「応援消費」は根付いてはいけない。

ここ数ヶ月、ずっと『さいたま国際芸術祭』について書き続けてきましたが、
3年掛けて準備してきた『さいたま国際芸術祭』が終わると、今度は緊急事態宣言下で取り組んだ「ミニシアター・エイド基金」などのとりくみから、新しい支援の形を既存のクラウドファンディングMOTIONGALLERYとは別に必要なのではと思い「BASIC」を立ち上げたりしてまして、完全に機を逸してしまいましたが、

1週間前の記事をもとに、少し「応援消費」について思っていることを書いてみます。

物語性という新しい地平

新型コロナウイルスを機に、困っている店や人らを支える応援消費が一気に広がった。誰かの役に立てている、がんばっている人を支えている。そんな実感が買い物の充足感を高める。応援は一過性のものではなく、作り手の思いに共感し購入する「ストーリー消費」へとつながっている。

日経MJにて、「応援消費」の記事が出ていました。
いま、作り手の思いに共感し購入するかたちが広がっていて、そして特にコロナ禍でそれがさらなる拡大を見せているとのことだった。

その応援消費の舞台がクラウドファンディングとなることがおおいということで、記事では、「劇団四季」や「カメラを止めるな」などMOTIONGALLERYで行なわれたプロジェクトも御紹介いただいていた。嬉しい!ありがとうございます!

ここ日経COMEMOでも、「応援消費は根付くのか ~社会を動かすお金の使い方とは〜」と題してトークイベントが行なわれるなど、このトレンドをフックアップしていただいている感じ!MOTIONGALLERYというクラウドファンディングを運営するぼくにとってはとっても有り難い。

商品スペックの競争が市場の拡大と趨勢を決めていた時代から、
もはや数値で示せるスペックではなく、ローカルからクラウドまでの体験でのUIUXの優劣が、全てを左右する時代へと突入したゼロ年代。

そして、もしかしたら、クローンされるスピードが早くなったり、サプライチェーンのプレイヤーがGAFAMなどで寡占されたが故にUIUXが一定程度均質化してきたかもしれない20年代は、生産から消費までにまとう物語にファンがつき、それが購買決定要因になるという時代になるかもしれない・・・!

そして、2億円をあつめた劇団四季のクラウドファンディングはまさにそんな応援が沢山集まった事例なのは間違いないと思います。

「消費」は行き詰まる

しかし・・・・!
じつはこの「応援消費」という言葉にクラウドファンディングが当てはめられることに実は全然納得行っていません(笑)。むしろクラウドファンディングは「応援消費」の先を行く概念が背骨にあるし、そう思ってMOTIONGALLERYをやっているんだという気概をお伝えしたくてこのエントリーを書きました。

ちなみに「応援消費」自体には至極妥当な背景があるとおもっていて、上場したMAKUAKEさんが、自分たちのサービスを「クラウドファンディング」ではなく「応援購入サイト」であると再定義したことからも来ているんだろうとおもいますし、実際、MAKUAKEさんは実質ECサイトにシフトして業績を拡大されているので、御自身の定義を「応援購入サイト」とされることは慧眼だと思いますし、言行一致でとてもよい事だと思います。

そういう経緯もあって、一般的には、クラウドファンディングは応援購入・応援消費の場所であると混同されてしまうのは致し方ないかなとも思うのですが、ひとつ明確に言わせていただけるなら、クラウドファンディングは「応援消費」の場所であるどころか、むしろその逆の「消費」へのカウンターから生まれた仕組みであるという事なのです。

くわしくは、アルビン・トフラー 『第三の波』という書籍をぜひお薦めしたいのですが(表紙がなんとも言えない味を出していますね。人文系の本とはおもえないメタル感。)、

第一の波は農業革命、第二の波は産業革命、が起きて、大量生産大量消費社会が勃興したが、20〜30年後にはその社会は終わりを迎え、第三の波として情報革命が起きることで、社会の在り方がおおきく変わって来るよ!

という未来予測をなんと1980年代に書籍にした名著なのです。
まじで鳥肌もんのバシバシ当たっている予測ばかりが詰まった本。
もちろん、預言ではなくて、科学的見地からの予測なのでとてもエキサイティングな本なのです。

そして、そこで言われていた未来予測の主眼は2000年以降に起こる「消費」の終焉でした。
産業革命で大量生産大量消費社会が勃興したが、情報革命が起きること「消費」社会は終焉する、もしくはしなければならないという事が書かれていました。

情報の接点が拡大しすると「マス」が存在しづらくなりマスメディアによる一方向のコミュニケーションでの消費喚起が効かななくなるし、個人が摂取する情報量が増えるので、大量生産前提のレディーメイドな製品がニーズにも合わなくなってくる。その上、環境問題も深刻化してくるのでサステナビリティも求められる様になる。結果、大量生産された商品を消費するのではなく、「自分が欲しいものは自分でつくる!」というようなDIY精神が勃興してくるはずである(だからコミュニティ内に閉じて流通するビットコインみたいものや物々交換経済圏などが生まれてくるみたいなことも言ってます)、ざっくり言うとそんな論でした。それをトフラーは「消費生産者=プロシューマー」という概念て提唱するのですが、見事にその片鱗を見せつつある動きがところどころ社会に生まれてきているように感じます。

