小さな村でいくら出生率が高くても、日本の少子化は改善しない
政府目標の出生率1.8というけれど、断言してもいいが、向こう30年絶対に達成できない。日本の現時点における出生率の最大値は思い切り楽観視しても1.56で、妥当なところで1.4程度だろう。
そして、そんなことは厚労省の官僚もわかっているけど、「1.8くらいにしておかないと次の選挙が…支持率が…」という政治家のごり押しがあるのだろう。
それはさておき、冒頭に貼った日経の記事では地方の小さな町村の出生率が高いという話をしているわけだが、小さな村で貴重な新しい命が生まれてくるのを言祝ぐのはいい。が、日本全体の出生を考える上で、小さな町村における出生率を軸に論を展開するのは誤解を招く。
そもそも論として、絶対人口が少ない方が出生率は高くなる。市町村レベルまでは割愛するが、都道府県だけで見てもそれはわかる。
合計特殊出生率は15-49歳の女性人口を分母としているので、人口も15-49歳女性人口との相関をみた図が以下である。
実に見事に「人口が多いほど出生率は下がる」という強い負の相関がある。
この前提をふまえていないと、東京の合計特殊出生率が全国最下位だから、東京は子どもが生みにくいという誤解が生じる。
何度も言うが、合計特殊出生率は未婚女性人口が増えれば下がる。東京の出生率が計算上低くなるのは未婚人口が多いからである。当たり前で、全国から(特に東日本から)20-29歳が集中しているのだから。
で、もっとも大事な点は、出生率だけを見てしまうと人口の少ない地方の市町村が高いからといって、大都市では子どもが生まれないなとという大間違いの印象操作ができてしまうことだ。
もちろん、マスコミはわかっててやっている。地方移住とかのネタと絡めたいからだ。
しかし、それは間違いである。
残念ながら、地方の小さな町村でどれだけこどもが生まれても全国レベルの出生率にも出生数にも全く寄与しない。
たとえば、2020年の実績でいうと、出生率全国1位の沖縄は1.83、最下位の東京は1.12だったが、沖縄で0.1出生率をあげるために必要な出生数は816人であるのに対して、東京で仮にブラス816人産まれたところで、出生率は0.01もあがらない。東京で0.1あげるためにはプラス8898人必要になる。当然で、人口が10倍違うからだ。
何が言いたいかというと、地方都市で出生率が0.1-0.2あがったところでそれは全国の値をあげるほどの大きな寄与度にはならないのである。
そもそも、首都圏+愛知+大阪+兵庫+福岡の8都府県だけで全国の出生数の50%以上を占める。つまりは上記8都府県の出生数が増えなければ、残りの39道府県が頑張ったとしても寄与度は半分でしかない。
少子化対策というものは別に出生率改善は目的ではない。出生する子どもの絶対数の増加こそが目的である。出生率はそのための指標にすぎないのであり、それを目的とするのは本質とは違う。
日本の出生増としての少子化対策を考えるのであれば、地方は無視していいということではないが、上記8都府県の出生が増えなければ間違いなく解決できない問題なのだ。
市町村レベルで「こっちの自治体は子育て支援が充実してるよ」などと子育て世帯のパイの奪い合いをしたところで、それはその市だけは潤うかもしれないが、そこに流出人口をもっていかれた周りの市が減るだけであり、全体の底上げにはならない。
全体の底上げをするには、そうしたパイの奪い合いではなく、今人口が多いところの新たな出生を増やすことでしか実現できない。出生を増やすということはすなわち未婚人口の減=婚姻の増加でしか実現できない。既に産んでいる母親は2人以上もう産んでいる。
よって本当の少子化対策とは、この8都府県の婚姻増が肝になるのである。
ちなみに、日経の記事にあった東日本で数少ない出生率の高い忍野村や猿払村は、なぜ出生数が多いかといえば、所得が高いからである。忍野村はファナック、猿払村はホタテのおかけだ。
東京も23区の所得の高い港区、千代田区、中央区などは劇的に出生数が増えている。
そういうことなのである。出産も金なのだ。
赤い部分の市町村は全部1995年より所得が減っているところである。こうして見ると本当に日本は貧乏になった。
西日本の出生率が高くなるのは、金の問題以前の20代前半での結婚と出産が多いからだ。
金か若さ、どちらかがなければ出生は増えない。