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WITHコロナ時代に起きた「食」に関する3つの意識変容

 Potage代表 コミュニティ・アクセラレーターの河原あずです。食いしん坊が幸いして、食に関するコラボレーションも多数やっています。

 さて、新型コロナウイルスの流行により、人と食のかかわり方は変化を見せていると聞きます。例えば、それまで外食や会食が多かった人たちも、家に籠ることが多くなり、自炊をしたり、Uber Eatsなどのフードデリバリーサービスを活用して、食事を済ますことも増えているとのこと。

 そして、新型コロナウイルスの流行以降、いわゆる「巣ごもり需要」の製品やサービスが売り上げを伸ばしています。

 特に好調と聞くのが、いわゆる「D2C」と呼ばれる、生鮮品の直販サービスです。それまで卸していた飲食店や、給食業者への販路が打撃を受ける中、生産者が消費者向けの直販を拡大したことが理由として挙げられます。また、いわゆる「わけあり商品」と呼ばれる、本来は飲食店や給食に卸していた行き場をなくした製品をディスカウントで販売するコミュニティもSNS上で生まれ、高品質なものを割安で買えるというのもあり活況がやむ気配はありません。

 しかし、ただ単に「自炊の機会が増えた」ことだけが、生産者からの直販が活況な理由ではないと考えられます。近所のスーパーマーケットのセールで買えばいいものを、わざわざECで手配する必要は本来ないのです。何か別の理由があると考えるのが自然です。

 そこには、新型コロナウイルスの流行がトドメをさして広まった個々人の「ライフスタイルの変容」が強く影響していると私は考えています。

 食べ物は、人の体をかたちづくっています。「何を食べるか」という問いは、イコール「自分の体をどんな材料で構成させるか」という問いでもあるのです。そして実は体だけではなく、心、そしてその人の「ありかた」をも決める影響力があると私は実感しています。ライフスタイルが変容するということは、食もその変容の影響を必然的に受けるのです。

 以下、WITHコロナ時代に起きている、「食」に関して起きている3つの意識変容について、自分の例を中心にご紹介します。

変容①エンタメコンテンツとしての優位性を高めた「食」ジャンル

 非常事態宣言下のステイホーム期間は、エンタメ、レジャーやアウトドアの領域が大打撃を受け、余暇の体験型レジャーがほぼ消滅する事態となりました。その中で、数を増やしたのは、在宅で楽しめる「オンラインイベント」です。

 さまざまなイベントがオンラインイベントに置き換わる中で、その中でも活況だったのは「食ジャンル」でした。イベントづくりはいわば、参加者同士の共通体験づくりがキモなのですが、食は老若男女問わず参加できるコンテンツであり、家庭に食材を送ることもできます。家庭向け、ファミリー向けコンテンツとしてとても優秀なのです。

 たとえば茨城県の農産物のPRを行う団体が実施した「オンラインメロン狩り」という企画があります。

 リモートでハウスから中継し、指定したメロンをとって、自宅に送ってくれるという企画です。メロンの生産に関するトークもあり、家族で楽しめることから、ステイホーム期のエンタメとして人気を呼びました。

 私自身も、宮崎県のオーガニックお茶屋さん「白玄堂」さんと一緒に、オンラインの利き茶体験イベントを開催しました。数種類の新茶を家庭にお送りし、白玄堂の白尾尚美さんに急須でのおいしいお茶の淹れ方をレクチャーしてもらいながら、飲み比べるというものです。このときも、30人近くの参加者が集まり、普段はお茶を急須で淹れたことがない方も楽しんでいました。

 このように、他の体験型レジャーの難易度が上がることにより、自宅で手軽に安全に楽しめる「食」コンテンツの地位が、相対的に増してきているのです。
 試食会や催事、旅行で「出向いて特産品を食べる」のと比べたときの食ジャンルオンラインイベントの優位点は「消費者の自宅に食材をいれながら体験してもらえる」ことです。自宅で試食体験してもらえば、自身でも調理ができることが確認できたり、またうちに食材を迎え入れたいというモチベーションにつながりやすくなります。家族と一緒に楽しむことで、家族の誰かが気に入りさえすれば、リピートする確率も上がります。家に入れるまでのハードルが実はいちばん高いことを考えると、オンラインコンテンツを加えたデリバリー、ECは、マーケティング上も有効なソリューションとなります。

