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「コミュニティ思考」はコロナ禍の「働く・生きる」の礎になる

 Potage株式会社代表取締役 コミュニティ・アクセラレーターの河原あずさです。「コミュニティ思考」という概念を提唱して、日々活動しています。

 ひとりひとりや企業、サービスやプロダクトが持つ固有の価値=「個」を可視化し、引き出し、他の「個」と混ぜ合わせることで新しい価値をつくりたい。「個」それぞれが輝くように伴走していきたい。そんな思いを「コミュニティ・アクセラレーター」という肩書と「Potage(ポタージュ)」という屋号にこめています。理想的なコミュニティやチームにおいて「個」は打ち消しあうものではなく、溶け合うものです。個がほかの個を引き立てあえる。コミュニティ思考を通じて、そんな世の中を作り上げたいと考えています。

 

 ところで「コミュニティづくりの教科書」という本を出版してから、少なくないコミュニティマネージャーの方から、自分たちの仕事の意義や、目指すべきキャリアについて聞かれることがありました。中には、会社から「コミュニティをやってね」と言われて、コミュニティマネージャーにいきなりなった方もいらっしゃいました。今までにあまりない概念の職業だったので、モデルケースが少ないことからくる不安や所在なさを感じる方も、少なくないのかもしれません。

 けど、私は、コミュニティマネージャーが日々実践している行動指針である「コミュニティ思考」が、この不確実な時代において、コミュニティマネージャーのみならず、あらゆるビジネスパーソンにとって大事なスキルになっていると考えています。起業家、経営者、マネジメント、営業、クリエイター……ありとあらゆる職種で、このコミュニティ思考は大事な「行動を決める軸」になっているのです。

 今日はそんな「コミュニティ思考」の考え方について、解説できればと思います。最後までお読みいただき、いいねを押していただけると、大変うれしいです。

※小売企業である「無印良品」が地元と店舗の接点づくりのために「コミュニティマネージャー」を配置しているというとても示唆的な記事です。ご参考。

誰とつながるかが大事な時代になっている

 コミュニティマネージャーという肩書で活動をされている方の中には、突然コミュニティを仕事にすることになり戸惑っている人も、もしかしたら多いかもしれません。コミュニティマネージャーは職種としてまだまだ新しく、お手本もそこまで多くありません。また、仮にキャリアアップを考えたときに、コミュニティでつちかった経験がどのように今後役立っているのかのイメージが、まだついていない方もいるかもしれません。

 しかし私は、コミュニティマネージャーの経験やスキルは、今後、みなさんがビジネスをしていく上で、また社会生活を営む上で、とても重要なものになると考えています。

 コミュニティを盛り上げるということは、人と人のつながりを生かして、新しい価値を生み出していくということです。その際に、何が重要かというと「誰とつながるか」です。何が何でも人をかき集めるということではなく、自分たちの活動目的(ビジョン)の実現のためには誰とつながったらいいのかを踏まえて、つながりをつくる必要があるのです。

 そしてこれは、ビジネスコミュニティに限った話ではありません。1人の人間として生きていく上で、どんな人たちとのつながりを大事にするのかが、不確実性が高まる時代において、より重要になっています。

都市化とインターネットの普及が生み出した「孤独」

 まずは現代の人のつながりの特徴をとらえるために、歴史をさかのぼって解説します。

 歴史上、人々のコミュニティ観を変えるきっかけが2つありました。「都市化」「インターネットの普及」です。

 人類の歴史において、コミュニティの姿を大きく変えた出来事の1つが「産業革命」です。それまで血縁や地縁、宗教などで生まれた関係性で構成されていたコミュニティは「都市」の誕生により「たまたまその場所に集まった人たち」によるご近所の集まりへと変化しました。そして高度経済成長を経て、核家族化は進み、ご近所付き合いも徐々に限定的になり、家庭と職場という2つの場で人間関係が完結する状況が生まれました。

 インターネットの普及は、SNSなどを通じて、お互いの興味関心の軸で人を集めることにつながりました。90年代のパソコン通信の時代やインターネット誕生初期は、バーチャル空間で人がつながるのはまだ一般的ではありませんでしたが、スマートフォンの登場や、TwitterやFacebookの流行により、誰もが常時ネット空間につながり、交流をすることができるようになりました。

