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オープンAIに学ぶ 良い経営チームを作るために大事な5つの視点とは。

皆さん、こんにちは。今回は「経営チーム」について書かせていただきます。

11月中旬、驚きのニュースが飛び込んできました。オープンAIがブログで、サム・アルトマンCEOとグレッグ・ブロックマン社長の退任を発表したのです。オープンAIの顔とも言えるアルトマン氏らの解任報道は、研究者が相次ぎ退社するなど大きな混乱を招きました。結局、

最高経営責任者(CEO)を突如解任された米オープンAIのサム・アルトマン氏が4日後の21日、CEOに復帰した。一時は米マイクロソフトに入ることを決めたが、オープンAIの社員らが同氏の復帰や理事(企業の取締役に相当)の辞任を求めるなど、事態が激しく動いた。

とある通り、生成AIブームを代表する新興企業の“お家騒動”は収束に向かうことになりました。

こちらの記事には、

理事会が17日にアルトマン氏を解任した理由は明らかになっていないが、路線対立が背景にあるとの観測が浮上している。具体的には、外部出身の理事を中心に安全性を重視すべきだとの意見が広がる一方、アルトマン氏らが事業の成長を優先する傾向を強めたもようだ。

とあります。企業の成長を追求する一方で、安全性を重視することも同じように重要です。そのバランスを取りながら経営の透明性を高め、事業の急拡大に伴う企業統治の体制整備を図っていく必要があるのです。

生成AI市場は世界的に急拡大が見込まれていますが、それらを牽引しているのは創業間もないスタートアップ企業が中心です。今後もそのような企業が競争の一翼を担う可能性が高い中、企業統治体制が整っていないと、世界中に深刻な問題を引き起こす可能性があることが今回の騒動で露呈しました。

今回の騒動の発端や背景については様々な報道がされていますが、解任理由についてはいまだ真相は不明なままです。オープンAI側は公式サイトで「コミュニケーションにおいて率直さを欠いた」といった理由を発表しており、この言葉通りだとすると、何かしらのアルトマン氏の言動に不誠実さや虚偽があったと推察されます。

確実に言えるのは、このような世界中が注目する成長企業でさえ、あるべき経営の姿を具体化できておらず、経営に関わるチーム全員が向かう先や方向性にズレが生じてしまったということではないでしょうか。そしてそれは、どのような企業にも起こり得ることだと思います。

不確実性の高い今の時代において、経営チームに求められるものとは何なのでしょうか。
良い経営チームを作るために、どのような点を意識すべきなのでしょうか。具体的に考えていきます。

■経営チームに必要な能力とは

経営チームとは、経営に必要な分野における責任者の集団です。会社を継続・発展させていくためには、様々な分野に精通し、アンテナを張り巡らせなければなりません。優れた経営が行われている会社は、経営チームに異なる強みを持った複数の人が参画していて、お互いに協力し合いながら経営にあたっています。トップマネジメントの仕事を一人で行うことは難しく、経営チームによって本来果たすべき役割を分散しているのです。

経営トップが経営チームを作る際、自分と同じ強みを持った人を引き上げてもあくまで補佐役に留まってしまうため、「営業」「マーケティング」「商品開発」「財務」「人事」など異なる分野のエキスパートで構成し、それぞれの領域のトップに権限移譲をしながら、責任を分散していく形が理想です。

経営チームに必要な能力としては、一般的に言われる「CEO」「COO」「CSO」「CFO」「CHRO」「CTO」「CMO」のようなケーパビリティが必要です。このようなCxOという役職を設置するのは、経営課題へ取り組む体制を厚くし、それぞれの分野の責任者が専門性を最大限生かすことができる環境を整備し、健全な会社経営を行うことが重要視されるようになってきたからです。

経営資源を調達し、経営戦略を立て、優先順位を決めて資源配分を行うためには、必ずしも機能ごとに1人ずつ立てなくても1人が複数の機能を担当するなどして、経営チームに必要な機能を担保することが重要です。

