2030年の未来を予測する最善の方法は、それを自分でつくってしまうことだ
SDGsや脱炭素の実現に向けて、世界中が2030年を目標に大きな方向転換を始めている。この先、2030年の社会はどうなっているだろうか。「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」とは、いまのパソコンの原型を考えたアランケイの有名な言葉だ。私たちは2030年をただ予測するだけではなく、自分たちでつくってしまうことはできないだろうか。
2030年の未来予測
2030年はどんな未来か?という次の記事は、とても面白い。この記事は、予測する。デジタルな分身である「もうひとりの自分」が活躍する時代となる。それと同時に、新しい資源を使わず廃棄物を出さない「循環経済」への転換が起こる。そして、そのような循環経済を促進するであろう「見えないお金」が、社会や経済を一変させる。このような時代になると、人は20歳で身につけた知識で一生仕事をしていくことは難しくなる。だからこそ、「一生、新しいスキルを学び続けられる」人材を育てる仕組みが必要になる。このような未来を私たちは目に浮かべることができる。
未来シナリオはたんなる予測ではない
前述のような未来の世界をつねに人々は描いてきた。そういう私自身も、10年前、2011年の東日本大地震の直後にさまざまな人たちと、いくつもの未来シナリオをつくっていた。そのシナリオの多くが、「2020年の社会」を描くものだった。震災の影響もあり、当時のシナリオの多くは「助け合うコミュニティの再創造」を謳ったものになった。そこには未来予測を超えた、私たち日本人の願いがこめられていたと思う。
そしていま、その2020年が過ぎて私たちは、どんな未来を生きているだろうか。2011年の頃の願いは達成されているだろうか。10年前には想像もしていなかった、「SDGsによる持続可能性への経済の大転換」や「コロナ禍によるリモートワークへのシフト」も重なり、部分的かもしれないが、変化は確実に起きている。私たちは「経済成長から持続可能性へ」とマインドを変え、「企業中心からコミュニティ中心」へとワークスタイルを変えてきた。これは、震災直後に願った「助け合うコミュニティの再創造」へとつながるものである。
しかし一方で、コロナ禍がはやくおさまり、あえて言えば「震災前の経済成長の時代に逆戻りしたい」と思っている経営者や政治家は多いだろう。それは長い間、「経済成長率を社会システムの評価指標」としてきたため、それ以外の物差しを持ち合わせていないからである。
このような変化の時代に、未来の「変化の先の社会」を解像度高く見せていこうというアプローチが「未来シナリオ」である。未来シナリオは、それを作った人、読んだ人に新しい可能性を示し、視野を広げることができる。そして重要な変化の原動力をストーリーとして理解し、その兆候が現れたらいつでも行動に移せるように準備する。未来シナリオが頭に入ると、感度が高まり、入ってくる情報が変わり、そして自ずと行動が変わってくる。あなたのチーム、組織、地域の仲間と一緒に未来シナリオをつくることで、変化を生み出す組織をつくりあげて行くことができる。
科学技術イノベーションを牽引する未来シナリオというアプローチ
私は最近、沖縄や北海道の研究拠点で、「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」のビジョンづくりに関わっている。COI-NEXTは文科省の肝入りプロジェクトで、かなり大きな予算をつけて国際的なイノベーション拠点を育てるものだ。
日本の科学技術政策が「共創の場」に注目しているところが、なんといっても素晴らしいところだ。私が関わる拠点は、いずれも「カーボンゼロで食とエネルギーの自律的な地域をつくる」ための研究をしているが、ただ技術によってカーボンゼロを実現するだけでは、世界は変えられないという共通認識がある。地域のステークホルダーたちが高いレベルで合意を形成し、自らの地域を持続可能にしていく意志を持つ必要がある。
だからこそ、「共創の場」では多様な企業、地域のステークホルダーが招かれ、「カーボンニュートラルのその先の地域の姿」の未来シナリオをともに描いている。
未来づくりへの市民参加
このような科学技術イノベーションが、市民参加を前提とし始めていることは、とても大きな可能性を持つ。今までの市民参加は、行政が現状のステークホルダーに気を遣って描いた「それなりの未来」の実現に協力することに留まっていた。行政は、イノベーションを前提とした「ありえない未来」を目標には掲げられないからだ。
それに対して、研究者は夢を掲げる専門職だ。市民が研究者の描く夢を共有し、市民の夢もそこにのせて、「振り切った未来」を描く。そこに行政がステークホルダーの一つとして参加することで、行政職員も夢を語れるようになる。
イノベーションは誰か天才が起こしてくれるものではない。市民が自ら参加して、自分たちで「新しい未来」を選ぶことによって、実現するのだ。
研究者は市民の参加を待っている。2030年の未来を予測する最善の方法は、それを自分たちでつくってしまうことだからた。