 インターネット、とりわけSNSの普及は、もちろんメリットもたくさんありますが、関わる人たちの数もどんどん増え、たくさんの情報量を扱う必要があります。しかし私たちの時間には限りがあり、処理できる情報量にも限度があります。また、対面コミュニケーションより難しいSNSでのコミュニケーションは新たなストレスを生み出し、結果、スマホ疲れ、SNS疲れといった現象も生まれています。

 家庭と職場を往復して完結する、人間関係が限定される生活の中で、スマートフォンなどを通じて大量に入ってくる情報へのストレスを抱えて生きる現代人は、大きな孤独感を抱えていると言っていいでしょう。

 そして新型コロナウイルスの流行は、現代人のコミュニケーションのあり方を問い直すきっかけとなりました。在宅勤務を余儀なくされ、同僚とのつながりを確認する場だったオフィスから切り離された会社員たちは、より大きな孤独を抱える結果になっています。オンライン会議ツールやグループウェアで交流するものの、物足りなさを覚える人たちがほとんどです。

 生活の不安も増していく中で、プライベートで孤独感を抱えるケースも増えています。そこにSNSやメディアから大量の情報が流れ込んでくるストレスが追い討ちをかけます。つながりの希薄化と、心理的安全性の低下が、多くの人たちの孤独感を生み出しているのです。

孤独な社会において再認識されるつながりの重要性

 ますます不確実性の高まる時代。こんな時代だからこそ、「人と人のつながり」がより重要になってきます。それを証明しているのが、上手にコミュニティと関わり、価値を生み出しているコミュニティマネージャーたちの姿です。

 日本では、東日本大震災の後、SNSを通じて課題解決に取り組む人たちが集まり、数多くのコミュニティが誕生しました。被災地には外からたくさんの人たちが集結し、それぞれの得意分野を生かして復興に取り組みました。また、被災地支援のためだけではなく、地域コミュニティの課題解決や活性化のために非営利活動を行うコミュニティがたくさん生まれました。家庭、職場に続く第3の活動の場所という意味の「サードプレイス」という概念が日本で広がったのは、東日本大震災の後です。サードプレイスは、非営利活動、ボランティア活動、課外活動を示し、社会で危機的な状況が起きると広がる傾向があります。ちなみに、アメリカでは、9.11のニューヨーク同時多発テロの後に、自分たちの抱える問題意識について話し合う場「ミートアップ」が広がりました。

 危機の時こそ、人はつながりをつくり、身の回りの課題に立ち向かいます。そして「共に乗り越える」という結束感は、コミュニティの熱量を上げ、さらにつながりを濃くしていきます。

 濃いつながりと熱量があるコミュニティは、世の中の課題を解決する新しい価値を生み出します。その旗振り役になっているのが、それぞれのコミュニティのビジョンと文化をつくり率いているコミュニティマネージャーたちです。当人たちは、NPOの代表だったり、起業家だったり、クリエイター、建築家、アーティスト、デザイナーなど、それぞれの肩書きはさまざまです。彼ら彼女らは「コミュニティマネージャー」という肩書きを名乗らないことが多いですが、それぞれの役割や考え方、働き方をみると、コミュニティマネージャーのあるべき姿そのものなのです。

 今回の新型コロナウイルスの産んだ大きな課題は、対面コミュニケーションにおける制約です。1つの場に人を集めづらくなったり、移動して人と会うことのハードルが上がっています。しかし、そのような状況下でも、時代の変化に敏感なコミュニティマネージャーたちは、SNSやオンライン会議ツールを駆使して、オンラインイベントの開催や遠隔ミーティングを重ねることで、仲間と共に、つながりを深める実験を繰り返しています。コミュニケーションの形が大きく変容している中で「いかに周りの人たちとのつながりをつくりあげるか」が、危機を共に乗り越え、より充実感のある生活をつくることを知っているからです。

不確実性の高い時代に必要な「コミュニティ思考」

 ではこの大きな変化の時代に、どのようなコミュニケーションを作り上げればいいのでしょうか。私は、この大きなヒントが、コミュニティマネージャーの働き方や考え方に隠れていると考えています。

 つながりを上手につくり、熱量あるコミュニティを生み出し、世の中に価値を届けられているコミュニティマネージャーたちは、自身の仕事の方向性を明確にしています。第1章でも述べた通り、「ビジョン」が方向性を決める上で重要になります。

