見出し画像

「音のVR」という可能性 〜Sonic Surf VRを「体験」してきた

こんにちは、uni'que 若宮です。

今日↓こちらを体験してきたのですが、想像以上に良かったので、まだ体感が残っているうちに、と出張の新幹線で感想を書きはじめました。


それは新しい音楽「体験」だった。

Sonic Surf VR(以下SSVR)というのは、SONYが新しく開発した「波面合成技術によって音に包まれる感覚を生み出す、独自の空間音響技術」だそうです。

この新しい技術を使った5組のアーティストの作品を体験できるというものなのですが、SONY戸村朝子さんが仕掛け人でcorneliusをはじめ好きなアーティストが名を連ねている、ということでさっそく行ってみました。

振り返ると、正直、体験前はそこまで期待していなかったのかもしれません。最近、新しいデバイスや技術を使った、目新しいけど体験強度があんまりないメディアアートも多いのでちょっと食傷気味だったり、何年か前にソニービルで「ハイレゾ」スピーカーを体験した時のちょっとがっかりした記憶もあり…

ところがどっこい、それは新しい「音楽体験」だったのです。本当に申し訳ございませんでした。

「体験したことのない体験」だったので、身体がそのモードになるまでに10分くらいかかった気がします。evala氏の音の途中で部屋にはいり、Hello, Wendy! + zAkを聴き、そのあとの清水靖晃氏のcontrapunctusのあたりで、身体のモードが変わりました。サックスの残響が空間の容積を変えてしまい、眼前で巨大なピアノの鍵盤が打鍵されています。気がつけばはっきりと「聴く」というモードから「体験する」というモードに変化していたのです。


場所に音が「ある」という体験

SSVRの技術について、参加アーティストのConeliusはこう書いています。

実は「あなたがいるなら」の5.1chミックスは作ってあって、今回のSSVR mixは音の流れや置く場所、どの音を動かすかっていう音はそれと似ているんです。でも、体験としては違います。5.1chはスピーカーの位置がわかるんだけど、SSVRでは本当に空間の中のある場所に音がピンポイントで存在する・・・・・・不思議ですよね。(パンフレットより引用)

スピーカーから音が出て向かってくる、のではなく音が「ある」。そしてマッピングされた音が自在にその居場所を変える。

音が自分の周りをうろついたり、頬をかすめて通り過ぎたり、その「大きさ」までもが変わったりする。亡き川島道行が高速で歌い浮遊し、小山田圭吾が3mほどもある口で歌う。そういうイメージが脳内に展開され、溶け出すように「音世界」に一体化していくのです。

最初に感じたのは強烈な没入感でした。雪の日にヘッドフォンでrei harakamiを聴いていたりすると音世界に「イっちゃう」ような感覚になることがありますが、それに似ているかもしれません。しかしSSVRはそれだけではありませんでした。その「音世界」はただの脳内幻像ではなく、実際にその中を歩き巡ることができました。これが音が「ある」という体験の質量を生んでいます。そしてそれは身体を通して実感される質量でもあります。

浮遊する音世界を「歩く」という感覚が不思議なリアリティを生む。音は「そこ」にあるのか?果たして僕は「音のあるそこ」にいるのか、「そこ」とはどこか。その意味で、SSVRの体験はたしかにVR(実質的現実)であり、MR(複合現実)的な体験でした。

個人的に「音のVR」には以前から可能性を感じていたのですが、今回体験して「視覚」よりも「音のリアリティ」(※「音のソノリティ」ではありません)はむしろ強い気がしました。それは、「視覚」が主体と対象を分けてしまうのに対し、音は身体と一つであるからかもしれません。


テクノロジーとアートのランデブー

以前記事にも書いたのですが、新しいテクノロジーやメディアがいつも「新しい体験」が生むことができるか、というと必ずしもそうでは無いと思っています。


5Gや8Kやハイレゾなど、技術的・デジタル的な解像度はどんどん上がっていますが、そのメディアならではの新しい体験が生まれるかどうか、というと自明ではありません。いくら解像度のメッシュが細かくなっても、既存の体験の延長であったり、そもそも極限までいったとしても結局は「現実のコピー」なのであれば、どうしても現実体験の豊穣さに対する劣化版だということになってしまいます。

現実とは異なる価値をもつ、新しい体験をつくれるか?たとえば3DTVはそれをつくれず廃れていったように思います。また、VRがなかなかブレイクスルーできないのも「VRならではの新しい体験」がまだうまく発明できていないからかもしれません。

そして技術やメディアの持つ新しい「体験」の可能性を掘り起こすのは、まさにアートの範疇ではないでしょうか。これは必ずしもいわゆる「ハイテク」なものに限りません。詩人は「言語」という技術の新しい可能性を掘り続けますし、手塚治虫は「マンガ」ならではの表現を生み出し、土方巽は「身体」という媒体の新しいあり方を見つけました。そこには日常とはちがう新しい「現実」が立ち現れます。

Touch That Soundは新しい技術のエキシビションが、新しい体験としっかりセットになっていたのがすごかったのだと思います。

かつて、SONYはウォークマンを生み出し、音楽体験を変えました。わざわざステレオミニプラグを新規開発し、ヘッドフォンをセットに世に出されたそれは「どこでも聴ける」という利便性以上に、音楽を「空間」から開放し、脳内の体験にしました。マルチチャンネルやパンニング、エレクトロミュージックの浮遊感は「ウォークマン以降」でなければ生まれなかった音楽ではないでしょうか。
そして、かつてウォークマンで空間と切り離された「脳内の音世界」をつくったSONYは、今度はSSVRで音世界を空間に接合し、身体を巡り、身体で巡ることのできる新しい「音世界」を作りだしました。

3/24まで御茶ノ水でやっているのでぜひ体験をおすすめします。個人的には時間に余裕をもって2周くらい体験することをおすすめします。↓から予約できます


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?