「アプリ」にする意義を問い直すことでデジタルのハードルを低めに

少し前の記事だが、日本企業の間でスマートフォンの自社アプリから撤退する動きが相次いでいるという。

背景には、アプリよりも SNS などを通じたプロモーションの方が効率的であり、アプリを使っての集客が十分にできていないことがあるという。

アプリは、いわゆるガラケーからスマートフォンに切り替わる時に、言ってみればスマートフォンの目玉と言っても良いサービスだった。厳密にいえばいわゆるガラケーにもアプリはあったが、アプリを作って公開するにはハードルが高く、そのため提供されるアプリの数も限られ、利用者数も限定的なものだった。それが、スマートフォンの普及に従って、アプリを開発した人が公開する環境が整えらえ、魅力的なアプリが多数提供されることで、スマートフォンの主要な用途としてすっかり定着した。「アプリ」はもともとアプリケーション・ソフトウェアが語源であるが、それ自体が一つのバズワードになり、一般名詞ともなって、広くなじみのある言葉になった。

こうした状況から、自社アプリを持つことは、言ってみればマーケティング上の一つの流行になっていたとも言えるだろう。自社アプリひとつならまだしも、ブランドごとのアプリすらが競って作られた背景に、流行の要素があったと言えるのではないか。

一方で、すでにアプリは珍しいものではなくなり、現在では Google で約270万、 Apple で約180万のアプリが、それぞれのストアに登録されているという。

スマートフォンでユーザーがアプリを使うことはすっかり一般的になっており、今後ユーザーのアプリ利用時間の総計が大きく増えることは期待しにくいため、一つ一つのアプリは使われないものも多くなり、どうしてもメインで使っている SNS などのアプリが利用の中心になっているのが現状だと考えられる。

こうした中で、アプリを提供していても、それが数多くの他のアプリに埋もれてしまうことは想像に難くない、実際に私のスマートフォンにあるアプリでも、日々使っているものは非常に限定的で、日ごろは滅多に使われることがないものの方が多い。

特に、単発で開催されるイベントの専用アプリといったものは、その時だけは使うが後になればただアプリのアイコンだけが画面上に残っていて、アプリの内容自体もメンテナンスされるわけでもなく、「使い捨て」のような形で放置されてしまっているものも少なくない。

これに限らずアプリの問題は様々にあるが、大きいのは高齢者をはじめとしたデジタルリテラシーが必ずしも高くない人にとって、アプリをダウンロードしインストールすることのハードルが高いことが挙げられるだろう。一度インストールした後も、スマートフォンOS の更新などによってアプリ自体もバージョンが変わるという問題があり、そのたびにアプリをアップデートしなければならない。これもリテラシーが必ずしも高くないユーザーにとっては大きなネックになっている。

我が国では高齢者の人口に占める割合がどんどん高くなってきている現状を考えれば、デジタル化を推進するにあたって、高齢者をはじめとしたデジタルリテラシーが高くない人たちに対し、なるべく利用のハードルを低くしていくことは重要な課題だと考えられる。それを考えると、サービスを提供する時にアプリを通じて提供することは、必ずしもハードルを低くすることにはならないのではないだろうか。

またアプリには、それを配信している Google や Apple が半ば独占的に30%の課金手数料を徴収するという問題もある。これはアメリカでも訴訟が起きており、エピック社がアップル社の課金ルールを守らなかったことでアプリの配信を止められたことに対して、その是非が議論になっている。

また、アップルのシェアが非常に限られているインドでは、グーグルに対して現地のスタートアップ企業が異を唱えている。

こうした問題にどのように対応すればよいか。

ひとつの解決策は、 Web サイトでもアプリと同じようなユーザーの体験を作り出すことができる、PWAと呼ばれる技術を活用することではないだろうか。

PWAに向かないもの・向かないとされているサービスもあるので、一概にアプリが不要である、ということではない。ゲームのような素早い反応を求められるサービスは、やはりアプリでなければ提供できないものと思う。また、「アプリ」という認識が十分に普及したこともあるのだと思うが、コロナ禍の影響でアプリの利用や課金は伸びているそうだ。

一方で、一般に使われているアプリの機能に関しては PWAでも賄えるものも少なくないと思う。日本経済新聞もこの PWA を使った日経電子版のサービスを提供している。

PWAを使うことで、ユーザーからすればリンクをクリックするだけでアプリをインストールしたのと同じような使い勝手を実現できるため、デジタルリテラシーが高くないユーザーにとってもアプリよりも利用が簡単になるメリットがある。

またサービスを提供する側からすると、現在2つのスマートフォンの主流OSであるアップルの iOS と Google の Android の両方が、同じ PWAを使うことによって、原則的にはそれぞれの OS に個別に対応する必要がないという利点もある。またアプリの場合のように、時に頻繁なOS のバージョンアップに伴ってアプリをアップデートする必要性もなくなり、これはユーザーにとってもメリットである。

このような PWAベースのサービスを提供することは、世界的に大きな問題となっている Apple や Google の独占にいかに対応するか、ということを考えた時に、その一つの手段であるとも言える。開かれたインターネットの重要性を考えるのであればApple や Google が独占的に振る舞うことは、必ずしも好ましいことではないと言うべきだろう。

そして、我が国においては先に述べた通りデジタル化の遅れが社会課題になっており、政府もデジタル庁を新設するなど、デジタル化の推進にようやく舵を切ったところだ。それが実効的に実現されるためには、リテラシーの高い低いを問わず利用しやすいデジタルサービスが提供されることが重要である。こうした点からも、条件反射的にアプリに頼るのではなく、PWAを含めたWeb ベースでサービス提供することがもっと検討されても良いのではないか。

脊髄反射的に「アプリで」とならないこと、「アプリで」ということで社内稟議が通りやすいといった状況から脱却することが大切ではないかと思う。


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