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W杯から学ぶ経営学:世界中のどこからでもジャイアント・キリングが狙える

大番狂わせが多発した今大会

2022年を締めくくる世界的なスポーツイベントであるFIFAワールドカップでは数多くのドラマが生まれたが、一際目立ったのが強豪国が格下に負けるジャイアントキリングだ。その最たる例は何と言っても日本だろう。グループステージでは、ドイツを下し、スペインまで倒してグループ1位で勝ち抜けた。

日本だけではない。優勝国のアルゼンチンに唯一の黒星をつけたのはサウジアラビアだ。韓国はポルトガルを下し、カメルーンもブラジルに勝利を収めている。ジャイアントキリングで今大会、最も存在感を発揮したのはモロッコだ。グループステージではベルギーに勝利し、その後、スペイン、ポルトガルとイベリア半島の強国を倒して、アフリカ勢初の準決勝進出を果たした。

日経新聞の記事にもあるように、フットボールというと欧州と南米が圧倒的な強さを誇っていた。しかし、今大会ではアジア勢にアフリカ勢の活躍が目立った。決勝のラウンド16まで進んだ国のうち、7カ国は欧州・南米以外の地域だった。

東京五輪でも似たような現象があったが、今やインターネットのおかげで世界トップレベルのプレーやトレーニング方法がどの国にいても学ぶことができるようになっている。そこに、アジアとアフリカ圏の経済的な影響力の増大と、国内クラブの組織強化による選手の質の向上が合わさった。特に、中東のオイルマネーを背景にした国内クラブの投資は目を見張るものがある。
カタールがスポーツビジネスをイノベーション戦略の軸としているように、イノベーションも一昔前の様に米国と中国に一極集中しているような状況から変わってきている。例えば、ユニコーン企業は今や世界のどの国から出てきてもおかしくない状況だ。

2022年に新たにユニコーンとなった企業を持つ国は33カ国

2022年にユニコーン企業としてリスト入りした企業をみてみると237社ある。数でいうと半数以上を米国が占めて圧倒的だが、国の数は33カ国に及ぶ。コロンビア、クロアチア、エクアドルなど、イノベーションやユニコーン企業のイメージから遠い国からも出ている。驚くべきなのは、セーシェルからも1企業あることだ。セーシェルは、東アフリカ沖のインド洋に浮かぶ 115 の島からなる諸島で人口は10万人にも満たない。

米国と中国、インドを除いた国のユニコーン企業の特徴を観てみると、業種で特に多いのが「フィンテック」、次に「インターネットソフトウェア&サービス」、「サプライチェーン・物流および宅配」、「イーコマース&DtoC」と続く。
これらのユニコーン企業が世界中から出てきた理由もサッカーと似ている。インターネットによって最先端のテクノロジーについて学ぶことがどこにいても出来、尚且つ、世界的なスタートアップ支援の体制が出来上がる中で場所の制約がなくなってきた。スタートアップの盛んな米国や中国ではなく、大企業でもないからこそ、特定の技術に集中することができて優位性を発揮できるケースもある。代表例は機械翻訳だろう。機械翻訳は、長年、世界中で研究開発がなされてきた領域だ。しかし、破壊的なイノベーションを起こしたのはドイツのケルンに本拠地を置くDeeplだ。ドイツのスタートアップの中心がベルリンであることを考えると、ケルンからDeeplが生まれたのは日本だと福岡からユニコーン企業が出てきたようなものだろう。
また、グローバル化によってスタートアップでも多国籍の事業展開をするハードルが下がっている。米国や中国、インドの様に巨大で尚且つ成長している国内市場を持つ国ではないかぎり、ユニコーン企業にまで成長するにはグローバル市場を見据えてビジネスモデルを作っていく必要がある。例えば、2022年にユニコーン企業のリスト入りした日本の「Opn」は、創業の地がタイで、東南アジアで主に事業展開している。現在は本社を日本に置いているが、「グローバルビジネスの一つの展開として日本にも進出している」というスタンスをとっている。

世界中どこからでもジャイアント・キリングが狙える時代

日本もかつては国内市場だけで大企業にまで事業を成長させることができたし、そこから世界展開してグローバル企業となったケースも多い。しかし、人口減少と縮小し続けている国内市場の中で、新たなスタートアップが国内から海外へというルートで成功を収めることが難しくなっている。特に、ユニコーン企業と呼ばれるような、急速に成長し、イノベーションを起こすようなスタートアップを生み出すのは難しい。
経営学の分野では、創業時からグローバル市場を目指して事業活動を行うスタートアップのことを「Born Global Firm」と呼び、メジャーな研究領域となっている。最先端のテクノロジーを学び、テクノロジーを活かしてビジネスモデルを作り、スタートアップの段階から世界市場で事業展開することで、今や世界中からユニコーン企業が生まれている時代だ。
私たちはよく「日本は失敗に不寛容だからイノベーションが生まれない」というように社会構造を原因としてユニコーン企業や世界的なイノベーションが出てこない現状について語りがちだ。しかし、世界中からユニコーン企業が生まれ、イノベーションが起きている現状を鑑みると社会構造に原因を求めるのは違うようにも思われる。「どこからでも世界的なイノベーションは生まれるのだ」という認識を持って、行動する個人が増えることが大切なことだと言えるだろう。

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