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株価下落の犯人は誰か、という犯人探しに意味はあるか

先週末の日本の株式市場は、史上2番目の下落幅ということで大きく荒れ模様となった。

今年からいわゆる新NISAの制度が始まり、初めて投資を手掛けた人の中には大きなショックを受けている人もいるようだ。ネット証券会社などに電話が殺到しているという記事もあった。

私は金融の専門家ではないが、一生活者として、老後を始めとする将来の生活資金の確保を目的に投資している立場から、今回の株式相場の下落を考えてみたい。

私の友人でも、あまり投資経験が長くない人からは、今回の大きな株式相場の下落に対して「日銀や政治家が悪いのではないか」といった反応が見られた。また、「政府がNISAなどで煽っておきながら水を差したのではないか」「金持ちや権力者に一般国民が翻弄されているのだ」といった発言も見かけた。

こうした見方が100%間違っているとは言えないとしても、大きな視点で見たときに、このような見方が妥当なのだろうか。そして、このような見方をしている人が、今後も、求めるような資産運用を続けていけるのだろうか。

もちろん、政府や日銀の金融政・経済政策に全く落ち度がなかったということは難しいだろう。また、自民党の総裁選挙を睨んで行われた政治家の発言が株式相場に影響したのではないかという見方もある。

ただ、大原則に立ち戻ってみると、株式相場は日々、その振れ幅の大小はともあれ、値上がりしたり値下がりしたりすることを繰り返すものである。一本調子で上昇だけあるいは下落だけということが続くわけではない。

それを踏まえれば、ここしばらくの、大きく見れば株価が上がってきた日本の株式市場は、やや加熱気味であるという見方もあり、ここで一息ついたという見方もできる。確かに下落幅は過去2番目という大きなものだったかもしれないが、いつまでもこの上昇が続くわけではないだろうということは、マーケットに関わる人であれば多くの人が予想していたことだと思う。

実際に、ある程度の投資経験のある人たちの今回の下落に対する受け止め方は冷静で、「ある程度予想されたことであり、また下落しているのであれば割安になって買い時となる銘柄があるならそれを買うことも検討する」といったものだった。

例えば、X(Twitter)では、こんな発言も見られた。

欲をかかず現物で堅実に投資している人にとっては直近の日経平均の上昇局面で我慢できずに上値買いするような無理な取引をしていない限りは、多少含み益を溶かしたものの退場するレベルのダメージを受けている人はそこまで多くはないという印象でむしろこのバーゲンセールのどこで拾っていくかと考えている人が多数派な気がする

日本人の多くが投資に対して経験がないということは、NISA口座の口座開設数を見ても伺い知ることができる。

この記事によれば、NISA口座開設数は、日本の人口の2割程度にとどまる。

そして、ここしばらくで投資を始めた人はまだ経験が非常に浅い。たまたま「資産運用立国」や新NISA制度の導入といった時期と日本の株式相場が中期的に上昇傾向にあったことが、新しく投資を始めた人にとって株価が右肩上がりに伸びていくのが当たり前、といった間違った認識を持たせてしまったという背景はあるのだろう。

しかし、株式市場に対するごく初歩的な教科書的な理解においても、株価は日々変動し、1日の中でも細かく上げ下げすることはもちろん、中期的あるいは長期的に見ても上昇と下降の波を描くということはとても基本的な理解だろう。そうであれば、今回の下落幅は歴史的に見てやや大きなものであったかもしれないが、この教科書的な理解から大きく外れるような例外的な事態が起きているわけではない、というのが私個人の理解だ。

株価という面では、日本企業の業績は好調ではあるが、これは一つには歴史的と言っても良い円安を反映したもので、日本企業の稼ぐ力が強くなっているからと手放しに喜べる状況なのか、私には少々疑問だ。確かに自動車産業はかろうじて日本の輸出を支え、それに伴う外貨獲得に貢献し続けてはいるが、中国をはじめとしたライバル企業が出てきている中で過去のような大きな伸びを示しているのかと言うと、そうとは言いがたいのではないか。また、かつては輸出産業であった日本の家電業界は今や見る影もないということは言うまでもないことだろう。そして、マイクロソフトやAppleなどをはじめとするGAFAMと呼ばれているような新しい世代の世界的な企業が日本で生まれているのかと言うと、そうではない。

そう考えると、日本が海外で稼ぐ力は思うように伸びているとは言い難い。誰もが知っている企業でありながら、海外での売上比率がライバル他社と比べても低いままの企業も散見される。

一方で、国内市場は人口の減少もあってマーケット自体が縮小しており、ここで売上を伸ばしていくことは大変難しい。基本的にはライバル他社の顧客を奪い、シェアを伸ばすことでしか成長することが難しい状況と理解している。日本人の収入が増えているのであれば売上高が伸びていく可能性はあるのだが、ここのところ物価の上昇もあって日本人の実質賃金は低下している。つまり、実質的には給料は伸びていないどころか減っているということだ。これでは日本国内市場での需要が同じだけあったとしても、金額的には減少することにつながる。

このような現状認識を踏まえれば、日本円は少なくとも米ドルに対しては長期的に弱くなっていく可能性が高いように思う。つまり、円安が継続するということだ。

円が安くなれば、1円の価値が以前よりも少なくなるということであるから、これは株価が上昇する要因になる。このため、これまで書いたような現状認識ないしは予測が当たっているのだとすれば、今後長期的に見て日本の株価は上昇する傾向にあるとも考えられるだろう。つまり、円の価値が下がっていくということだ。

ここまで書いてきたことは、金融の専門家でもない私の素人的な株式相場に対する理解であるが、これを踏まえても、私のような一般人としては長期にわたって安定的に株価が上がったり、あるいは配当を出し続けてくれることを期待して、短期的な株価や為替の上下に振り回されずに、自分の安心して投資できる金額の範囲、つまりリスク許容度の中で投資を長期的に継続していくしかないのだと思う。そしてこれが、今後も長く続くであろうと思われる物価上昇(インフレ)に対する自己防衛になる。

多くの人がまだ投資経験がない、ないしは浅いなかで、一朝一夕に安定的な資産運用ができるようになるというわけにはいかないとは思うが、少しでも冷静に、そして着実に資産運用を成功させる人が増えていくことが大切なのだと思うし、昨今かなり改善されてきているとは思うが、投資に不慣れな人の不安や誤解を助長するようなマスコミの報道も少しずつ減ってくれるならと思う。

もちろん、国内の産業が活発化し、海外でのビジネスが伸長することも望むが、それと同時に一人一人の国民が資産運用のスキルを身につけて、今回のような出来事が起きても冷静に対処できる人が一人でも増えることが、今後この国が安定的に豊かな社会を維持していくためにとても大切なことになると考えている。

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