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仕事と家庭の板挟みは、男性の方が深刻?解決のカギは、性別ではない“役割分担意識”

皆さん、こんにちは。今回は「ライフステージの変化に伴う働き方」について書かせていただきます。

性別での役割分担意識が強い日本では、男性は外で仕事をし、女性は家で家事・育児をする、というのが当たり前の環境で育ってきた人が多いと思います。

安心してください、男性はもっと家事・育児をしましょう、という話ではありません。笑

1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率が2020年に1.34と深刻な少子化に沈む日本。国は聞き取り調査をもとに、若い世代の結婚や出産への希望がかなった場合に実現する「希望出生率」を1.8とはじく。この希望出生率の実現にはどうすればいいのか。様々な社会要因のなかでも男性の育児や家事など家庭進出の度合いが出生率に影響があることは大きなヒントとなる。
女性に家事や育児の負担が偏るのは、程度の差こそあれ多くの国や地域で根強い。見逃せないのは、その差が男女で大きくなればなるほど少子化が進みやすいことだ。※中略※
米ノースウェスタン大のマティアス・ドゥプケ教授らは欧州19カ国のデータを分析し、育児の大半を担うことで女性が出産に消極的になり、出生率が低下することを経済学的に裏付けた。ドゥプケ教授は「欧州以上に日本や韓国の男女の分担が不平等なことは、両国の低出生率と密接に関係している」と指摘する。
男性の家庭進出の突破口として期待されるのが子育て期の初めに育児休業を取れるかどうか。日本は夫も妻も十分に取得可能な数少ない国で、国連児童基金(ユニセフ)によると、男性が収入保障付きで休める長さはOECD加盟国など41カ国中、1位だ。
しかし、活用できているとは言いがたい。日本の男性の育休取得率は20年度に12.65%で、女性(81.60%)と開きが大きい。
22年度からは男性が子の生後8週間以内に最大4週間の育休を取れるなど柔軟性を高めた改正育児・介護休業法が施行され、企業も意識を問われることになる
東京大の山口慎太郎教授(労働経済学)は実効性について「育休を取った男性が職場で不利な扱いをされなかった事例を示していくことが必要だ」と話す。※中略※
男性が家事育児に参加しやすい環境づくり、そして子育て関連予算の充実と効率的な配分――。日本の出生率向上にはこの両輪が欠かせない


■原因は「長時間労働」と「育児休暇取得のハードル」

男性の家事・育児への関わりは、周りを見渡しても、一昔前とは比べものにならないほど進んでいると思います。保育園・幼稚園への子どもの送迎や、習い事の送迎、学校行事やPTAへの参加など、男性の姿を本当によく見かけます。

ですが、

・職場における長時間労働
・男性の育児休暇取得率の低さ
・男性の育休取得に対する職場の理解不足・人事評価への影響
・男性の家事・育児にかける時間の少なさ
・仕事との両立支援サービスなど社会的な支援の不足

などからも分かるように、社会の受け皿としてはまだまだ整っておらず、会社と家庭の板挟みにあっている人が多い印象を持っています。

家に帰れば、

「もっと家事・育児に関わってほしい」「なぜ女性ばかりに押し付けるのか」と非難され、(女性側の気持ちは本当によく分かります)

会社にいれば、

「子供が小さくても奥さんがいるから大丈夫だろう」「仕事を頑張ってお金を稼ぐ方が家庭の助けになる」

などと言われ、絵に描いたような板挟みで、子育てなどに時間を割きたくても割けない状態で身動きがとれなくなっている人は多いのではないでしょうか。

もっと言うと、この板挟みが原因で、“転職”や“独立”という選択肢を選ぶ人も増えている印象です。企業からすると、カルチャーもマッチしていてロイヤリティも高い、優秀な人材がライフステージの変化に伴って「柔軟に働き方を変えられない」という理由だけで退職していってしまうのは、なんとかして避けたい事象のように思います。


■働き方を一切変えずに父親業をこなすのは難しい

今は、小さなことでも揚げ足をとられ何でもすぐ炎上しがちですが、たとえば、男性が「家事・育児を“手伝う”」と言うと、女性から「“手伝う”とはどういうことだ。当事者として関わるべきだ」と集中砲火を浴びてしまう世の中です。
つまり、女性だけに家事・育児の負担を押し付ける時代は確実に終わりました。

「女性に家事・育児を押し付け、仕事を今まで通り(今まで以上に)頑張る」 = ×
「今まで通り働き方を変えずに、空いた時間で育児を手伝う」 = △
「働き方を見直し、子どもに関心を持ち一緒に育児をしていく」 = ○ 

ということなのだと思います。

女性が育児休暇を経て復帰すると、仕事と家庭を両立するために、働き方を変えざるを得ないという現実があります。

端的に言うと、女性の場合は、ママになるとそのタイミングで分かりやすく「働き方を変更」できます今までの働き方をリセットして、「時短勤務で働く」、「フルタイムだけど母親業を優先しながら働く」、「リモートワークを駆使しながら基本的に家で仕事をする」、「働き方はあまり変えずに、抜本的に生産性を上げて働く」など、「ママになったので働き方を変えます」と堂々と周囲に言いやすい、または理解されやすい環境があります。