経営チームを機能させるためには、以下のようなポイントを意識する必要があります。

  • 経営チームメンバーのそれぞれの担当分野で、最終的な意思決定の責任を負う

  • 役割と責任を明確にし、適切な人を適切なポジションに置く

  • 全員でビジョンを共有し、それを実現する推進力を持つ

  • 経営戦略や目標をアクションに落とし込み、実行、振り返り、改善のサイクルを回す

  • 率直に意見を言い合える信頼関係を構築する

  • 何か問題に気づいたらすぐに表面化させ、指摘し合える関係性を維持する

  • 経営チーム全体でお互いの目標や業務を分かるようにし、相互に承認・アドバイスし合う関係性を作る

経営チームが「チームとして結束していること」は、業績の向上に直結するだけでなく、その会社の雰囲気や文化や職場環境などにも確実に影響を与えます。
「極めて能力が高く優秀なプレーヤーをチームに入れる」とか、「会社のフェーズや経営戦略上、今最も重要な機能や役割を果たせる人をチームに入れる」、「現経営チームに不足している要素や能力を補える人をチームに入れる」など、それぞれの企業によってどのように経営チームを作るのかは異なりますが、何よりも重要な点は、経営チームの相互の信頼関係が構築されている状態で、経営をする上で必要な能力を補完し合い、フェーズに合わせて最適なフォーメーションに変化させ続けていくことではないかと思います。

■良い経営チームを作る上で大事な5つのこと

経営が適切な機能を果たしているかを測る際、前述した通り、「経営チーム内の関係性はどうか」という観点は重要な要素です。関係性が良いか悪いかによって、会社全体の一体感や推進力にも大きな影響を与えるからです。

「チームの関係性」以外にも以下のようなポイントが、良い経営チームを構築する上で必要不可欠であると考えます。

1、コミュニケーションを通して共通認識を作り出す
→経営チームはただ仲が良いだけではダメで、経営チーム同士の意思疎通をしっかり取り、一枚岩で同じ方向に向かっていく必要があります。どんなに長い間一緒に仕事をしてきたからと言って、伝えるべきことを伝えていないと、必ずどこかで歯車が狂い、組織の成長が鈍化し、会社が低迷していきます。特に変化が激しい市場環境において、外部要因によって受けるダメージを全てコントロールすることはできませんが、経営チーム間のコミュニケーション不足によって受けるダメージはコントロールすることができるはずです。ただコミュニケーション量を担保するだけでなく、チームメンバー全員が共通の考えや意見を持つに至るまで、とことん質の高いコミュニケーション(自分の考えを相手に周知し、相手の考え方や意思を理解する)を取ることによって、チームの中の共通認識を作り出していくことが重要です。

2、全員が自部署の視点ではなく全社の視点で見る
→経営チームは原則、それぞれの部署の責任者の集合体で成り立っているものですが、自分の部署のことだけを第一優先で考えていては、全社最適の視点を持つことはできません。常に会社全体の視点で経営判断を行うことは大前提として必要なことです。チーム全員が組織全体の視点を持つことで初めて、共通のゴールや共通の目的が生まれ、仕事における協力関係を生み出していくことができます。

3、適切な意見の不一致を歓迎する
→「社長がこう言っているからそれに従う」という考えや雰囲気が当たり前のように経営チームに蔓延してしまうと、全ての意思決定に当事者意識が生まれず、他人事として捉えてしまうようになります。重要な意思決定を行う際は、ある程度の“意見の不一致”が必要です。その論点を深堀りしていく過程で、意思決定の精度が上がり、経営チームのコンセンサスが生まれ、予期せぬことが発生した場合でもゴールや目的が明確な分、対応がスムーズになります。

4、率先して変化を受け入れる
→自社の社員に変化や変革へのコミットメントを促すためには、優れたアイディアだけでは不十分です。変化に対してポジティブな反応をする人もいれば、ネガティブな反応をする人もいます。変化への適応力を高めることが、未来の競争優位性を高めることは言うまでもないですが、企業文化として根付かせるのには経営チーム自体がその姿勢を示していかなければなりません。変化の内容が自分の価値観と相反する場合、それに抵抗しようとする人も出てくるかもしれませんが、そのような時こそ説得材料としてまずは成果を出すことに専念したり、変革の意図や背景を分かりやすく伝える説明責任を果たしたり、多くの人を巻き込みながら変革への推進を経営チーム自ら率先して行うことが重要です。

5、適切な新陳代謝を行う
→長い期間にわたって経営チームの入れ替えがない場合、必ずどこかで組織が停滞していくものです。一度良い肩書を手に入れてしまってそこから降格や交代の可能性にさらされていないと、“上がり”のような状態になってしまい、もともと野心があって成長意欲の高い人でもそれ以上努力することが少なくなっていきます。市場環境や事業環境、経営戦略によっては、その都度ベストな経営体制というのは変わっていきます。中長期的に見て流動的に経営チームを作っていかないと、チーム作りは失敗してしまう可能性が出てきます。
※参考までに、当社では以前「CA8(シーエーエイト)」という取締役の交代制度を導入していました。2年に1回、一定数の役員が入れ替わるという仕組みは、経営幹部に対して適切な緊張感を与えるだけでなく、いつかその枠に入れるかもしれないと、次の世代までもが一生懸命頑張ることにより、結果的に会社全体に大きな成果をもたらしました。


