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正社員は死語になる!? 法改正とコロナショックはジョブ型雇用を加速させるか

こんにちは、電脳コラムニストの村上です。

今回の日経新聞連動テーマ企画は「 #どう変わる正社員 」。コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により、在宅勤務や時差通勤など会社勤めをする人々の働き方に変化が訪れています。近年脚光をあびていた副業やフリーランスですが、イベント自粛などのあおりを受けて収入が減少してしまうようなケースも多くみられるようです。

このような情勢になると強力な解雇規制に守られた正社員という立場が見直される機運は出てくるでしょう。しかし、10年20年という長い目で見れば、終身雇用は崩壊し、新卒一括採用もゆるやかに通年採用となり、総合職からジョブ型採用へと着々と変化していきます。その中で解雇規制に関しても、徐々に実態に合わせた形へと調整がなされていくと思われます。

大企業においても、新たな会社と個人との関係を模索する動きが出てきています。健康機器大手のタニタが始めた働き方改革は、社員の個人事業主化を支援するという踏み込んだ施策が話題になりました。一方で、偽装請負ではないか、規制逃れではないのかという意見も。そのような疑問を受けて、社長が以下のインタビューに応じています。

「報酬の決め方については我々も苦慮しました。欧米企業であれば、職務の内容や範囲があらかじめきっちりと定義されていて、その職務の対価はいくらだという『社内相場』があるのが一般的です。入社10年目の社員であろうと、15年目の社員であろうと、フリーランスであろうと、同じ業務を行うのであれば同じ対価となります」

「しかし、多くの日本企業と同様に、当社はこれまで給与は基本的に年功序列型でした。つまり一つ一つの業務について、社内相場がなかったのです。ところが今回、業務委託をするにあたって、値付けが必要になった。社内相場がない現状では、最初の報酬額を設定する段階で前年度の給与・賞与をベースとするのが一番妥当だろういうだけのことで、『労働に対する対価』だとは考えていません」

これは非常に興味深い指摘です。まさに、日本型(メンバーシップ型)雇用と欧米型(ジョブ型)雇用の違いを表しています。

「制度導入をきっかけに、一つ一つの業務に値付けが行われることになり、社内でコスト意識が高まったのは良かったと思います。実はそれも狙いの一つでした。例えば、これまでは普段やっている仕事以外に業務が発生した場合、コストを意識せずに頼むことができましたが、フリーランスに『仕事』として発注するようになれば、その仕事の対価はいくらなのか、意識するようになります」

日本の生産性が低いと言われるのは、社内業務の値付けが不明確なため、コストの高い社員をより利益の生み出す事業に再配置できないことも大きな理由ではないかと思います。同様に生産性向上が見込まれるツール、例えば自動化ツールなどを導入検討するときも、値付けがなければ比較ができません。結果として、なんとなく今いる人が運用でカバーするようなことになるのではないでしょうか。ツールの導入には見積もりという形で金額が見えます。もちろん今いる人にも費用がかかっているはずですが、現場で見えていないため「限りなくタダに」感じているのではないでしょうか。

この問題は、今後より大きな議論になると予想しています。来月4月から大企業で改正パートタイム労働法(いわゆる同一労働同一賃金)が施行されることから、非正規雇用の待遇改善につながるように思えます。しかし、構造はそれほど単純ではなさそうです。

注目されるのが、1998年に発表された菅野和夫東大教授・諏訪康雄法政大教授(肩書は当時)の論文だ。正社員と非正社員の賃金格差の論拠として挙げられる同一労働同一賃金は、職種による産業横断的な賃金決定をするという社会基盤を前提として成立するものであり、そうした社会基盤がない日本には当てはまらないと論じる内容だ。

日本の正社員は、特定の職種に従事するために採用されるのではない。また基本給は従事する職種に関係ない年功型だし、特定の職種に能力がなくても即解雇にはつながらない。つまり日本型雇用システムは職種に関係のない非ジョブ型であり、採用も賃金も雇用の継続も職種を基本とするジョブ型社会の欧州とは根本的に異なるのだ。

職種に社内外を横断した値付け(相場)があるかどうかがキーポイントです。現在これがないのは、正社員になる道が新卒一括採用に集中しており、その後は各社の人事制度の中で処遇が決まることが主な原因です。また、中途採用においても前職給与をベースに交渉が始まることが多く、転職しようとしてもうまくフィットしない(逆にそれが低い離職率にあらわれている)と思います。先の記事でも、ここが真の問題であると指摘しています。

正社員になるルートが学卒時に集中しており、非正社員になると後から正社員を選択するのが極めて難しいことだ。若年期に良好な教育機会に恵まれない影響はその後の職業人生にも及び、正社員への道が遠くなり、貧困問題にもつながる。低技能の非正社員が増えることは国力低下ももたらす。これらが格差の持つ真の問題だ。ただその主たる原因が中途で正社員になる機会の少なさにある以上、その解決方法は雇用の流動化であるべきだ。遅々として進まない解雇の金銭解決の早期導入こそ検討されるべきだろう。

おそらく今後数年で劇的に変化することはないでしょうが、確実にジョブ型へ、そして雇用の流動化が進んでいくでしょう。また、特に不足するデジタル人材については複数の企業の仕事をするために独立したり副業をする人々も増え、企業内でもそのようなフリーランスとプロジェクトで一緒になる機会が増えるでしょう。

それらの結果、正社員という言葉は徐々に死語となり、特定の職種に従事する「ジョブ型職員」となっていくでしょう。

そういえば、職員というと官公庁の公務員を指すことが多いですが、どうしてなのでしょうね。国や自治体全体が会社だとすると、各省庁の役割が明確だからでしょうか。もしご存じの方がいらっしゃれば、ぜひコメント欄に書きこんでいただけたら幸いです!

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タイトル画像提供:xiangtao / PIXTA(ピクスタ)

#COMEMO #NIKKEI


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