックな求道なのではないか……」とたまにハラハラしていたのですが、彼女らが持つ特殊な身体イメージ、努力や誇り、痛みのような、雑に一言では言い表せない複合的な感情をこの作品から読み取れた気がしました。

あと展示会場でお話を伺ってみて、タジマさんは「自分の表現の責任は自分でとる」スタンスの方のようで(自分のセルフポートレートを素材にしたのもそのため)、表現者として真っ当で筋が通っているなと頼もしく感じました。

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タジマスズリさん、今月に新宿眼科画廊で初個展を開催されるようです。


コロナ禍で広がるシェアリングエコノミーと搾取、現代の視覚文化の変容、マッチングアプリ、身体加工……現代を取り巻く状況を若い作家さんが生身の感受性で受け取り、咀嚼し加工し、表現した作品を見ていると、時代の輪郭のようなものが見えてくるのが本当に面白いです。
こうしてみると、"現代を生きる人間の異質性"のようなものに紐付いた作品に、今年は自分は特に惹かれたような気がします(全体の総意ではなく。あくまでいち個人の傾向です)。

また今回、女性の作家さんが制作したインスタレーションで面白いものが多かったのも印象的でした。最優秀賞もヒラヤマナツホさんという女性作家さんの制作した、ニュータウンをモチーフにしたインスタレーション。個人的にも嬉しく興味深い潮流です(日本のメディアアート業界のジェンダーバランス、相当偏ってるので……一緒に仕事をしてたスロベニアの女性キュレーターにも『アレは一体どうなってるの?😰』とつっこまれた、スロベニアはむしろ女性作家の方が強い)。

現役の作家が審査員をやるのってあまり良くないことだと考えており、コンペティションの審査員はなるべく避けたい仕事だったのですが、
新しい発想、新しい狂気の閃き、ここから何かが始まる気配、そういったものの誕生に立ち会えるのはすごくエキサイティングで、新鮮な気持ちになれます。
大人げないので自分が贈賞した方も含め「お前ら全員ライバルやで」ぐらいに思っていますが、いつか同じグループ展に参加したりするのが楽しみだな、自分も負けないように頑張らないと、と良い刺激になりました。

数多の応募から選出されたノミネート作品、受賞作品はオンライン展覧会として7月までご覧いただけます。若い世代の作家さんが、現代の社会状況のなかで何を感じているのかリアルに感じ取ることのできる作品群で必見です。ぜひ!

また、毎年開催されているコンペティションのため(私も次の一年まで評価員任期)ご応募も楽しみにしております。



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市原えつこ(アーティスト)
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