5つのポイントを挙げましたが、このような視点を意識しながら、描いている経営戦略を実行し狙った成果を出すための最適な経営チームを構築することはもちろん、それぞれの企業の置かれているフェーズや市場環境の変化に合わせて経営チームを作る上での“基準”や“条件”をその都度ブラッシュアップしていく必要があるのではないかと思います。

■ダメな経営チームの特徴

こちらの記事には、先日、臨時株主総会で株式非公開化を決議した東芝の不祥事後の統治不全について書かれています。

「自分だけでは何も決められない」。半導体売却のさなかに綱川智社長(当時)が口にした言葉が象徴的だった。物言う株主が実権を握る前も調整先は首相官邸、経済産業省、銀行と多岐にわたり、経営判断が即座にできない。ファンドが合流するとさらに機能不全に陥り、前向きな投資、組織改革が二転三転した。

経営トップは、常にあらゆるステークホルダーから全く別のことを言われたり、強い圧力やプレッシャーを受け続け、時には信念が揺らいだり、自分の下した意思決定が本当に正しいのか自信がなくなったりします。社内を見ても、上層部の派閥争いや、内向きの縦割り組織による権力闘争に巻き込まれることも少なくありません

このような経営体質があると、「自分だけでは何も決められない」というのは、社長という経営トップにいながらも実際にあることだと言われても不思議ではありません。

当社のような変化の激しいIT業界においては特にそうかもしれませんが、経営において「意思決定が速いかどうか」は企業の重要な成長要因の一つです。スピードこそが競争力になることも多々あります。「意思決定が遅い」のに急成長しているような会社は見たことがなく、場合によっては「何も決めない」「問題を先送りする」という会社も少なくありません

経営者や経営チームは、常に意思決定の場面に直面しています。優れた経営者や経営チームほど、意思決定の重要性や優先順位、いつまでに何を意思決定すべきか、自分が決めるべきかチームの誰かに任せるべきか、意思決定しない場合のリスクは何かなどについて、しっかりと把握ができています。逆に、経営チームとしての機能が不完全な場合ほど、意思決定基準や戦略のセンターピンが定まらず、ズルズルと決めきれない状態が続いてしまうのです。

自社の経営チームに、以下のような傾向があれば注意が必要です。

  • 意思決定を常に先延ばしにする傾向にある(決めない・決められない)

  • 経営チーム内に共通の見解がなく、判断軸が曖昧で毎回意思決定内容が異なる(判断基準がない)

  • 意思決定による影響範囲やネガティブインパクトを想定していない(リスクヘッジができない)

  • 意思決定に際して、問題把握→解決策考案→意思決定→決定事項の周知、というような必要なステップを踏んでいない(意思決定に必要なプロセスを踏まない)

  • 決めることは決めるが、その後実行しきる覚悟や責任が伴っていない(決めたが、やらない)

  • 実現可能性が伴わない意思決定をする(決めたが、やれない)

  • 「やる」ことは決められるが、「やめる」ことを決められない(一度決めたことをやめられない)


これらの項目に少しでも当てはまることがあれば、経営チームが重大な意思決定を誤る可能性が出てきてしまいます。それは、経営陣の能力が欠けているわけでも、仕事を怠っているわけでもなく、意思決定のプロセスや組織上の問題があるからに他なりません。

意思決定一つで、会社を大きく発展させるチャンスを掴む可能性もあり、逆に恐ろしいほどの間違いを犯してしまう可能性もあります。経営チームが行う意思決定は、複雑性も難易度も高いものばかりですが、一つ一つの決定に社運がかかっていることを忘れてはいけません。



最後に、それぞれの企業に役員が複数人いると、自分たちの会社には経営チームがあり、経営が成立していると思い込んでしまいがちです。重要なのは、「経営チームがあるかどうか」ではなく、「経営チームが本来果たすべき役割を果たしているか」、「企業価値を上げるために機能しているかどうか」です。
 
経営チームは絶えず流動的に変化し、様々な期待や要求に関係者が相対立する中で日々その対応に追われています。このような状況下で高いパフォーマンスを発揮するチームを作り上げていくことが、持続的な企業成長を実現する上で必要不可欠であることは明白であり、経営チームを本質的に機能させることは、全ての企業において重要な経営課題の一つではないかと思います。


#日経COMEMO #NIKKEI

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