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農業の成長産業化という観点から、種苗法改正を考える

エネルギー政策と温暖化問題という、自分の専門以外のことは、ほとんどこのnoteに書いてきませんでしたが、今回は種苗法改正について考えてみました。

Twitterで話題になったから全く縁もゆかりもない問題に首を突っ込んだ、という訳ではなく、実は、昨年秋から規制改革推進会議の委員を拝命しており、農林水産WGと投資等WGという2つのWGに所属しているため、農林水産業にはいささかの問題意識を持っているものです。

この農林水産WGでは、日本の農林水産業の生産性を向上させ、成長産業化させることを掲げて、新規就農支援やスマート農業、農協改革など様々な課題を議論しています。ただ、皆さんお気づきの通り、農業の成長産業化といっても、状況は大変厳しいものです。

そもそも担い手はどんどん減り、かつ高齢化しています。今年2月10日に行われた規制改革推進会議農林水産WGで農林水産省から説明された資料をご覧いただくと、「我が国の基幹的農業従事者は、毎年6万人が減少(平成22年から平成27年の平均)し、65歳以上が70%、49歳以下が11%(39歳以下は5%)」とあります。
昭和60年(1985年)に約350万人いた農業従事者は今140万人。ここ数年は、6万人/年で減っているというのですから、まさに危機的状況です。
農業産出額はそれでも、ここ数年はなんとか維持、わずかですが増加に転じています。「平成30年度 食料・農業・農村白書(令和元年5月28日公表)」からいくつか図表や解説をお借りするとこんな感じ。

農業生産額

「平成29(2017)年の農業総産出額は9兆3千億円となり、前年に比べ0.8%増加となりました(図表2-1-1)。農業総産出額は、米の消費の減退による産出額の減少等により、ピークであった昭和59(1984)年から長期的に減少傾向が続いていましたが、平成27(2015)年から増加に転じ、3年連続で増加となっています。」

なかなか明るい見通しが持ちづらい日本の農業ですが、数少ない活路として考えられているのが、日本の農産物の質の高さです。例えば、海外でイチゴを召し上がった経験がある方にはご理解いただけるかもしれませんが、海外で食べるイチゴは、日本で食べているふんわりとしたジューシーなイチゴとは似て非なるもの。ポジティブな表現をすればとても歯ごたえがある、悪く言うと固くて瑞々しさに欠けるものが多く、「あー、日本のイチゴが食べたい」とつぶやいたことのある方もおられるのではないでしょうか。
これから日本の農産物は質の高さで勝負するしかないのだろうと思います。願わくば、農産物そのもので勝負するのではなく、6次産業化や観光と組み合わせてより付加価値をつけるべきだと思いますが、まず質の高い農産物がなければ話になりません。

ちなみに、農林水産物・食品の輸出額はこんな感じで増加基調を維持していますし、イチゴに限って言えば急成長といって良いでしょう。

輸出額

イチゴ

では、なぜ日本はこうした質の高い農産物を作ることができるのでしょうか。もちろん生産農家さんの工夫や、あるいは流通網が整っていることもあるでしょう。色々な要素の総合力として農産物の質が維持されているのだろうと思いますが、品種改良の力も大きいとされています。

品種改良は多大な労力と費用をかかるもので、種苗会社や国の研究機関、育種家の方たちなどが取り組んでいます。彼らが生み出した種苗を農家さんが購入して、栽培して、収穫して・・となる訳ですが、この穂木や種を勝手に他の農家さんが使ったり、海外に持ち出したりすることを禁止して、品種改良の労力をかけた方たちの特許あるいは著作権を守ろうというものです。
農水省のパンフレット、字は多いですがよくまとまっています。

こうした権利がきちんと保護されて、自分たちが投資した開発コストが回収できるから、安心して開発に取り組むことができるわけで、その権利が保護されなければ開発に取り組むこと自体やめてしまうでしょう。そうなると結局、日本の農業の数少ない成長の源泉である、質の高い品種を確保するということができなくなってしまうのではないでしょうか。こうした問題意識に立ち、私自身は今回の種苗法の改正は必要な議論だと考えています。

品種改良に個人育種家として取り組んでいる林さんのnote「種苗法の改正について」から、いくつかポイントを抜き出すと
「いま個人育種家の私が研究を続ける上で困っていることの一番は、新品種には多大な費用と労力がかかるが、それを回収する仕組みがないことです。」
「生産者、消費者、流通業者、そして「育成者」が妥当な対価を貰えるような業界に変えていきたいと思っています。
育成者権を守りやすくするといった意味で、今回の改正は非常に大きな意味を持っています。」

コロナ禍落ち着いて議論できない今、なぜ強行に国会審議を進めるのだという意見があることも承知しています。確かに、国会できちんと議論し、その論戦を聞くことで国民はこの改正が何を目的としているのか、何が保護されて何が規制されるのか、自分たちへの影響は、ということを具体的に考えられるのですから、国会で丁々発止議論していただきたいと思います。
しかしながら付言すれば、この問題は筆者の認識では、2018年くらいから議論が重ねられてきたものです。コロナで社会が浮足立っているからといって、国会までもそうなってしまっては、様々な課題がすべて先送りになってしまうのではないか、そんなことをしている余裕はこの国の農業にはもう無いのではないだろうか、というのが私の意見です。

ただ、これはあくまで私の意見。ゆっくり議論して、不安に思っている方たちの懸念に丁寧に応えながら進めることも大切だと思います。スピードを取れば不安が残り、時間をかければ今困っている方たちをまた待たせることになる。どちらにしても何かを犠牲にしなければならないのでそれこそ政治判断だと思います。

そして政治に関わる方たちにはぜひ、正確かつ丁寧な情報発信をお願いしたいと思います。
与党の方たちには、これまで長く議論してきたという意識や、関係者からの要望を受けて動いているのだという意識があるのかもしれません。「説明しよう」という意識が希薄だと、ゴリ押し、強行と捉えられてしまいますので、その点は真摯に受け止めていただければと願います。
農林水産省もこんな風にyoutubeを使いこなせるわけですし(この動画、大好きです)、わかりやすく国民に伝える努力を、もう一段回頑張ってほしいと思います。

一方で、元農水大臣の肩書で、実際の発言者から「全く逆の取り方」と言われるような引用をしている方。これは何を考えているんでしょうねぇ。。
「山田正彦が種苗法改正に関して横田修一氏発言を真逆に捏造してハーバービジネスが記事を削除」
横田さんのFacebookでのご発言は私も目にしましたが、農水省の検討会での議事録も併せみると、皆さんも唖然とされると思います。どんな結論を得るにせよ、正しい情報で議論する。これ基本。

メディアにもようやくこうした俯瞰的な記事が出るようになりました。私がこの日経の記事「種苗法改正、農家からも出る「賛成」の声に付け加えたかったのは、日本の農業の競争力を維持することに対する危機感です。













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