変容②「調理」がビジネスパーソンの余白時間として活用されている

 自身が体験する中で、自分の価値観を大きく変えたオンライン食イベントがあります。フーディストリンクという会社がやっている「ありごち」です。

 「ありものでごちそうをつくる」略して「ありごち」。申し込むと、主宰のシェフ・高田大雅さんから連絡がきます。「冷蔵庫にどんな食材がありますか?」「自宅にある調味料と調理器具について教えてください」聞かれるのはこの2点です。それを写真などにとって大雅さんに送り、イベント開始を待ちます。

 イベント時間がきたら、自身はキッチンに立ち、Zoomで大雅さんとつながります。そこで問いかけられるのです。「さて、何をつくりましょうか?」そこから、こういう気分でこういうものを食べたい、この食材を調理したい、和洋中でいうとこんな風にしたい、などと伝えると、大雅さんが画面の向こうから順番につくりかたを支持してくれるのです。

 驚きだったのは、自宅の残り物や、触れたことのない食材、使うに使いきれなかった調味料を使って、自分でつくったとは思えないごちそうが目の前にあらわれた点でした。その間に、大雅さんが、食材や調味料の組み合わせ、調理方法など、普段使いできるテクニックをたくさん伝えてくれるので、実践的ノウハウがどんどん身に付きます。完成するとZoomが切られ、目の前には、自分がつくったとは思えないけど自分が間違いなくつくったごちそうが残ります。ちょうどステイホームで娯楽の少ない中だったのでなおのこと、この非日常体験が強く印象に残りました。

 そこから、調理場にたつ回数ががぜん増えました。大雅さんが教えてくれたのは、目の前にある旬の食材を組み合わせれば、レシピサイトに頼らずとも、自由に料理はつくれるということです。

 もともと「ありごち」は、フードロス問題について伝えるためのコンテンツとしてスタートしたという背景もあり、大雅流の料理法を繰り返すと、冷蔵庫の残り物がどんどん片付きつつ、美味しくて飽きの来ないアレンジ料理が毎日つくれるようになりました。

 調味料の量まですべてがおぜん立てされ、手順通りに進めていく通常の料理教室だと、家庭での再現は難しいですが「ありごち」はむしろ手順を決めないアドリブ料理術なので、調理の実力の向上に直結します。実際、決まったレシピ通りに食材を買い揃え「正しく」つくるのではなく「自由に」アレンジする方法を知ったことで、調理は労働から、大事な創作の時間に変わったのです。

 以前「在宅勤務はつめこみすぎないようにして、余白の時間を持つことが大事」という趣旨の記事を書きましたが、この調理の時間が「余白時間」として自分の場合、かなりポジティブに作用しています。

 調理の機会は、1日3回ほぼ必ずやってきます。毎日、試行錯誤しながら美味しいものをつくるという「お題」があらわれることで、仕事の手を止め、仕事とは違う脳を使いながら、大喜利に回答するような気分で没頭することができます。(特に煮込み料理は、マインドフルネスとしても最高です。)おまけに、調理が終わったら、おいしくて健康にいい自分好みの料理が、目の前にあらわれるし、家族にも喜ばれるし…と、とにかく、いいこと尽くしです。

 WITHコロナ時代に、QOL(Quarity of Life)を上げるのに「食」は重要な要素ですが、大事なのは、食について主体的に考える機会を持つことだと個人的には考えています。調理は、食と主体的に向き合う上で最強の方法だということにコロナ禍で気づき、今食べているものが自分自身を構成しているのだという事実に目を向けるようになりました。これが体と心の健康に作用しています。

 実際に「調理は仕事のいい切り替え時間」と評する人は、周辺のビジネスパーソンにも増えています。それはイコール、調理の機会の増加を通じて、食と主体的にかかわり、食への意識変容を起こしている人の数が増えているということです。

変容③地域を通じて「食」と向き合うようになっている

 調理するようになると、食材や調味料に興味を持つようになり、地産地消、オーガニック、流通などについてのさまざまな情報も入ってくるようになります。何より入ってきたのが、地元のお店の情報です。私の場合、それまでは大手のスーパーマーケットでまとめて買っていた食材を、近所の八百屋さんや魚屋さんで買うようになりました。流通の仕組上、スーパーマーケットの生鮮品の多くは、専門店に比べて鮮度が落ちていることが多いのです。

