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エンゲル係数上昇の主因は家計の節約

個人消費、食料高が重荷 エンゲル係数43年ぶり高水準 - 日本経済新聞

経済的なゆとりを示す「エンゲル係数」が昨年も上昇しました。エンゲル係数は家計の消費支出に占める食料費の割合であり、食料費は生活する上で最も必需な品目のため、一般に数値が下がると生活水準が上がり、逆に数値が上がると生活水準が下がる目安とされています。

 そこで、エンゲル係数の変化幅を食料品の消費量、すなわち実質食料支出と相対価格、および全体の消費性向と実質実収入、非消費支出に分けて要因分解してみました。すると、実質実収入と実質食料支出および税金や社会保険料などの非消費支出がいずれも押し下げ働く一方、消費性向の低下が+0.9ポイント、食料品の相対物価が+0.3ポイントそれぞれ押し上げ要因になっていることが分かります。
その背景には、賃上げや定額減税などの影響により実質可処分所得が増加したにもかかわらず、節約志向が強まっていることがあります。

年明け以降も、政府がエネルギー価格抑制策の出口に向かっていることや、昨年の天候不順や円安などにより生鮮食品の価格が上昇してきたことから食料品を中心に値上げラッシュを迎えつつあります。加えて、中長期的には世界的な人口の増加や海外の所得水準向上等に伴う需要の拡大や都市化による農地減少等も要因となりますので、食料・エネルギー価格の上昇トレンドは持続する可能性が高いでしょう。

総務省「家計調査」によれば、可処分所得に占める食料・エネルギーの割合は、年収最上位20%の世帯が27.6%程度なのに対して、年収最下位20%の世帯では51.2%程度です。このため、全体の物価が下がる中で食料・エネルギーの価格が上昇すると、特に低所得者層を中心に購入価格上昇を通じて負担感が高まり、購買力を抑えることになります。そして、低所得者層の実質購買力が一段と低下し、富裕層との間の実質的な生活格差は一段と拡大することになるでしょう。

更に深刻なのは、我が国の低所得者帯の割合が上昇傾向にあることです。こうした所得構造の変化は、我が国経済がマクロ安定化政策を誤ったことにより企業や家計がお金をため込む一方で、政府が財政規律を意識して支出が抑制傾向となり、結果として過剰貯蓄を通じて日本国民の購買力が損なわれてきたことを表しています。その結果として我が国では家計全体が貧しくなってきたといえるでしょう。

政府が重視するデフレ脱却には、消費段階での物価上昇だけでなく、国内で生み出された付加価値価格の上昇や国内需要不足の解消、単位あたりの労働コストの上昇が必要となりますが、依然として需要不足は解消されていません。賃金の上昇により国内需要が強まる『良い物価上昇』がもたらされるためには、持続的な実質賃金の上昇が不可欠となるでしょう。


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