そう、クラウドファンディングがまさにプロシューマーの舞台そのものだと思うのです。

ちなみにこの概念をアップデートして書かれた本が、『FREE』で一世を風靡したクリス・アンダーソンの『MAKERS』だったりします。

この『MAKERS』で、かなりの章を割いてクラウドファンディングについて言及されていることも必然だと思います。

考えるべきは、如何に「消費」から「表現」にシフトするか

消費偏重だと経済も行き詰まるし、地球環境を考えても循環型社会にシフトしなくては行けない。そう、消費者と生産者が分離することで成立していた社会から、消費と生産を同一人格が行なう、もっというと医食同源ではないですが「お金を使う」行為が消費だけではなく次の生産・創造にも同時につながるような「消費生産者=プロシューマー」にみんなで転換していき、持続的成長を実現するクリエイティブな社会にして行こう!そんなことを、実はアルビン・トフラーだけではなく、ドイツの現代アーティストであるヨーゼフ・ボイスも生前に「社会彫刻」という概念で提唱していました。

コンビニやスーパーで商品を選択する基準を、値段やCMだけでなく、ある人は地球環境だったり、ある人はクリエイションだったりというそれぞれの基準で選択することで、購入を「消費」ではなく「表現」と捉える。そうやってみんながお金の使うことで「表現」をする社会にしていくことで、もっとコンシャスでクリエイティブな社会にしていこう、そんな「社会彫刻」という概念。それはまさにクラウドファンディングの存在意義そのものだと想います。

もちろん応援や共感がそこにあり、お金を投じて、新しい挑戦をしている起案者さんにお金を届けるのですが、それは消費ではなく未来への社会投資という気持ちが大きいはず。実はMOTIONGALLERYのAboutページでも、われわれのパーパスを表明したく、なぜこのクラウドファンディングを2011年に創立したかという想いも籠めて書かせて頂いています。

MOTION GALLERY が大切にしていること。
それは、現代芸術家ヨーゼフ・ボイスが提唱したビジョンである『社会彫刻』の概念の実現です。

MOTION GALLERY はクラウドファンディング黎明期であった 2011 年に誕生し、これまで映画、音楽、舞台をはじめとするアートから、まちづくりや場所づくりなど地域に向けた活動まで、様々なプロジェクトを応援してきました。

ひとりが勇気を持って立ち上げたプロジェクトに、誰かが共感し、支援する。クラウドファンディングに集まる支援は、単なる消費活動の結果ではありません。今より創造的な社会を一緒に実現するために託した想いであり、応援される人も応援する人もみな等しく、これからの未来をつくる“クリエイター“なのだと言うことができます。

クラウドファンディングを立ち上げることは、とても勇気のいることです。私たちはこれからも、プロジェクトひとつひとつが秘めている可能性を丁寧にすくい上げ、実現に向けて並走し、形にしていきます。何よりも、ひとりの思いや活動が社会をより良い場所へ変えていくことを、MOTION GALLERY は信じています。

みんなの思いや活動を形にし、創造的な社会を作り上げる活動全てがアートであるという芸術家ヨーゼフ・ボイスのビジョン「人間は誰でも芸術家である。」を具体化する場所。それが MOTION GALLERY です。

SDGsでもありパーマカルチャーでもある

もちろん、まだまだクラウドファンディングが、社会一般的に「プロシューマーの場所だよね」「社会彫刻してるよね!」みたいに思われていることなんてないですし(笑)、その道程はまだまだこれからだと思います。今日本でも沢山あるクラウドファンディング・プラットフォームで行なわれている有象無象のプロジェクトの多くは確かに「消費」というOSの上で動いているプロジェクトなのかも知れません。

なので、現時点でのファクトとしては、多くの人にとってクラウドファンディングは応援消費の場所なのかも知れない。だけど、クラウドファンディングの持っているポテンシャルはそんなもんでは無いんだ!むしろ消費のその先の未来を引きよせる凄い仕組みなんだ!と改めてお伝えしたい!と思いますし、日経さんにも是非こんどは「応援消費のその先へ!」見たいな特集を組んで頂きたいなとそんな風に勝手に思っています(笑)。

この胎動が、単に消費という古いOSに「物語性」を纏わせる事で旧態然とした社会の形を保つだけに終わるのではなく、SDGsを達成する大きなパラダイムシフトにも絶対なるはずの「消費生産者=プロシューマー」という新しいOSの拡大のためにみんなで使い倒すものに、クラウドファンディングが位置づけられるようにしたい。

ちょっと小難しい感じになっちゃいましたが、もちろん、クラウドファンディングは小難しいもんではなくて「こんなのクラウドファンディングじゃないよ。」みたいな狭量な定義がされるべきでもないのです。おつたえしたいことは、むしろもっともっと大きく広いポテンシャルを持っているのがクラウドファンディングなんだということ。百人十色、いろんなクラウドファンディングがあるといい!そしてそれぞれがクラウドファンディングが持っているポテンシャルを最大限発揮できると社会がもっともっと豊かになるうねりを起こせるんだという、その「Power to the People」な感じをおつたえできれば嬉しいです。

2021年、コロナによって持続的社会への変革が急務になっていく年、さらにクラウドファンディングで社会に役に立てるように頑張って行きたいです。

来年もよろしくお願いいたします!

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大高健志@MOTION GALLERY
頂いたサポートは、積み立てた上で「これは社会をより面白い場所にしそう!」と感じたプロジェクトに理由付きでクラウドファンディングさせて頂くつもりです!