 自分は、誰を相手に、何を達成しようとしているのか。その目的を明確にすること。

 そして、自身に関わってくれる人たちや、社会全体にどんなメリットを与えるのか。

 この要素を言語化し、意思決定の判断基準「パーソナルビジョン」としているのです。

 コミュニティの方向性は「ビジョン」と「ターゲット」で構成されると第1章で説明しました。これはコミュニティマネージャー個人についても同様で、パーソナルビジョンだけではなく、ターゲット(仲間にする人たち)も明確にしています。誰に対して、どんな人と一緒に、どんな価値を提供するか。それを決めた上で行動しているのです。

 ビジョンとターゲットを定めた上で、個人の意思決定の判断基準にする考え方ーー私はこれを「コミュニティ思考」と呼んでいます。コミュニティ思考は、以下の3つの要素で成立しています。

①ビジョンを行動基準にする 活動の目的を言葉にして、それを軸に行動すること。
②仲間と対等に接する 心理的安全性をベースに対等な人間関係を構築すること。
③仲間のために動く 仲間の目的のためにできることを考え、実行すること。

 コミュニティマネージャーは、コミュニティのビジョンをつくり、それを背骨として行動を決定します。同じように、「コミュニティ思考」においては、自分自身のパーソナルビジョンをつくり、行動を決定します。結果、外部の環境変化に左右されない意思決定ができるようになるのです。

 コミュニティづくりと同様に、パーソナルビジョンを通して「仲間」をつくることは、行動の精度向上につながります。仲間とは、ビジョンに共感し、活動を助けてくれる人のことです。「あなたの活動に共感するから何かあったら相談してね」という姿勢で関わってくれる人をどれだけ巻き込めるかが重要になってくるのです。

 仲間づくりには、コミュニティマネージャーとしての素養ーー感情知性(EQ)や、ファシリテーション能力を活かす必要があります。自身の欲求だけではなく、対等な立場で仲間の気持ちや目的意識に寄り添い、実践を繰り返しながら、お互いの持つ課題への最適解を生み出していくことが必要です。

 その結果、「コミュニティ思考」を下に動いているビジネスパーソンは、それぞれの活動を助けあえる「自分たちのためのコミュニティ」を形成できるのです。

 実際、新しい価値を生み出している起業家、クリエイター、ビジネスパーソンの中に、このような「コミュニティ思考」を基に動いて成果を上げている人たちが増えています。

 今までのビジネスパーソンの働き方は、与えられた目標や、固定化した(上下関係をベースにした)人間関係の中で成立していました。しかし、「コミュニティ思考」を元にした働き方は、自分で目的(ビジョン)を決め、流動的に動いて共感してくれる仲間をつくります。そして、仲間と一緒に対等な関係を築きながら、共通のゴールに向かって一緒に進んでいくのです。

企業にも必要な「コミュニティ思考」

 個人だけではありません。企業にとっても「コミュニティ思考」は重要な考え方になっています。

 既存事業がなかなか伸びず、市場環境も大きく変化する中で、新規事業立ち上げの重要性が大企業において増しています。大企業の新規事業創造の現場では「オープンイノベーション」というキーワードで、さまざまな会社間コラボレーションが行われています。オープンイノベーションにおいて重要なのは、他社の力を借りて、自社の事業立ち上げのスピードと精度を上げることです。

 社内で新規事業のプロジェクトチームを立ち上げる場合、与えられる時間と資源(資金・人的リソース)は限られています。その制限の中で、異なる組織から選抜されたチームメンバーから意見を引き出し、目的に向かうプロセスにおいて「コミュニティ思考」が役立つのです。

 なぜそのプロジェクトを推進するのかビジョンを決め、ストーリーを伝えることでチームメンバーの共感を生み、巻き込んでいきます。そして「心理的安全性」を担保したチームづくりをすることで活発でオープンな議論を生み出し、プロジェクトを推進できるのです。こうして社内外の知見や経験を混ぜ合わさり、成果につながっていくのです。

組織マネジメントの基礎になっていくコミュニティ思考

 皆さんは「ティール組織」という言葉ををご存知でしょうか。経営者向けのアドバイザーをしているフレデリック・ラルーが、世界中の組織を分析した上で2014年に上梓した著書『Reinventing Organizations』で提唱した組織理論のことです。ラルーは、組織の進化過程を5つに分類した上で、それぞれのモデルを色分けしており、5つ目の組織モデルをティール(青緑色)で表しています。

