見出し画像

深刻な情報汚染=フェイク情報をいかにコントロールするか

昨今 SNS を中心に広がっている新型コロナウイルスワクチンに関するデマについて興味深い記事が掲載された。ワクチンに関する多数のデマがわずか29件の投稿から広がったというのだ。

NHKも同様の分析を報道している。

こうしたワクチン関連のデマによって人々が必要以上の不安を抱き、その不安が拡散・伝播することでワクチンの接種率が低くなることが社会全体として新型コロナウイルスに対する防御力を低め、さらには新型コロナウイルス感染者の増加により医療機関の逼迫を招き、ひいてはそれによって他の病気やケガによって医療を必要とする人々に医療提供ができなくなることの原因になる可能性がある。

ただ SNS を見ていて気になっているのは、こうしたワクチンに関するデマだけではない。

例えば、新型コロナウイルスやワクチンについて積極的な情報提供を行っている医師をはじめとする医療関係者に対して「製薬企業からお金を貰っているから接種を推進するようなツイートするのだ」といった攻撃を多数見かける。こうしたことによって医療関係者や医療全体への信頼が揺らぐことになれば、日本の医療制度を維持していく上で、ワクチンに関するデマ以上に深刻な問題を引き起こす可能性があるだろう。新型コロナウイルスワクチンに関することであればワクチン以外のことについては影響が及ばないが、医療や医療関係者への信頼度が低下すればそれによって日本の医療全体が深刻なダメージを受ける恐れがあるからだ。

こうした状況に対して作家でもある医師の一人は、ワクチンのデマに乗じた記事を雑誌に掲載した出版社に対して、自身の作品をその出版社から出すことを取り止めると決め、SNS 上で宣言した。

またある医師のアカウントは、誹謗中傷を受けたことに対して Twitter社に対し誹謗中傷したアカウントに関する情報開示を請求し誹謗中傷した人を割り出して、訴訟を起こそうとしている。

しかし、こうした対応だけでは、デマ情報やいわれのない誹謗中傷がもたらすマイナスの効果を打ち消すには十分ではない。

またこうした新型コロナウイルスに関する混乱した状況に乗じ、治療効果があるとは認められていない特定の医薬品について、ことあるごとにその医薬品名をSNSに投稿することに対してお金を払うという、いわゆるステルスマーケティングも行われているようだ。これについても公式に効果が認められていない薬を効果があるようにかたる点で、デマ情報の一つと言ってよいだろう。

少し前にフェイクニュースが問題となったが、今回についてはフェイク「ニュース」ではなくフェイク「情報」が報道機関以外の多様な属性を語るアカウントから発信されている点が違っている。これはフェイクニュースよりも深刻な事態と受け止めるべきではないだろうか。

ニュースであればその発信元がある程度限定され、信頼できる発信元からの情報かどうかを明らかにすれば、そのニュースが正しいものかどうかを判断する手がかりはまだある。しかしフェイク情報の場合、その実在すら確認が難しい多様な個人や組織から情報が発信されるので、ニュースという体裁をとってはいなくても、人々に不安や恐怖あるいは混乱をもたらすには十分なインパクトがある。公的な機関の発表を意図的に切り取り、フェイク情報にして流すことも現実に起きており、こうした行為に対し、国立感染症研究所が声明を発表するという異例の事態にもなっている。

中には経済的な理由・金銭的動機でこうしたデマ情報を広げている人もいるのだろうが、さらに問題だと思うのは情報戦の一環としてこうしたデマ情報が意図的に拡散されることによって、国力が弱体化されそれによって安全保障が脅かされることだ。

もちろん正しい情報がだけが流通するような努力も必要であるが、なかなかそれだけでは十分な対策にはならず、結局一人一人の情報リテラシーを強化していく地道な努力をしていかなければならないのだと思う。

東西冷戦期にスイス政府が国民に配布したという「民間防衛」という本があったが、これはSNSが広まる前どころかインターネットが普通に用いられる前に作られたものではあるが、その中で紹介されてるデマ情報に対する基礎的な考え方は、今でも十分に通用するものだと思う。

また、フェイク情報であるかどうかを判別し、それを可視化してくれる技術にも期待したい。記事にあるようにフェイク情報特有の図の形が可視化されていれば、判断の手助けになるだろう。

最近では、写真や動画など視覚情報を中心としたメディアが、特に若い世代の間では文字メディア以上の影響力を持つようになっている。例えばインスタグラム( Instagram)や YouTube あるいは tiktok といったメディアが若い人たちにとって有力な情報源になっている。

こうした状況と、日本語が読めなくなっているという指摘がある現状を踏まえ、単に文字だけではなく写真や動画を含む映像情報の信ぴょう性をどのように担保し、デマ情報を防ぐかという点も大きな課題だ。映像は文字に比べ接した人が冷静さを保ちにくい可能性がある点で、文字情報よりもいっそう注意が必要だろう。

今回の新型コロナウイルスにまつわる社会状況は、日本だけでなく世界各国で、抱えている社会問題を大きくクローズアップし、顕在化し可視化している一面があると感じる。

その中で、フェイクニュース以上に対処が難しいと思われるフェイク情報をどのように適切に選別し、また私たち一人一人が適切に対応するリテラシーを高めていく必要が明確になったのだと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?