「人も予算も権限もない」デジタルトランスフォーメーション(DX)が、世の中に溢れている理由
ここ数年、日本でも数多くの大手企業がDX推進部門を新たに立ち上げてきました。
しかし、デジタル変革の司令塔となるはずの組織が、実際には、
・現場で、デジタルの重要性が理解されない
・経営陣には、そもそもデジタルへの理解がない
・経営陣は理解していても、ミドルマネジメントが理解していない
・トップは旗振りだけで、具体的な実行イメージが統一されていない
といった課題を抱えていると、以下の記事は指摘しています。
覆面座談会でDX担当者が語る「人も予算も権限もない」実態(2020年3月26日、日経ビジネス)
DXは喫緊の経営課題であるはずなのに、遅々として進まない事態が、なぜ発生してしまうのか、その理由を考察してみました。
① 危機感が足りない
1990年代から我々の生活は、徐々にデジタルフォーマットへと転換されてきています。
音楽の分野では、レコードがCDになり、CDがオンライン配信へと移行していきました。同様にレンタルビデオは、オンデマンド配信形式サービスに駆逐されています。
現代はあらゆる領域で、デジタル技術がますます生活に影響を与えるようになっています。
スマートフォンアプリを用いたサービス提供が可能になったことで、車の所有がカーシェア、ライドシェアサービスへと移行してきています。
BtoBの業界でも、受託型のソフトウェアはSaaSへと移行が進んでいます。米国では自社でシステム開発を独自で行う流れは衰え、いかにSaaSを活用して業務を組み立てるかが勝負になっていると聞きます。
ネットワークへ接続され、デジタル技術が発展を続ける影響は、自社の製品やサービスの在り方やビジネスモデルなど経営の根幹を揺るがし始めています。
それを経営として変革を迫るものとして捉えるのか、または多少取り込んで活用すれば良い程度と捉えるかで、取り組みへの温度感は大きく変わってくるはずです。
自動ブレーキ技術が事故を減らすことで、すでに自動車保険産業の存在意義に脅威を与えています。デジタル技術によって危機が顕在化している企業は、機敏に対応を始めています。
ただし、まだ影響が明らかに見えていない既存企業においても、自社への影響を過小評価するべきではないです。
デジタル技術活用を代表するGAFAなどの新企業は、既存産業に進出し、シェアを奪取する力を付けてきています。アマゾンは、全産業の変革を志していることを、隠すことなく公表しています。
市場や技術の変化を適切に捉え、危機感を持ってDXに取り組むべきです。
② 何をやるのか目的が不明確
DXへの取り組みの目的は、経営の根幹を揺るがす事業転換への挑戦です。
しかし、既存事業の効率化のためのデジタル活用に終始する取り組みが散見されます。
・RPAによって業務効率化を行う
・顧客情報を統合し、AI活用を推進する
・マーケティング活動の予算をデジタルチャネルによる割り振る
・既存店舗のサービスをデジタルチャネルでも提供する
マイクロソフト社は、デジタルトランスフォーメーションの対象を、「お客様とつながる」、「社員にパワーを」、「業務を最適化」、「製品を変革」4つの変革に分類しています。
デジタルトランスフォーメーションの衝撃(2016年10月11日、マイクロソフト社)
各対象には取り組み優先順位ががあります。
最大の論点は、生き残りを掛けた提供価値に関わる「製品の変革」と「お客様とつながる」になります。
そもそも、古い製品を前提とした業務効率化や組織の活性化を行っても、長期的に見れば焼け石に水に過ぎません。
デジタル化の流れを捉え、自社の製品を在り方、顧客との関わり方の変革に着手することが何よりも優先されます。
またここでの議論は、企業の製品やサービス提供において、全てをデジタル化するということではありません。既存サービスがデジタル技術と融合していくことを前提としています。
③ 重点の移動に伴う組織再編への無理解
デジタルサービスは顧客とのより長く深くつながることを可能にします。
その結果、売り切り型のビジネスモデルから継続改善を前提としたサービスへの転換が求められます。
そのため、これまで以上に実際の継続利用を促進する必要性が増し、使い勝手や使い心地などのユーザエクスペリエンス(UX)の重要性が高まります。
そして、営業が売上をもたらす組織から、サービスの改善が売上をもたらす組織へと移行しなければなりません。
追うべき指標が変わり、サービスの強化を推進する新たな組織体制を構築しなければなりません。しかし、こういったデジタルネイティブ企業では当然具備している常識的な環境が、既存企業には存在しません。
「製品の変革」が見えてくるまで、組織論は不要かもしれませんが、経営陣やDXを推進する担当者は、組織の在り方もまた変革を求められることを理解しておく必要があります。
以上3つの理由により、現行のDX推進は骨抜きになっています。
自社に足りない観点を明らかにし、適切に対応しながら取り組みを加速させていきたいところです。
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