 ティール組織は、組織の最新の進化形態と言われています。ピラミッド構造をしていない水平組織で、上司部下の関係性が存在していません。メンバー全員に裁量が渡され、それぞれが自律的に動き協力しあいながら、社会に対する価値提供のために動くのが特徴です。多くのグローバル企業でも既に取り入れられており、例えばオランダで在宅看護を提供するNPOのビュートゾルフ、アメリカのアウトドアアパレルのパタゴニア、同じくアメリカの食品加工会社・モーニングスターが事例として有名です。

 組織においてティール組織を実現する条件として、ラルーは3つの条件があると述べています。

1:セルフマネジメント
権限移譲を進めて、組織運営をピラミッド構造からフラットなものに変容する。
2:ホールネス(全体性)
専門範囲で動く行動を止め、自分自身の個性を開放し、全ての仲間たちと協力しながら行動していく
3:常に進化する目的
メンバー全体で組織体の存在意義について常に考え、何を実現したいかという「目的」を基準にして行動を決めていく。そして「目的」は状況に応じて、変化させていく。

 この3つの条件は、コミュニティ思考の考え方そのものを示しています。ビジョンを行動の基準にし(①ビジョンを行動基準にする)メンバーは上下関係ではなく対等な関係を持ち(②仲間と対等に接する)お互いの目的の達成に向けて、協力しあいながらチームに関わっていきます。(③仲間のビジョンのために動く)

 そしてティール組織におけるCEOの役割についてもラル―は条件を述べています。「外に対する組織の顔である」「組織が望む方向性のセンサー役になる」「組織のモデルケース」になる」。これらは、コミュニティにおけるコミュニティマネージャーに求められる役割と合致します。

 ティール組織の例は、最先端の組織運営において、コミュニティ思考が重要視されていること、そして、コミュニティマネージャーの素養が、企業運営においても必要とされる時代になっていることを示しているのです。

「どこで働くか」ではなく「誰と働くか」が重要になる

 これまでの時代は「どこで働くか」が重要視される時代でした。例えば、有名な大企業で働く、グローバル企業で働く、東京のおしゃれなオフィスで働く、などなど。しかし、新型コロナウイルスの流行により、在宅勤務に急遽切り替わったビジネスパーソンが気づいたのは、どちらかというと「同僚と会えなくてさびしい」という気持ちや、「会社にいくことで担保されていた自分自身の存在の所在無さ」でした。それまで、決められた時間に一つの場所に大勢が集まり、つながりを確認することで保たれていた自身の存在意義が、かりそめのものだと気付かされたのです。

 一方で、コミュニティ思考を下に働いているビジネスパーソンは、「どこで働くか」をそれほど重要視していません。行動の軸が自身や仲間のビジョンなので、目的を達成するために、複数の組織に属したり、複数の拠点で生活したり、世界中を飛び回ったり、たくさんの肩書きを持ったりします。

 むしろ彼ら彼女らが重要視しているのは、「誰と働くか」です。自身も共感できるビジョンを持つ人と共に行動し、助け合いながら一緒に目的を達成しようとするためです。ビジョンのつながりには場所や所属の制約はないので、遠い拠点に住む人とSNSやオンライン会議を駆使して、仕事を進めることができます。新型コロナウイルスの流行で対面コミュニケーションの制約が生まれたと書きましたが、彼ら彼女らは、もともと対面コミュニケーションの制約がある中で仕事をしてきたので、このような異常事態にも、悪影響を最小限にとどめることができるのです。

 コミュニティづくりと一緒で、ビジネスパーソンが自身のビジョンを達成しようとするとき、最初の仲間は多くても10人程度です。しかし、お互いにビジョンを交換し、仲間が新しい仲間をつれてきて、一緒に助け合う関係性をつくれると、仲間の数はどんどん増えていきます。インフルエンサーと本書で呼んでいるような、影響力のある仲間も増えてきます。あるいは、もともと弱い関係性だった人たちだけでなく、家族や昔からの友人が応援してくれるようにもなります。仕事とプライベート両面で、関わる人たちとの「関係の質」が向上し、それが「結果の質」の向上につながり、新しい価値を生み出せるようになります。(MITダニエル・キム教授が提唱する「関係の質」の話を思い出してください。)

 コミュニティ思考において、働くことは「お金を稼ぐ手段」や「地位(ステータス)を得る手段」ではなく、自身のためのコミュニティを形成し「一緒にビジョンをかなえる仲間とつながる手段」へと変化します。「都市化」や「インターネットの普及」が生み出した現代の孤独感を、充実感に変える武器にもなるのです。


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