変化する上場の意義は、日本にユニコーンを生み出すか
このところ日本の有名企業を筆頭に上場廃止に向けてMBOを目指す動きが目立ち始めている。大正製薬などはその典型と言えるだろう。この他にも ベネッセなどがMBO を目指すことを発表している。
こうした背景には東証が上場の基準についての見解を厳しくし、PBR1倍割れの企業に対してはその是正を促すといった、 本来、上場企業としてあるべき姿を強く求めるようになってきていることがあるのだろう。
これに伴って生まれてきたのが、この MBO という流れだと考えられる。つまり、公開企業である、上場企業であるということは、多くの株主の短期的な株主還元の要求に対して答えていく必要が出てくる。また会社の意思決定においても、株数に応じて民主的に決めない決めなければいけないということは、経営者が機動的に判断することを難しくしている一面もあると言えるだろう。
こうした状況の中で、経営の自由度を確保するためにMBOをし、非公開化するという選択肢を取る企業が出てきている、ということだと思う。
これに伴って、これまでは上場することが一つのステータスのように語られ 多くの会社がそのステータスを得るために上場するといった傾向も見られたように思うが、そうした風潮も、ゆっくりとではあるだろうがだんだん変わっていくことになるのかもしれない。言ってみれば実利的・機能的に上場のメリットが得られる場合には上場し、一方、非公開である方がメリットがある場合には非上場であることを選ぶといった、考えてみれば当たり前の選択をするように、日本企業も変わっていくのではないだろうか。
実際に、勤務先が非上場から上場企業となる時期に居合わせたことがあるが、上場 に向けての社内的な準備は末端の社員にとっても非常に負担が大きかったという記憶がある。そして、上場企業に求められる経営情報の公開や透明性といったことによって、時に非公開企業であれば許されたビジネスモデルが許されなくなるという一面もありうるのだ。
こうしたことを考えると、スタートアップのエグジットとしても、これまではどちらかというと諸外国に比べて上場を目指す経営者が多かったといわれるが、今後は変化が生まれるのかもしれない。 いわば会社のステータスや社会的な認知度のために上場を目指すのではなく、資金調達など上場企業であることのメリットを活かせるのであれば上場し、そうでなければ上場を選ばない、ということになっていくのではないだろうか。
特に、上場基準が比較的緩やかであると言われるプロマーケットなどへの上場を目指す動きが今後増えるのか減るのか、ということは注視していきたいところだ。公開企業として十分な上場メリットを受けることを目指すのであれば、東証のプライムやスタンダードの市場に上がるべきということになっていくのであろうし、単に上場企業であるというステータスが欲しいからとりあえずプロマーケットに上場するといったような動きは、今後減っていくのかもしれない(もちろん、私が理解している以外にも プロマーケットの役割はあると思うので、一概にそうとは言えないかもしれないが)。
そうなると、早く上場してしまうがために、なかなか日本では時価総額の大きいユニコーンと呼ばれるスタートアップが生まれないという問題にも変化が起きてくるのかもしれない。安易に上場を目指さないのであれば、非上場のままで大きな時価総額を持つ企業スタートアップが生まれてくる可能性もあるのではないだろうか。
いずれにしても、「上場企業であれば子供の就職先として安心」といった かなり情緒的な上場に対する価値が、より経営的な観点で機能的に選択されるようになることは、喜ばしいことだと思う。そしてこれがスタートアップにとってもしっかりとしたエグジット戦略を考えて選択することにつながるのであれば、より良いマーケットとの付き合いが健全にできるようになるとも思うし、そうなることを期待したい。
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