「価値観を変える人」の特徴3つ
「価値観を変える人、変化をうむ人」とは、何をする人か。それは、私たちが自己理解を深めることを助ける人であり、私たちを異なる価値観に触れさせて刺激する人です。「変われ!」と声高に主張するような人ではありません。
この人たちの特徴を3つ、あげてみます。
価値観を変える人の特徴を3つ
複数の価値観が並び立つとき、私たちは「どちらが正しいのか」という視点で考えがちです。自分の利害が直接関わる課題であるほど、自分の正しさを守りたくなります。一方、「価値観を変える人、変化をうむ人」は複数の価値観を俯瞰する視点を持っています。自分の価値観はもちろん保持した上で、自分の価値観と異なる価値観をフラットに並べ「それぞれに理がある」という視点も持てる。そうした俯瞰視点を持つ人の前では、私たちは自分の価値観を主張せねば!というガードを少しおろし、他の価値観に理を認める余裕が持てます。自分の価値観と他の価値観を比較することで、私たちは自己理解を深めます。
私たちは「変われ!」と命じられたからといって変化するものではありません。むしろ反発を覚えて頑なになることさえあります。私たちが変化するのは、変化していく人をみて「いいな、真似したい」と感じるときではないでしょうか。加えて、周りの人々が変化していくと、半ば無意識のうちに自分も変化する、といったこともあるでしょう。ですので「価値観を変える人、変化をうむ人」は、①で異なる価値観を私たちに提示するプロセスの中でその人自身も変化するし、その変化に自覚的な人です。いわば「価値観が変わる」のロールモデルですね。
私たちが異なる価値観に触れるとき、そのままでは理解できず無視や拒否しがちです。ですので、価値観を変える人、変化をうむ人は、私たちの価値観の枠組みに合う形で異なる価値観を提示できる人です。
ちなみに①の態度は「聴く」ことに通じます。というのは、「聴く」とは、聴き手が自分の考えや価値観をいったん脇において、判断をはさまずに相手の話に関心を寄せてただ耳を傾けることだからです。「価値観を変える人、変化をうむ人」は、聴く力を持っていると言えるのではないでしょうか。
上記の観点に基づき、私が直接接点を持ったことのある方々の中から「価値観を変える人、変化をうむ人」を5人挙げました。
深井龍之介さん
ポッドキャスト番組「COTEN RADIO」「a scope」で、歴史や自分学の知見だけでなく、それら専門分野の持つ背景・視点・意図・方法論をふつうに暮らす私たちの文脈に接続して伝えてくれます。また「今回このテーマを学んでみて、深井さんが初めて知ったことや分かったこと」を率直に、そのときの感情や感覚とともに話しておられます。(「びっくりした」「すごく面白くて…」など)。番組を通じて深井さんは、歴史上のある時代・社会にあった異なる価値観に私たちを触れさせて刺激し、「私たちは何者か」「私たちの生きる社会はどのような特性があるか」を探究して、私たちの自己理解を深めることを助けています。
関美和さん
関さんはミリオンセラーの「FACTFULNESS」をはじめ50タイトル以上のビジネス書を翻訳しています。翻訳は、ただ英文を日本語に置き換えているのではありません。著者の背景と意図を理解し、その主張を日本の読者の置かれている背景に持ち込んだ時に、著者の意図がブレずに伝わるよう調整しているのです。関さんの手掛けた作品はどれも読みやすいのですが、それは文章力に加えて文脈の翻訳力が優れているからではないでしょうか。
石川善樹さん
予防医学者の石川さんは、Well-Being for Planet Earth財団の代表として、日本そして世界がwell-being を目指す社会になるよう幅広く活動しています。現在GDPはどの国でも重要な指標です。しかし各国で、GDPが高くなっても人々のwell-beingは上がらないことがわかってきました。GDPを高めれば国民のwell-being が上がると期待していたからGDP向上策がずっととられてきたわけですが、今後はwell-being を上げる施策が必要になるし、まずこの主観的なwell-being を計測できるようにしたい。これが石川さんの活動の出発点です。well-beingという概念それ自体が私たちが自己理解を深めることを助けるものであり、GDPに加えてwell-beingも重視していこうという視座によって石川さんは私たちを異なる価値観に触れさせて刺激してくれています。
リンダ・グラットンさん
リンダ・グラットンさんは「LIFE SHIFT」「LIFE SHIFT2」の2冊を通して「人生100年時代」という大きな変化を私たちにわかりやすく知らせてくれています。長寿と病の克服を願い、医療技術が発展した結果として「人生100年時代」がやってきたのに、老後が不安で不幸せになってしまっては意味がないですよね。長寿になったことに伴って、私たちの家族観や職業観、人生計画のあり方も変化させること、そのために政策や教育制度もアップデートすることで、この変化を意味あるものにしていこうとリンダさんは呼びかけているわけです。
私は、リンダ・グラットンさんの講演を聞き対談に同席するなど、彼女の対話の現場に何回か居合わせたことがあります。そこでリンダさんの応答パターンに気づき、感銘を受けました。さまざまな質問や相手の主張に対し、リンダさんはまずYes... と肯定から話し始め、相手の論点を「こうおっしゃってるのですね」と簡潔にまとめます。そして、However... 「ところがですね」と違った主張やファクトを持ってくる。その後にリンダさんが自身の立ち位置を明示して見解を示すんです。リンダさんと相手の主張が一致していてもしていなくても建設的な対話になるのが、印象的でした。こうした姿勢に基づいているから、リンダさんの主張はともすると厳しい内容だと受け取られかねないところ、脅されているというよりむしろ価値観を気持ちよく変えてもらっている印象になるのだと思います。
安宅和人さん
「シン・ニホン」著者、テクノロジーを用いて都市のオルタナティブを追求していく「風の谷」プロジェクト構想者・発起人、内閣府デジタル・防災技術WG(未来構想チーム)座長…。安宅さんは、日本の未来の方向性について、新たな価値観と具体性で支えられた提言と行動を次々打ち出しています。私が理由を細々説明するまでもないと思いますが、安宅さんは、私たちがほとんど自覚していなかった日本の現状を示すことで私たちの自己理解を助け、分析を通じて得られた新たな視座から見れば未来への具体的な打開策があるんだと、私たちを刺激し続けてくれています。
今日は、以上です。ごきげんよう。