 (もちろん、産直商品を上手に管理しているスーパーマーケットもあるので、あくまで一般的な傾向ですが、たとえば北関東の農業県の例をいうと、東京の市場を経由する流通の仕組み上、スーパーの近所でとれた野菜がスーパーの野菜コーナーに並ぶまでに4日間かかるケースがあるそうです。)

 地元の商店で買い物をすることが増えてくると、だんだんと、お店の正面に、旬な食材が並んでいることに気づかされます。仕入れ状況により顔ぶれは毎日変わります。そうすると、この季節は、この野菜、この魚が美味しい(そしてこの時期は高くて、この時期は安い)という知識も自然と身についてきます。

 私は東京都文京区に住んでいるのですが、おいしい食材を仕入れることに関して言うと、本当に恵まれた地域に越してきたことにコロナ禍を経て気が付きました。朝とれた産直の野菜を並べる八百屋さんも、市場からの新鮮な魚をまるのまま扱っている魚屋さんも、卸もやっていて安く肉を買える肉屋さんも、すべて徒歩圏内にそろっているのです。

 さまざまな直販系サービスを通じて新鮮な食材を直接購入することもできますが、地元のお店では、かなり割安で手に入ります。そのことが「その地域に暮らしている自分」というアイデンティティを強めることにつながり、地域愛が増す結果になりました。

 コロナ禍前の自分は外食が多く、ごちそうを食べるのであれば街の外に出るのが通例でした。食材についても、都心に出て買うこともありましたし、直販で購入することも多くありました。しかし、今では、最大のごちそうは家にあり、材料もほぼすべて地元で揃えられる状態になっています。

 また、郊外に目を移すと、地産地消もますます進んできています。地域でとれた食材を、市場を介さずに地域で流通させる仕組みが整いつつあるのです。たとえば「やさいバス」という会社が、地域の流通網をつかった、地域特化のマイクロ流通システムを構築し、地元の生産者さんと住民のみなさんをつなぐ事業を行っています。それぞれのQOLに対する関心が高まる中、この「地域重視」への意識変容は、食領域においても自然に進んでいくものと考えています。

食の未来を自分事として考えてみよう

 以上、自分の経験を中心に、コロナ以降に起きている3つの食の価値観に関する変容をまとめてみました。これは私の実体験を中心にまとめたひとつの例ですが、なんらかの形で、食に対する考え方を変えた人は少なくないだろうと考えています。

 食は、誰もが通らなくてはいけないジャンルであり、人々の生活をかたちづくる根源です。人々の人生観が大きく変わる出来事が起きている中で、より深く向き合う人は間違いなく増え、人々の生活に大きな影響を与えていくでしょう。大事なのは、これらの変化を、主体的にとらえることです。便利なデリバリーサービスやD2Cサービスも増え、私自身も使うこともありますが、あくまでそれらは選択肢の1つ。生活のすべてにとって代わるものではありません。

 外食、デリバリー、自宅調理、地産地消、D2Cと、選択肢が増える中で、大事なのはそれぞれの選択肢の特性を知り、どう組み合わせていくかを自分自身で決めていくことではないでしょうか。

 冒頭でも申し上げたとおり、食べ物は、人の体をかたちづくっています。「何を食べるか」という問いは、イコール「自分の体をどんな材料で構成させるか」という問いでもあるのです。これはそもそもからすると当たり前の話で、もしかしたら、人々は、未来に向かっているというよりは、食に対して原点回帰を行っているということなのかもしれませんね。

コミュニティと食のありかたについて考えてます

 というわけで散文にはなりましたが、Potageでは、食とコミュニティのあり方について全力で考えている最中です。具体的には、食ジャンルでの事業化を検討しており、それを地域や人々のありようと結びつける取り組みができないかと考えてます。食は、人と人、人と地域をつなぐ媒介になるという考えのもと、地域の中小の生産者や食をあつかう事業者の方とのコラボレーションを企画構想中です。企画が立ち上がった際にはぜひ反応していただけると嬉しいですし、興味ある方はぜひお問合せ下さい。

(この記事は、下記のお題の遅刻投稿でした。最後まで読んでいただきありがとうございました)

#日経COMEMO #毎日UberEats有りですか

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