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適材適所と適所適材の両立。

良い会社とはなんだろうか。そんな問いへの答えを探していた時、ふと「適材適所」という言葉が頭に浮かんだ。「その人の能力・性質によくあてはまる地位や任務を与えること」という意味だ。「適材適所」の状態であれば、それぞれの人材は自分の能力を存分に発揮して、成果を上げ、モチベーション高く仕事ができると思う。でも、従業員全員の「適材適所」を実現することは意外と難しいのではないだろうか。

理由は色々ある。まず、それぞれの人材の持つ能力は見える化できているだろうか。どんな組織にこれまで属してきたかの履歴はもちろんある。でも、それぞれの組織で、どんな能力を使ってどんな価値を生み出したかは、なかなかまとまっていないのが現状だろう。そこで各人材の能力は、どうしても上司や人事部のもつ感覚に頼った形で認識されているのだ。これだと限界があるのは当然だ。最近では業務の詳細をデジタル化して記録する、様々な経験や学習の履歴をデータベース化するなど、各人材のカルテも充実しつつあるが、任務と能力の紐付けは今後の課題と言わざる得ないと感じている。

また、仮にある程度の能力の見える化や任務との紐付けができていたとしても、会社が遂行させたい任務は限られるため、全ての人材にそれぞれの能力にぴったりとあてはまる任務を与えることはできない。どうしても適所(決まった任務)に、それができる人材をあてはめるということになるのだ。本来なら、それぞれの適所に、最も適した人材を選択する「適所適材」を実現させたいはずだ。でも、「適所適材」を突き詰めると、社内では最適な人材が見つからないケースやどこにも登用されない人材が発生してしまうことになる。

逆に、「適材適所」、つまりそれぞれの人材の能力を最も活かせる適所(任務)を突き詰めると、自社の中に適所が見つからないケースが生まれる。コングロマリットなど様々な業態で構成される企業であれば、自らのグループ内で「適材適所」に近づけることは可能だとは思うが、多くの企業では難しいと言わざる得ない。結局のところ、多くの会社で「適所適材」も「適材適所」も達成できず、中途半端な状況が生まれているのではないだろうか。これでは会社も従業員も最高の生産性を達成することはできない。

では、真の良い会社になるためにはどうしたら良いのだろうか。「適所適材」と「適材適所」の両立だと思う。実現には2つのポイントが重要だと考える。人材の流動化と人的資本の創造だ。前者は自社内にその人材にあった適所がないのであれば、適所のある企業で働ける選択肢を渡すという意味だ。これは、常にどの企業にどんな能力を必要としている適所(任務)があるかを見える化しておくことで実現できる。これには普段から自社とは異なる能力を必要とする企業と、グループ化までは行かなくとも、密な交流をしておくことが重要だと考えている。

後者は、それぞれの人材の能力を伸ばして、今後会社に加えていきたい任務に合う人材へと仕立てていくことだ。もちろん、向上させる能力は強制的に与えるのではなく、魅力的な選択肢から選んでもらう。より付加価値の高い任務を遂行できるようになる機会を持ってもらうのだ。この場合、能力向上の達成に先回りする形で、やりがいのある仕事を準備しておくことが大事になる。こうしておくことで、それぞれの人材は、会社の意図している能力向上の姿に向かって自律的に進んでくれる可能性が高まるのだ。

どちらの場合においても、会社自体が広い視野を持つことが不可欠だ。これから創造したい新たな付加価値をどのように組み立てていくか。それにはどんなタイミングでどんな人材が必要か。時間軸を意識した戦略が必要になる。また、自社に閉じずに、緩やかに連携できる企業との対話を続けておくことも大事だ。自社の生み出す付加価値に、そうした企業の持つ付加価値を足すことで、より大きな付加価値に仕立てて、社会に届けるといった観点だ。これがあると、様々な企業との密度の濃い関係性が生み出せる。

人的資本を創るという取り組みが様々な企業で始まっている。経営戦略と一体化した取り組みもあるようだ。従業員という人材を主語にした人的資本の自律的な強化の取り組みはもちろんだが、会社を主語にした取り組みも不可欠だ。パーパスをしっかりと持ち、従業員に会社の意思を伝えると共に、自社とは異なる能力を持つ様々な企業を惹きつける。そうすることで、会社、従業員、緩やかに連携する企業群の中での「適所適材」と「適材適所」の両立が実現できると考えている。

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