給与改善は人材確保の本質ではない
東大卒に象徴的にフォーカスしている記事だが、これを早慶や旧帝大なども含めて範囲を広げてみたときにどうなっているのだろう、という点でも興味をそそられる内容だった。
「スパコンが自由に使える」とか「経営層との距離が近い」といった、いわば即物的な理由にまとめられているが、それによって彼らが何を実現したいと思っているのか、そういうことを求めるのはなぜか、というところまできちんと理解することが大切だと思う。例えば「経営層との距離が近い」ことで実現することは、大企業勤めの人だと自分の出世に有利になる、といった思考になるのかもしれないが、こうしたスタートアップ企業に行く若手の多くは、経営層との近さは自分が目指したい社会の姿を素早く実現するための手段、というとらえ方であると思う。
こうした誤解というか、理解の違いが端的に表れているのが、大手企業のIT人材に対する初任給アップの施策だと思えてならない。
たしかに初任給は上がるだろうが、会社全体の人事システムが変わらなければ、その先の昇給や昇進がどうなるかもわからない。昇進は、肩書を得たいという動機もなくはないだろうが、こうした人材が求めるものは、自分が進めるべきと思う仕事をするための裁量権や、予算の執行権限などだろう。そして、時間がかかり複雑で新しいチャレンジに消極的な結果となりやすい社内の意思決定システムがそのままであれば、こうした人材が求める結果は残せない。このような社内の仕組み自体が変革されていなければ、いくら初任給が高くても、結局は人材の流失につながることになる。
金額は可視化が容易で比較しやすいので、給与水準の改善をすれば優秀な人材が確保できるのだと経営層が思っているのだとすればそれは違うだろう。どうしても給与面にフォーカスした報道が多く、そこをミスリードしかねない。
改善されてきたとはいえ、スタートアップの初任給は、大手企業一般の初任給に比べてまだまだ低いのが普通だろう。それでもスタートアップを選択する若手の意識の深いところを理解しなければ、単に初任給の額だけを上げても、求めるような人材を確保し、その人材が求めるような成果をもたらしてくれると期待することはできない。
そして、これはIT人材に限らずすべての職種において、多かれ少なかれ当てはまることだと思う。仮にこうした施策が成功してIT人材だけが突出して優秀であったところで、彼らとチームを組んでいく社内各部門のメンバーの意識レベル・足並みがそろわなければ、結局優秀なエンジニアは、優秀なチームを求めて外に出ていくだろう。
冒頭の記事はスタートアップ企業を知らない人に今の現実を伝える非常によい記事なのだが、読んでいて大企業経営層の若手人材のニーズに関する誤解が給与面以外にも広がるのではないか、という危惧を少し感じた。一方で、そこで誤解せずに感度よく優秀な人材のニーズをくみ取ることが出来れば、その企業が一歩リードすることが出来る、ということにもなるだろう。
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