横浜IRが潰えて、大阪IRが事業者決定・実現に向けて進む
少し前ですが、横浜市長選があり横浜にIR(統合型リゾート)誘致に反対派の新市長が誕生し、横浜IR計画は白紙となった。
そして、一昨日、9月28日、横浜IRと対照的に大阪IRが動き出し始めた模様。事業者が選定されました。
同じくIR誘致を目指している和歌山も、本日(9月30日)米国のカジノ大手「シーザーズ・エンターテインメント」がコンソーシアム(共同事業体)に加わった模様。
https://mainichi.jp/articles/20210930/k00/00m/040/126000c
実はカジノは全体の3%以下
私は神奈川出身ですので、その立場からいえば、横浜IRがついえたのは、残念でした。カジノとかギャンブル依存が問題視されましたが、統合型リゾートは、「IR整備法」という法律に従って進められることになっています。
この法律では、統合型リゾート全体の総床面積の3%以下でしかカジノは認められておりません。また、カジノを作らせてあげるから、他の主要施設にしっかり投資してねというのが日本型IRの特徴なので、4つの中核施設をしっかり作らなくてはいけません。そのため、外資にとっては少しハードルが高くなっているようですが、地方創生のためのIR誘致なのだという意志は伝わる内容となっています。
日本型IRの特徴、4つの中核施設とは?
4つの中核施設は、①MICE施設、②宿泊施設、③魅力増進施設、④送客施設です。この中で誰もがピンとすぐわかるのは、②宿泊施設ぐらいではないでしょうか。なので、①と③と④について解説します。
①MICE施設というのは、MICEのための施設ですが、そもそも旅行業界用語です。
JNTO(日本政府観光局)のHPを見ると以下の解説があります。
MICEとは、企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(インセンティブ旅行)(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議 (Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字を使った造語で、これらのビジネスイベントの総称です。JNTOはMICEの日本への誘致に取り組んでおります。
つまり東京ビッグサイトみたいな展示会場とか、大規模な会議施設、ホール施設などのイメージです。この施設があってこそ、MICEが誘致できるというわけです。
③魅力増進施設は、日本の魅力的なコンテンツを発信する施設。例えば、劇場、演芸場、音楽堂、競技場、映画館、博物館、美術館 等です。
④送客施設とは、IRの場所に留まらず、そこに訪れたお客さんたちを日本各地に送り出すためのもの。旅行会社とかがコンシェルジュカウンターなどを設置するかもしれません。47都道府県の見どころや食、お酒などを紹介するようなことをするかもしれません。とにかく、国際学会や大規模な見本市(モーターショーとか、ゲームショーとか)に訪れたお客様たちが、観光でさらに日本各地を訪れるように促進するためのものです。
全体の97%を占める、①~④の施設をしっかりつくって運営するために、カジノも作らせてあげますので、というのが日本型IRとなっています。
世界のIR(統合型リゾート)によく行く機会があった自分が感じた客層
私は大学生のころ、研究者の父にくっついて海外各地で開催される「国際学会」に行く機会が度々あった。いわば上記のMICEである。私にとっては「わーい!タダで海外旅行ができる」という動機だ。
特に欧米はカップル文化のため、日中行われる学会は学者たちだけが出席しているわけだが、毎晩のパーティーは「夫人同伴」が基本である。
私の母は、英語で世界の研究者たちとの社交には全く興味がなかったので、そのかわりに父は、娘を連れていっていたのだ。
日中、旦那さんの研究成果には全く興味のない奥様方には「同伴者向けプログラム」として様々な観光プログラムが用意される。
私がアメリカのディズニーワールドに初めて行ったのは、このプログラムの一環だったため、数10か国のマダムたちと一緒という謎の経験だった。
また1週間程度の国際学会の後は、その国を観光してから自分たちの国に帰国するのが一般的だ。
MICEで世界各国から訪れるのは富裕な客層であり、その方々が各地を旅してくれる効果はかなり大きいだろうと思う。
横浜市民にちゃんと伝わっていただろうか?
上記のようなことがちゃんと伝わったうえで、IRの誘致は横浜市長選の1つの目玉になったのだろうか、というのが私に残る疑問である。
ギャンブル依存症になるリスクというのがよくメディアでも取り上げられたが、実は日本人が、IRの中のカジノ施設に入るには、マイナンバーカードを必携の上(グループで行ったら、全員分の提示が必須)1名あたり6000円の入場料を払わねばならない。また、この6000円は運営会社の収入にはならず地元自治体の歳入になる。
横浜は、人口約400万人に届きそうな、日本の基礎自治体1741の中で、堂々1位の自治体だ。人口は力なり。現状では今後の地域の衰退などは実感として感じにくいと思う。しかし、東京や横浜といえど少子高齢が加速する日本社会では人口減に転じる。
ベッドタウンとして成長してきた経緯もあり、東京の衰退の余波も受ける。そして観光による地方創生が実は実現しにくい地域だ。
東京から電車で2-30分という立地は、宿泊施設の集積地である東京に「滞在者」を吸い取られてしまう。東京に滞在しながら、横浜へは日帰りできて、また夜、東京に帰ってしまう。横浜IRは日帰り観光地になりがちな横浜において、1週間以上の「滞在型観光」による消費・経済波及、雇用創出を必ず生み出すだろう存在であった。
今後は、力強く実現に向かい始めた大阪IRがいずれ実現したら、この事例をみて、IRに対するイメージも変わっていくのかもしれない。