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ユーロ圏経済、「底入れ」は不都合な真実?

ECBの先行利下げに何ら違和感なし
今回は欧州に目を向けてみたいと思います。情報が日米に偏るのは仕方が無いのですが、月に何回かは欧州にも目を配り記事を配信したい所存です(欧州関係は皆様、読める記事にしておきます)。

トランプ大統領再選、いわゆる「もしトラ」を控えて政治的な挙動が注目を集める欧州ですが、その件は別の機会に議論するとして、今回は「FRBに先んじてECBが6月にも利下げに踏み切る」というシナリオがほぼ確実視されている状況について考えてみます。これはユーロ圏消費者物価指数(HICP)の鈍化傾向を受けての決断と考えら、確かに懸案だった域内のサービス物価も確かに下がってきました:

しかし、そもそもユーロ圏経済が米国経済に比べて脆弱性を抱えているという点もECBの6月利下げを正当化してきた部分があります。例えば実質GDP成長率(前期比年率)に関し、2023年4~6月期から2024年1~3月期までの4四半期平均で比較した場合、米国の+3.0%に対し、ユーロ圏は+0.4%です:

ちなみに日本は▲0.3%であり、突出して弱いです。にもかかわらず円安抑止のために日銀の追加利上げが模索される状況は非常に苦しいと言わざるを得ないでしょう

話を欧米比較に戻せば、米国とユーロ圏では実体経済の現状について雲泥の差があるわけです。インフレ率だけを見ているとそれほどの格差を感じないわけですが、成長率だけを見ればECBが先行して利下げすることに何ら違和感はありません。こうした過去1年の流れを見る限り、ECB利下げは必然の帰結にも思えます。
 
「底入れ」という不都合な真実
しかし、4月末に公表された2024年1~3月期の実質GDP成長率(速報値)に関し、ユーロ圏は前期比+0.3%(前期比年率+1.3%、以下特に断らない限り前期比)と3四半期ぶりのプラス成長に復帰したことも報じられています:

これは昨年10~12月期が横ばいから同▲0.1%に下方修正されたことの影響も含んでいますが(これにより2023年7~12月はテクニカル・リセッションに陥っていたことになります)、 これから利下げをしようというタイミングで景気の底入れが確認されていることについてやや気持ち悪さも覚えます

本稿執筆時点で需要項目別の数字は未発表ですが、国別に見ればユーロ圏20か国全てがプラス成長を記録しており、これも久しく見られなかった構図でもあります。特筆されるのはやはりドイツで、前期の同▲0.5%から同+0.2%へ増勢を取り戻しています。そのほかフランス(同+0.1%→同+0.2%)、イタリア(同+0.1%→同+0.3%)と加速が見られ、スペイン(同+0.7%→同+0.7%)も高い成長率を維持するなど、4大国全てが堅調です

ちなみにこうしたユーロ圏経済の底入れは毎月のPMIから推察されたもので、図に示すように、多くの加盟国が判断の分かれ目となる50を割り込んでいるものの、最悪期を脱したというイメージは強く抱かれます:

繰り返しになるが、こうした状況を前に利下げが始まろうとしている難しさは知っておきたいところです。6月利下げを概ねコミットしてしまったECBにとって底入れは不都合な真実に映るかもしれません
 
7月以降は完全に白紙
以下の日経新聞によるシュナーベル理事のインタビューでも確認されていますが、ラガルドECB総裁を筆頭として多くのECB高官が「6月利下げを確実だが、その後は未定」というスタンスを強調しています。これは、そもそも「6月利下げをコミットしてしまったことの不味さ」も多少は感じているからかもしれません。後講釈ではありますが、1月時点から「妥結賃金統計の明らかになる5月末までは現状維持」という点を強調し過ぎたことで「ということは6月に(利下げへ)動く」と市場は済し崩し的に織り込んでしまったように思えます。早過ぎる、時間軸の長いコミットメントはリスクを伴います、もちろん、3月や4月時点のECBは確かに6月利下げの必要性を感じていたかもしれないし、先行する求人広告データを踏まえればほぼ確実に妥結賃金の減速は約束されてはいます:

しかし、一時的な指数の乖離も想定されるところではあり、果たして現在も3月や4月当時と同様の自信をもって6月6日会合の利下げを考えているのか定かではありません。いずれにせよ、現在入手可能なデータを踏まえる限り、7月以降の利下げは完全に白紙と考えておくべきでしょう

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