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大戸屋VSコロワイドから考える!~株主提案の可決率~

 6月は、株主総会ラッシュの時期です。理由は、日本の法制度が影響しています。日本の株主総会(上場企業の場合)は、実質的に事業年度の終了後3か月以内に行う必要があります。上場企業の多くが3月末決算なので、結果的に6月に集中しやすい構造です。この辺りは、開催期間に余裕のある欧米諸国と大きく違い、日本の株主総会制度の課題と言われています。今回は、そんな株主総会ラッシュの中で注目された、「大戸屋VSコロワイド」の事例を軸に、株主による経営者への影響力について考えていきます。

*なぜ「大戸屋」VS「コロワイド」の構図になった?

 そもそも、株主総会の審議には、「企業側が提案する議案:会社提案」と「株主側が提案する議案:株主提案」の2種類が存在します。通常は、前者のみを株主総会で採決するパターンがほとんどです。実際、2010年から2017年までの全上場企業の株主総会における「会社提案」は約20万件も存在するのに対して、「株主提案」は約2千件に留まります。

 定食店チェーンの大戸屋ホールディングス(以下、大戸屋)の筆頭株主で、19%の株を保有する外食大手コロワイドが、大戸屋の株主総会において「株主提案」を行いました。内容は、コロワイドが提案する取締役を登用せよというものです。コロワイドの目的は、記事にもある通り、大戸屋の現状経営陣の一新を行い、経営合理化を促すためです。しかし、両社一歩も引かずの状況で、株主総会で争うことになりました。結果は、大戸屋の「会社提案」が可決され、コロワイドの「株主提案」は否決されました。コロワイドも票を獲得するために尽力したようですが、実は株主提案が可決されるケースは、非常に稀なのです。

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(出所:大戸屋HD臨時報告書より。ただし、コロワイドは株主総会当日に株主提案への賛同拍手がなかったとみなされて、コロワイドの株主提案への賛成票はカウントされていない。)


*そもそも、株主提案はほとんどが可決されない

 2010年から2017年の株主総会の「株主提案」において、可決されたのは200件も存在しません。一方で、この期間に約20万件も存在する「会社提案」は平均賛成率が95%と、その多くが可決されます。この傾向は、日本だけではありません。株主提案と企業価値の関係を検証している下記論文でも、同様のことが示されています。

VICENTE CUÑAT,  MIREIA GINE and MARIA GUADALUPE, "The Vote Is Cast: The Effect of Corporate Governance on Shareholder Value", The Journal of Finance, Volume67, Issue5, October 2012 

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1540-6261.2012.01776.x

 ここでは、1997年から2007年の米国S&P1500 に組み込まれている上場企業において、「株主提案」は平均30%ほどしか賛成率を得られておらず、可決率も年によっては9~30%と非常に低い傾向と報告しています。つまり、「株主提案」は、提案される頻度も可決率も、非常に低いのです。だからこそ、それだけハードルの高い「株主提案」が可決された際は、株価への統計的有意な影響も生じるなど、インパクトも大きいことが実証されています。

もしも、あなたが株主として何かしらの行動を起こしたいならば、これだけハードルが高い施策なのだからこそ、用意周到にするだけでなく、仮に可決されなくても、アクティビストのように世論を動かすなどのインパクトを残すことを含めて考慮しないと割に合わないかもしれません。

もしも、あなたが投資家ならば、株主提案を受けそうな企業と、その採択率を考慮して投資チャンスとするのもありかもしれません。もちろん、投資は自己責任で♪

ここまで読んで頂きありがとうございます!

応援いつもありがとうございます!

崔真淑(さいますみ)

*冒頭の画像は、崔真淑著『30年分の経済ニュースが1時間で学べる』(大和書房)より。無断転載はお控えくださいね♪




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