休業要請全面解除に踏み切る上で懸念される水面下での感染者の実態
東京都は11日夜、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する独自の警戒情報「東京アラート」を解除し、休業要請の緩和措置は現状の「ステップ2」から12日に「ステップ3」に移り、飲食店の営業時間も現行の午後10時までから午前0時に延長されることになります。さらに政府の方針に従い19日には休業要請の全面解除に踏み切る方向です。未だ一定数の感染者が報告されている状況でこの判断は妥当なのかどうかは議論の余地があるところかと思いますが、多くの専門家は市中感染が次々と起きている可能性は低いと考えています。
COVID-19に関するエビデンスが少なかった時期には、潜伏期でも感染させる、無症状でも感染しているなどの憶測により、連日報告される感染者(=PCR検査陽性者)以上に水面下でその何倍もの無症状感染者(=PCR検査をしていないウイルス保有者)がいるであろうと危惧されていましたが、症状がある方でさえもPCR検査を受けることができなかったことが懸念されていた状況ではそれを確かめることはできませんでした。しかし最近では、まだ保険適用になっていないにもかかわらず、自治体や企業、各医療機関において新型コロナウイルスの抗体検査が広く実施されるようになり、その解析結果が明らかになってきています。
私の診療所でもこれまでに多くの方の抗体検査を実施してきましたが、ご家族が陽性者で濃厚接触者だったという方数名以外は、「自分はCOVID-19にかかっていないか」とこれまでに疑わしい症状がなく不安で来られた方はさておき「高熱や咳嗽が数日間続き、肺炎の疑いもあったのにPCR検査ができなかった」方でさえも陽性になった方はこれまでに一人もいません。すなわち、当初予想されていたほど水面下に多数の感染者が存在していた訳ではないことが何となくわかってきました。
抗体検査を希望して来院される方の多くは免疫があること(=陽性であること)を期待しており、陰性であると「良かった」というより「残念だった」と思っているように見受けられます。実は多くのCOVID-19の患者さんを診てきた私も抗体の獲得はできていませんでした。現在国内で使用している抗体検査キットのほとんどは輸入製品で精度にも差があり、陽性であったとしても「本当にCOVID-19に罹らないのか」、「いつまで抗体が維持できるのか」などの事実はまだよくわかっていない訳ですから、検査をうけることに異議はないものの、結果がどうであれ参考程度にとどめたうえで基本的な感染対策を継続することにかわりはありません。今後大規模な抗体検査が各地域で実施されることになるようですが、感染の拡がりの把握だけではなく病態解明の一助となることも期待します。