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欧州の「修理する権利」から考えるブランド体験づくりの変化

EUの「修理する権利」の法改正は、ブランド体験設計に大きく関わってくる変化だと考えています。

欧州連合(EU)の主要機関は2日、消費者が家電製品を「修理する権利」を認め、一つの製品をより長く使える環境整備を企業に義務付ける法案で大筋合意した。スマートフォンや掃除機などを手ごろな価格で直せるようにし、使い捨てを防止する。

EU、家電の「修理する権利」法制化 日系メーカーも対象

前提のルールが変わっている

先月に欧州を回ってみて、ブランド体験をつくる前提ルールが変わってきているので、生活者の行動も変わってきていると感じました。

そのわかりやすい例が「修理体験」です。

EUの法改正にある「独立した修理業者が修理しやすい環境をつくる」が義務付けられると、
・消費の素材選び
・保証期間やアフターサポートの仕組み

などを根底から見直す必要が出てきます。

修理の体験まで設計ができていないブランドは、
・そもそも市場に商品を出せない
・生活者からも選ばれにくくなる
といった状態になってくると考えられます。

Appleも方針を変更

Appleは自社管理下で体験を完結する方針を強く打ち出してきていますが、欧州の動きを踏まえ、独立系修理プロバイダを拡大する方向に動いています。

家電やスマートフォンだけではなく、今後はジャンルが拡大して、「修理を前提としないブランドは選ばれにくくなる」時代になってくると考えられます。

もう少し欧州で見たことをお伝えできればと思います。

とくに、修理の文化づくりやビジネスモデルづくりとしても最先端の取り組みが集まっているアムステルダムについてご紹介します。

街に修理文化が根付くアムステルダム

訪れたオランダ・アムステルダムでは、市民に対して修理は40パーセント割引のインセンティブが設計をされていました。(一定の条件はあり)

街を歩いていても、服の修理をするお店をたくさん見かけました。

小さいアパレルショップは、リペアカウンターが併設されているケースも多かったです。

修理文化を普及するリペアカフェ

アムステルダム発祥の取り組みとして、リペアカフェがあります。

リペアカフェは月一回開催され、電化製品、衣類、家具、おもちゃ、自転車など修理したい製品を持ち込むと、直す知識や技術、道具を持った地域住民が無償で修理を施してくれる。それだけではなく、修理に関する勉強会なども行う。地域のなかでリペアカフェを始めたいと思った人たちが自発的に始める仕組みも特徴だ。

オランダ発のリペアカフェに学ぶサーキュラーエコノミーの要、「修理」文化促進のヒント

地域の公共スペースや空き店舗などを活用して、修理のために地域住民らを結ぶリアルなコミュニティが構築されています。この取り組みはヨーロッパ全体に広がっているようです。

ファッション業界の廃棄を減らす取り組み:United Repair Center

ブランドとしての代表的な取り組みの一つが、United Repair Centerです。

United Repair Centerは、パタゴニアがオランダにオープンしたユニークな修理センターです。
このセンターは、衣類の廃棄物を削減するために、衣類の修理と衣類の修理方法のトレーニングを行っています。

面白いのが、このセンターではパタゴニアの衣類だけでなく、参加を同意した他のブランドの衣類も修理していることです。また、衣類の修理方法を学ぶためのトレーニングプログラムも提供しています。

ファッション業界全体の動きを、廃棄を少なくする、修理を前提にするものに変える動きであることがわかります。

修理も含めたカスタマージャーニーを描くこと

パタゴニアは、修理を前提としたカスタマージャーニー(顧客体験)が設計されいます。

パタゴニアの体験設計に関するピンポイントで参考になる論文がありました。

引用元:購入後のカスタマージャーニーをデザインする
― パタゴニアのサーキュラーエコノミーへの取組み ―
岩嵜 博論

日本でもメルカリを中心に2次流通のマーケットは拡大しています。

ブランドは、購入"後"のブランド体験やビジネスモデルをどのように設計するか?
がさらに求められてくるはずです。

マーケティングに関わる人は、カスタマージャーニーマップを後ろから考える意識をもっておけると、時代にあった発想もしやすくなるのではないでしょうか。
1. 環境負荷をかけない素材選定
2. 修理しやすい商品と体験設計

この2つはマーケティングに関わる人の基本リテラシーとして位置付けられてくると考えています。

ブランドの価値観として購入後の振る舞い方を考えること

最近は業績悪化とTOBでネガティブに語られることが多いスノーピークですが、「永久保証」の考え方とブランドとしての姿勢の伝え方は素晴らしいと感じています。

日本ブランドは、修理や長く使うことの美学を確立できると世界で優位性も発揮できるはずです。

私自身も、マーケティングに関わる人間として、修理(購買の後)を機能的に対応するだけでなく、ブランドの価値観と合わせて伝えていく発想を大切にしていきたいと思っています。