今月から、日経新聞で気になる特集が始まりました。
その名も「クラシックの常識 ぶっ壊す」。
もはや聞き飽きたであろうコロナ禍がもたらした文化への打撃の中で、引き続き音楽に与える影響は大きくそして難しいものがあります。そんななかでポップスの市場規模の10分の1であり、なかなか生計を立てるだけでもかなり難易度が高いとされるクラッシック音楽の困難さには、幼少期にヴァイオリンを齧ったことで、この世に”才能”というものがあるんだと実感させてもらった(もちろん自分はモブの1人として)経験を持つクラッシック好きとしても思いを重ねてしまいます。
そんななか、ポーランドの首都ワルシャワで開かれた第18回ショパン国際ピアノ・コンクールで反田恭平さんが、日本の出場者で歴代最高に並ぶ第2位となったニュースからすこしクラッシック音楽にも光が当たってきました。
今回の日経の特集はそんな反田さんから始まり、様々なクラッシック音楽界のイノベーターを取り上げて、クラッシック音楽の胎動を伝える記事の模様。これは連載が楽しみです。
まずは読んで頂きたい「カラヤンの後輩は金髪DJ 水野蒼生のとがった挑戦」
そんななか特集第二回の水野蒼生さんの記事は是非読んで頂きたい!
実は記事にあるとおり水野さんは今月開催のワンマンライブ開催の為にクラウドファンディングをMOTION GALLERYでご一緒したご縁がありつつ、我々のPODCAST番組「MOTION GALLERY CROSSING」の今月の12月特集『薄めず広める』にもご出演頂いたばかりだったのでものすごくタイムリーだなと思うとともに、PODCASTで伺ったお話と通底する価値観についてとても分かりやすい記事になっていて、記事とPODCASTの双方でお話を見聞きしてもらえると、すごく考えさせられるものがありました。
水野さんの活動や考え方などは是非記事を読んで頂きたいと思いますが、
色々とお話を聞けば聞くほど、文化産業全体に通底する課題と向き合っているんだという思いが去来します。クラッシック音楽に限らず、文化や表現を自分ごととして生活の一部となる層が若年層がどんどん減っていると言われています。映画業界や出版業界でも状況は同じ。そんななかで、もしかしたらもっともそのハードルが高いであろうクラッシック音楽を若者世代のものとするチャレンジに本気で取り組んでいる水野さんの活動はとてもとても魅力的にうつりますし、そんな水野さんから学ぶことが多いなと思います。
実は今月のPODCASTのゲストにお招きしていたのもこの日経の記事の視点と近しものがあってでした。
我々MOTION GALLERY がとりくんでいることの1つのとして、価値観の多様性や新しさをいかにエンハンスして社会に実装し豊かな公共をつくっていくのか、というものがあるのですが、そんな中で常に抱えている問は「スケール」との戦い。スタートアップ的な価値観が支配的になっていくことで加速主義的な側面でプラスの面もおおくある一方で、こと文化表現領域から見るとあらがわなくては行けないところも多くいつも困難さがつきまといます。ブリッツスケール的手法では単なる消費やウオッシュで終わってしまう「スケール」になってしまい意味がない。価値観を「薄めない」ことを担保した上で「広めていく」戦い方ってありうるのか?そんな疑問を年末の12月だからこそ今年の締めくくりとして企画しました。
特集名を『薄めず広める』として、水野蒼生さん(指揮者/クラシカルDJ)と、永井玲衣さん(哲学研究者)をゲストにお迎えし、それぞれ薄めて広げても意味がないかもしれない領域においてそれぞれ若者層に広げていこうとしている実践者からお話を伺いました。
クラシカルDJと哲学対話
遠いものを近づけたい
一緒に溺れる
態度をいちばん大切に。
ジャンル行き来する交易船に
わからないものをわからないままに、わからないからこそ知ろう、楽しもうとする”態度”で発信者と受信者双方がありつづけること、その態度それ自体が重要なのではないか。
近年ブームな”超訳”の様に確かに広まるものの薄すぎてビジネス的視点以外では何も残らないアプローチに抗いつつ、薄めず広める環境をどうつくっていくのか。
そんな一つの(仮)結論が、クラシカルDJと哲学研究者のお二人の異色対話で編み出されたPODCASTでしたが、日経記事でもそんな論点に対してのとても示唆に富んだ水野さんの言葉がありました。
そしてそのデザインの重要な要素の1つとして「交易船のような存在」になるという言葉もありました。
内容が入門的になってしまう超訳ではなく、環境を入門的にする。
それには確かにいろんな文化が混じり合う交易船のようなデザインにすることで成立していく気が僕もしました。そして、その様に実践できているのって、やっぱ「クラッシック音楽なのにDJ」という水野さん自身が意識的に交易船のようなアクションやプレイをしているからこそ実感と実践が成立しているんだと思います。
その様に、薄めずにたくさんの場所に届けていく交易船のような活動の実践者がふえたり、そんな交易船同士が混じり合う機会が増えればきっとブリッツスケールに毒されずに、文化表現活動の良さを広げられる。そんな希望を持ちました。
今自分が取り組んでいる、下北沢のミニシアター『K2』で掲げたビジョンの1つも「マイクロコンプレックス」。つまり多様な文化の結節点たろうとしています。MOTIONGALLERYもK2も、交易船のような存在、そして交易船が行き交う港となれるように引き続き頑張りたいと思います。