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「働きやすさ」はチームとしての強さに繋がるのか

進む働き方の多様化

日本経済新聞の記事にもあるように、ここ50年で日本企業での働き方はめまぐるしい変化を迎えている。特に、ここ15年の変化は多大なものだ。多様なバックグラウンドを持つ人々が、働きやすい環境を作ろうと制度作りが行われている。

職場における女性社員や外国人材の増加といった目に見える変化もあれば、長時間労働を控えようという動きや男性の育児休暇の取得、ハラスメントの意識など、ソフト面の変化も大きい。一昔前の常識は、現在の非常識だ。宴会で女性社員にビールのお酌をして回らせるということも見なくなった。つい10年前までは、社会人の当たり前のように扱われてきたことは今では非常識だ。

働きやすい職場と個人主義の進行

そのように、働き方の多様化が進む一方で、労働観の個人主義も広がりをみせる。職場でのインフォーマルなコミュニケーションの減少や、テレワークによる在宅勤務の広がりで、チームとしての意識が弱くなる。
また、中途入社者の増加によって、チーム内で企業文化の浸透をすることも難しくなってきた。中途入社者にとって企業文化に染まることに違和感を覚えることは珍しくなく、しかも目の前の業務をこなすことに、企業文化に染まることは関係がない。自分の仕事はやれているのだから、個人の自由意志を行うような文化の押しつけは嫌だと感じてしまう。特に、M&Aのデューデリジェンス担当など、専門性の高い人材ほど、個人主義的な価値観は強くなりやすい。
このような従業員の個人主義の進行に対して、経営者が危機感をもち、バーベキュー大会や社員旅行を企画することもある。しかし、そういった施策がブラック企業っぽいと逆効果を生んでしまうことも珍しくはない。企業文化を醸成したいが、下手な施策はブラック企業だと言われてしまうジレンマが経営者にはある。

競争優位の源泉としての人材

経営学の基本として、「競合他社に最も真似されにくい競争優位の源泉は人材」というものがある。特に、伝統的な日本的経営では、人材の同質性からくる強固な一体感から生み出される、「低価格・高品質・高信頼性」という商品とサービスが強みを生み出してきた。
しかし、働き方の多様化を進め、多様なバックグラウンドを持つ人が働きやすい環境を整えた結果、日本企業の競争優位の源泉となってきた「人材」が維持できているのかが見えなくなってきた。
行き過ぎた個人主義の結果、人材から生み出される競争優位が損なわれるという現象は、米国で早くから問題視されてきた。そのため、企業のカルチャーやパーパスを意図的に設計し、デザインする戦略をとる企業が増えてきた。事例としては、GoogleやNetflixが有名だ。欧州では、IKEAが企業文化で価値観を共有することを根底にすることで多様な人材が働きやすい環境を整備しながら、チームとして一体感を持つことを促すことに成功している。日本企業では、SONYのパーパス経営は成功事例の一つだろう。

働き方の多様化が進む中、企業文化は自然発生的に醸成する従来のアプローチではなく、意思をもってデザインすることが肝要だ。


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