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江戸の独身男たちが生んだ居酒屋誕生秘話

飲食サービスの支出減といってますが、確かにそうなんですが、その中でもファストフードだけは前年100とはいわないまでも、それほど落ち込んではいません。酒を出す居酒屋業態だけが大打撃。

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これは、テイクアウトのあるファストフードとない居酒屋との差もあります。が、元々、居酒屋というのは、テイクアウト専門店でした。というより、今でいうただの酒屋です。樽から量り売りで一杯いくらで売っていたわけです。

居酒屋発祥は江戸時代です。戦国時代の1570年代にもあったという説もありますが、商売として確立したのは江戸幕府後、しかも、明暦の大火があったために、江戸が再開発事業にわいて、全国各地から大工や職人などの男たちが集結してからといえるでしょう。

前述の通り、元々、酒屋として酒のテイクアウトオンリーだったわけですが、量り売りなので、男たちは仕事終わりによって、その場で一杯飲んで帰るわけです。そのうち、一杯ではたりなくなって「もう一杯」と頼むようになる。そうこうするうちに、他の現場から仕事を終えた男たちも寄る。酒が入ればいろいろと話もはずむこともあるでしょう。現在も一人で立ち飲み屋やスナック行って、見ず知らずの客同士が仲良く会話することありますが、あれと似たようなものです。

なんというか、酒屋は江戸の男たちのちょっとした社交場だったわけです。そりゃそうです。貧乏長屋に一人暮らしの江戸の独身男は、家に帰ったところで寝るだけですから、そういう場でコミュニケーションをとっていたのでしょう。

そうこうして、酔いが回ってくると、なんかつまみもほしくなります。客は店主に「なんか食う物ないのかよ」と無茶ぶりするわけですね。でも、店主も考えるわけです。つまみを出せば酒も売れる。客の要望と店主の商人魂の互いのメリットが合致して、おつまみサービスがはじまりました。

かくして「酒屋に居たまま飲む」という居酒屋が誕生したのです。

時代劇だと、テーブルとイス席のある今と変わらない形の居酒屋店が映し出されますが、あれは幕末から明治になってからの話で、基本的にテーブルはありません。床几があるくらいで、客の男はそこに腰掛け、酒もつまみもそこにおいて飲んでいたものです。

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それと、当時の居酒屋には女性の店員はいません。荒くれ者たちが酔っぱらう場所なので、基本的には酒屋のおやじが対応しています。女性店員がいたのは茶屋のほうです。

テレビもSNSもない時代、本来そういう場所ではなかった酒屋を、人とつながり、会話をし、楽しく交流する場に変えたのは、江戸のソロ男といってもいいでしょう。

幕末には、江戸だけで居酒屋が1800店舗もあったといわれます。これがどれくらいすごいかというと、人口10万人当たりの居酒屋数でいえば、現在の大阪以上に、江戸では居酒屋があったという計算になります。ちなみに、現在都道府県別に一番居酒屋含む飲み屋が少ないのは奈良県で、1031軒しかありません(2014年時点)。江戸の飲み屋の半分しかないということになりますね。

独身だけが居酒屋で飲んでいたかどうかまでの史料はありませんが、江戸に集結した男たちは、たとえ妻子持ちでも単身赴任です。当然、江戸で一旗あげようと意気込むのは、地方の次男坊・三男坊の独身たちだったでしょう。基本的に貧困で、男女人口比も男が女の2倍もいたので、男余りで当然結婚相手もいません。結婚することが当たり前の時代でもないので、特にそれで何か不都合があるわけでもなく、今日働いた分の銭でおいしい酒と飯を食って寝れれば、それでよかったのです。

実は、現在のソロ社会における商売のヒントはかなり江戸時代に隠されていて、そのほとんどがすでに江戸で実施されていたものだったりします。寿司は当時でいえば、独身男たちが出勤途中にかっくらうファストフードでしたし、100円ショップもありました。所有する意味のないものは大抵「損料屋」というレンタルショップで借りれたシェアリングエコノミーも成立していました。家から一歩もでなくても、食品や薬まで棒手振りというデリバリーサービス業が玄関まで来て行商していました。総菜屋が繁盛したのも、自炊をしない独身男の需要があったからです。

講演などでもよくいいますが、江戸のソロ男たちは確かに子孫は残せなかったかもしれない。しかし、今に続く産業や文化を残したのだ、と。

拙著「ソロエコノミーの襲来」には、現代のソロ社会の商売に通じる江戸の商売の話をかなり詳細に、まるまる一章さいてご紹介していますので、ご興味あればぜひお読みください。


さて、現代の話に戻りますが、居酒屋業態が落ち込んだのは、当然外での飲食・会食の機会が減ったからですが、以前にこちらの記事でも書いた通り、それまで外食を支えていたのは、まぎれもなく独身男たちです。エビデンス付きで解説していますのでぜひお読みください。

とかくマーケティングでは、独身男はターゲットにならないと無視されてきましたが、現実需要を作っているのは彼らです。今後、独身男たちをファン化できない商品やサービスはつらいものとなるでしょう。

2040年には、人口の半分は独身になるし、全世帯で家族は2割しかいなくなります。かわって、世帯の4割は一人暮らしです。いつまでも主婦や女性が需要を支えるわけではありません。

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荒川和久/「結婚滅亡」著者

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11/13に新刊「結婚滅亡」が発売です!他著書「ソロエコノミーの襲来」 「超ソロ社会」「結婚しない男たち」等。東洋経済等でコラム執筆したり、テレビ・新聞によく出ます。独身研究家として活動させていただいてます。メディア出演・執筆・対談・講演のご依頼はFacebookメッセージから。