一方で、男性社員が「パパになったので働き方を変えます」とは到底言いにくい、というのが実態ではないでしょうか。

■子育て支援予算は本当に倍増されるのか

引用した記事の中には、

日本の場合、子育て支援に注ぐ予算が十分とはいえないことも問題視されてきた。OECDのデータ(17年)では、児童手当や育休給付、保育サービスといった日本の家族関係の公的支出は国内総生産(GDP)比1.79%。比率ではフランスやスウェーデンの約半分の水準にとどまる。
支出が多い国は出生率も比較的高い。問題はその使い道だ。ドゥプケ教授の研究では、保育所整備などを通じて母親の負担を減らすほうが父親への給付金支給より出生率の押し上げ効果が高いうえ、政策に要するコストは約3分の1に抑えられるという。

とありました。

日本では、未婚化、晩婚化の進行に加え、出生率も減少傾向にあり、さらには核家族化による家庭の養育力の低下や、近隣や地域による相互の助け合いの低下など、育児に関する負担問題が山積みです。

岸田新総裁においては、子育て政策を一元的に扱うこども庁の早期設置については「賛成」、かつ「子育て予算を倍増する」と表明しています。

4年ぶりの政権選択選挙が行われる今、各党が公約を続々と発表していますが、子育て支援を強化するためには、他の先進国レベルにまずは予算を引き上げ効率的に配分していくこと、そして、男性が家事・育児に参加しやすい環境を構築していくことは、誰もが「必要である」と認識をしているように思います。

保育所整備など、母親の育児における負担(精神的にも身体的にも)を物理的に減らすことができれば、その分、夫婦間で男性(父親)に求める負担は比例して減っていくのではないでしょうか。


■夫婦の役割分担について

「夫婦で協力しながら家庭を築いていくことは大切だと思うか」との問いには、「大切だと思う」「どちらかと言えば大切だと思う」と答えた人は合わせて83.4%に達した。具体的な協力の内容については、「夫婦共働きで、家事・育児も分担」というイメージの人が64.2%と最も多く、「夫は外で働き、妻は家事・育児」(14.2%)を大幅に上回った
配偶者がいる男女の40%が、平日の在宅時間のうち仕事以外に使える時間が「増加した」と回答した。コロナ禍前と調査実施時の直近1カ月を比べた変化を聞いたところ、「増えた」とする人のうち、男性の65.5%が「家事・育児に対する理解が深まった」と答えた
育休の取得が可能だった男性の国家公務員(一般職・常勤)の取得率は前年度比23.4ポイント上昇の51.4%と、男性の育休制度を設けた1992年以降で初めて5割を超えた。男性の育休の期間は「2週間以上1カ月以下」が50.6%で最多だった。

このような記事を見ると、女性の社会進出に伴って、性別での役割分担意識は確実に変化していることは明白ですが、まだまだ発展途上です。

私自身は、これまでに「仕事も家事・育児もどちらもあって大変ですよね」とか、「どうやったらどちらも両立できるんでしょうか」というような質問や相談をたくさん受けてきました。その前提には、女性の家事・育児にかける時間や役割が男性よりも多くて当たり前、という考え方が根付いています。そして、そのことに対して違和感を覚えることすらありませんでした。

このように書くと、「これからの時代は、男性の家庭進出が女性と同じレベルで必要だ」とすぐに捉えられてしまいがちですが、個人的には論点は、「家事・育児への関わり方や比重においての男女格差を限りなくゼロにすることではない」と思っています。

もちろん、現時点であらゆるデータで証明されているように、男女間の大きなギャップを埋めていく必要はあると思いますが、男女格差をゼロにすることがゴールなのではなく、家庭内の役割分担を考える時に「男性だからこの仕事、女性だからこの仕事」という固定観念を捨て、「できる方ができることをやる」、「得意な方が得意なことをやる」、そこに制約だけでなく何かしらの犠牲が伴うのであれば、「できる方法をお互いに考えて見つけていく」、という意識を持つことが大事なのではないでしょうか。


■企業ができること

今は多くの企業で、アンコンシャスバイアスをなくすための研修や、管理職向けのハラスメントやコンプライアンス研修を実施するなど、リスクマネジメントのための取り組みを強化しています。

アンコンシャスバイアスの適切なコントロールは、本質的なダイバーシティの推進の上では欠かせません。

企業がまず取り組むべきは、性別や年齢などの属性ではなく、個人の仕事に対する意欲や能力によって、部署への配属や抜擢、適材適所を進めることです。

これまではあくまで「配慮」の気持ちからくる性別による役割分担意識であったとしても、これからは「バイアス」として解釈されることにつながってしまいます。このバイアスに気づき、個人単位、組織単位で是正をしながら、“個”を活かす組織作りへと大きく舵を切っていく必要があります。

男性は育児参入をあきらめ、女性はキャリアアップをあきらめる、というそれぞれの機会損失をなくし、各自の意識の底に眠っている性別による固定観念を取り払うことができれば、もっと多くの人が生きやすい社会に変わっていくことができるはずです。


最後に、女性がこれまで抱えていた「ワークライフバランス」や「仕事と家庭の両立」などの課題は、男性にとってもヒントになります。いくら国や企業が男性の育児休暇取得をただ推し進めても、それだけでは十分ではありません。育児は数週間や数カ月だけのものではなく、その後もずっと続くからです。

男女ともに、キャリアにも育児にも主体的に取り組めるような組織・風土作り、そして、仕事と育児の両立支援の強化を行っていくことが、最低限、どの企業にも求められているのではないかと思います。



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